この空に溺れる

雨咲 リリィ

1冊目

離れたい。この現実から。


____何も、生きるのが辛いだとか、いじめられているだとか、そういった深刻な理由は一つもない。友達は少ないけれど、それでも私の話に嫌な顔一つせず付き合ってくれる良い友人がいた。


ただ、味気なくて、堅苦しくて、

まるで色が抜けたような「現実」に飽きただけ。


。*.。*.。*


整備されていない細い川の土手。水流の音と蛍のほのかな光が、時間帯に合った物寂しい雰囲気を演出する。

かと思えば、背後からは雑草を踏む足音が、男女の混ざった声が、幾つも重なって耳に入る。


静かなままでよかったのに、と零す。

制服のスカートがそよ風に揺れる。煙のような匂いが、記憶として鼻に残っている。そして、焦げてしまった十円玉の色も、弟の泣き顔も。


思い返すほど鮮明な光景が蘇ってきて、そこで思考を止めた。


代わりにまた自分の世界に潜ることにして、背後の人々から逃げるように歩くスピードを上げた。「ねえちゃん」と呼ぶのが聞こえたけれど、耳に入らないふりをして歩き続ける。

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