TwiLight~トワイライト~

みかん

prologue-詩織-

私達は、戦友であり、親友だった。

翡翠女学院。六芒星を模した校章が有名な進学校。

そこで、私たちは出会ったんだ。


その厳格さから、「鳥籠」と謳われる私たちの学校。

抑圧の中での自由と権力を求めて、生徒は競い合う。勉学・運動・芸術―この学校の中で、友達はただの友達ではなく、戦友だった。切磋琢磨し、生徒たちはそれぞれの才能を開花させ、卒業していく―それが県下一の進学校となった所以だろうか。

しかし、翡翠女学院にはその特異性を特異性たらしめる一つの伝統があった。

それが「タレント」というものだった。

卒業時、特に優秀な生徒に与えられる「才能」である。

タレントを持ったものは、さながら魔法使いのように、あらゆる特殊能力を使えるという。進学するにしても、就職するにしても、タレント持ちは優遇される。


私の姉も、タレント持ちだった。私も姉さんのようになりたい。そう思って入学した。もちろん周りは優秀な子ばかり。入学式で内心怯えていた私の隣に座っていたのが柊だった。

「キミ、手が震えてるよ」

そう話しかけられたのが、最初だ。

私の手に重ねられた彼女の手。その手はとても暖かくて、少し安心した。

「うん。…ちょっと緊張しちゃって」

「あたしも内心ドキドキしてる。キミも狙ってるんでしょ?」

そう―規則も厳しく、青春の全てを捨ててでも入学する者が絶えないのは、「タレント」を皆が求めるからだ。

『聖書の教えに「タラントンの例え話」というものがあります』

前で校長が話し始める。

『ある人が旅に出るとき、三人のしもべたちを呼んでお金を預けていったそうです。

それぞれの才に応じ、ある者には5タラントン、もう一人には2タラントン、残った一人には1タラントンを預けました。主人が旅に出ている間、5タラントンを預かった者はそれを元手に商売をし10タラントンを儲け、2タラントンを預かった者も2タラントン儲けました。しかし最後の一人は預かった1タラントンを土に埋め隠してしまったのです。

やがて主人が帰り、3人は預かったお金の清算を始めました。5タラントン預かったものと2タラントン預かったものは預かったお金を元手に儲けたことを報告すると、主人は「よくやった」と称賛し、より多くの財産を管理させることにしました。しかし1タラントンを土に埋めた者がそのことを主人に報告すると「怠け者の悪いしもべだ」と、1タラントンを取り上げ10タラントン儲けたものに渡してしまいました』

柊が「これが格差か…」と呟いたのを聞いて、私は思わず笑ってしまった。

『この教えは"だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる"ということです。いまではタラントンは才能という意味をもつ「タレント」という単語に変わっています。―入学する皆さん、あなたたちの才能をわが校で存分に磨いてください。間違っても土に埋めてしまう、というような愚かな真似はしないように』

一息ついて、校長は再び口を開いた。

『そして卒業の時、もっとも才能を輝かせた者には、わが校から特別な贈り物があります―それまで、互いに切磋琢磨し合い、充実した学園生活を送ってくださるよう祈っています』

入学式が終わり、私は柊と一緒に帰宅することにした。

「あたしは親に言われてここに入学したけどさ、あんまり「タレント」にも興味ないし、無難に学院生活を送れればいいかな」

柊は新品のカバンをゆらゆらと振り回しながら私に言った。

「そうなの?私は欲しいかな、タレント…お姉ちゃんも持っていたし」

「そうなんだ。でもあんまりいい噂聞かないんだよね…『タレント持ち』については、さ」

柊は心配そうな顔をする。

「ま、あたしは今日詩織に会えただけで入学した価値は十分にあると思ってるよ」

これからずっと親友だよ、詩織。

そういって微笑んだ柊の顔は、今でも脳裏にこびりついている。







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