第29話 あらやだ! これは思った以上の曲者だわねぇ?

「煮物なんて一番簡単なのよ」


 そんなの絶対嘘。


「材料全部ぶちこんでー。はい、全部入れちゃいなさい。大丈夫、それもう皮剥いてるやつなんだから」


 既に皮を剥かれ、一口大とかいう大きさに切られてパウチされている『お手軽煮物セット』の中身を鍋の中に入れる。


「ほんとはお肉も炒めた方が良いけど、省略省略~。死にはしないんだから、オッケーオッケ~! はい、肉も投入~! ナイスよみくちゃん、ちゃんとこま切れ買ってきたのね」


 言われるがままにパックの肉も全部入れて。


「はい、お水入れるわよぉ~。具がギリギリ隠れるくらいね。顆粒だしは……っと、あ~ら、優秀! あるじゃなぁい! はい、スプーンで掬って……あぁちょっと多いわねぇ。そうそう、それくらい。はい、まずはがーっと強火よ、みくちゃん」

「えっ? つ、強火で良いんですか?」


 良いの良いの、という言葉を少々疑いながらもつまみを『強火』にする。けれど、私が恐れているような――つまり、吹きこぼれるとか、丸焦げになるとか、そんなことは起こらなかった。そりゃそうだ。まだ水なんだから。そうか、沸騰するまでは大丈夫なんだ。


 しばらく2人で鍋を見つめていると、ぷくぷくと泡が出てきた。


「よ、ヨシエさんっ! ぶくぶくしてきました! それに何か、茶色い泡? 泡みたいなのが!」

「はいはい、大丈夫よみくちゃん。その茶色いのはね、アクっていうの。取るわよ」

「と、取る……? 手で……? 火傷しちゃうんじゃ……。え、えいっ! あっつ!!」


 と、指先でちょい、と茶色い泡をつついてみる。

 するとヨシエさんは「ちょっと何やってんの!?」と声を上げた。


「だって、ヨシエさんがこれ取るって言うから……」

「素手で取るわけないでしょ! 色々方法があるのよ、みくちゃん」

「早く言ってくださいよぉ……」

「言う前にみくちゃんが手を突っ込んだのよ!」


 だって、何か汚い感じに見えたから早く取らないとって思ったんだもん。


「こりゃあ思った以上だったわぁ……。アルミホイルにしとけば良かったわねぇ。見当たらなかったのよねぇ」


 そう言って、ヨシエさんは、はあぁ、と大きなため息をついた。


 何か、ごめんって。


 でも、アルミホイルって何に使うの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る