第6話 あらやだ! 身体、鈍っちゃってるじゃない!

「はぁ……」


 うざい。


「はぁ――……」


 マジうざい。


「はぁぁぁぁぁ――」

「何なんですか、さっきから!」


 かれこれ30分ほど、ヨシエさんは私をチラチラ見てはわざとらしいため息をついているのである。うざったいことこの上なし。


「痩せたいわぁー」

「は?」

「痩せたいわぁー、って言ったの」

「それで私に何を求めてるんですか」


 昨日、スカートのボタンを弾けさせてパンツを大サービスしたヨシエさんは、今日はウエストがゴムのスカートで現れた。

 ヨシエさんは、私が朝(ぎりぎり午前中)起きるとすでに定位置にいる。ここに住んでいるのかと思いきや、夜中はどこにもいない。一度トイレで起きた時に確認したのだが、定位置であるテーブルの上には折りたたまれたタオルしかなかった。


 ウエストがゴムのスカートを履いといて、痩せたいとは、このババア……。


「運動したら良いんじゃないですか」

「そうよねぇ。あたしこれでも昔はね? バレー部だったのよ?」


 ほんとかよ、そのサイズで。

 と思ったけど、もしかしたら小さいおばさん界では大きい方なのかもしれない。


「残念ながら背は伸びなかったけどね、その分小回りが利くっていうのかしら。小回り~楽々~って、軽自動車のCMあったわよね。そういう感じ、うん」


 どんな感じだよ。

 いまはもうワゴン車じゃないか。

 ていうか、結局小さい方なのかよ。


 まぁでも、バレーやってたんなら、本来はしゃきしゃき動ける人なんだろう。いまは見る影もないけど。

 

 とりあえずティッシュを2枚ほど取って、くしゃくしゃと丸める。それをヨシエさんに向かってふわりと投げた。


「はい、そぉーれっ」

「えっ?! 何? 何何? あたぁ!?」


 緩やかな弧を描いたティッシュボールは、わたわたと右往左往していたヨシエさんの頭にぽこん、と当たった。一応手だけはレシーブの構えだったけど。うん、さすが元バレー部。でも、痛いわけないじゃん。ティッシュだよ?


「いやだわぁ、身体、鈍っちゃったわねぇ。うん、でも汗かいたわぁ。みくちゃん、お茶」


 ちょっと待って。

 いまのこの動きだけで運動終了する気?!


「明日は筋肉痛かもしれないわねぇ~、アーッハッハッハッ!」


 こんなの運動のうちに入るか!



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