パーフェクトファンタジーオンライン

Ohm

obein作:絆ブレイク

 近頃話題になっているゲームを買った。ゲームの名前はパーフェクトファンタジーオンライン。友達と三人で買いプレイしているが、今の所新しいバグには遭遇していない。

 自室の椅子に座ったまま雑誌から顔を上げて時計を見ると集合時間の20時に近かった。手を伸ばして近くに転がしていた接続用の線を取ってうなじに取り付けられた接続口に差し込むと、部品が動く音と振動がして机の上に置いていたスイッチが点灯した。

 手に取ったスイッチを押すと全ての感覚が一斉に消滅し、光や音に至る感覚が戻ってくる。本体から送られてくる信号は脳に別の感覚を与え、脳からの信号はゲームのサーバーへと送られてゲームに反映されていく。膨大な情報量は量子通信によってラグなく送受信される。


「何度やっても感動する」


目の前に広がるのはアニメで描かれるような定番の風景だ。それでもそれが目の前に見て感じられるのは感動する。

少しレベル上げでもしようと一歩踏み出し、俺は奈落に落ちた。このゲームの欠点はバグの多さだな。

バグを最初に報告した人には報酬が与えられる仕様だが、このバグはすでに報告されて何か月も放置されている。最悪だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 左手で持った盾でリザードマンの剣を防ぎ、曲刀で切りかかるとリザードマンは持っていた盾で受け止めるが盾特攻のおかげでリザードマンの盾が破壊された。

 盾で殴り飛ばしてリザードマンの体勢を崩しとどめを刺す。どれだけのレベル差があろうと体を動かして戦うおかげで楽しめる。倒したリザードマンが塵となっていくにつれて水色のクリスタルが見えてきた。


「良い物来い」


 そう呟きながら手に取って確認する。取れたのは片手斧アマルガムCommonTier1、特殊効果は攻撃力+6。まごうこと無きゴミ武器だ。

 売っても意味がないと投げ捨てて次の獲物を探す為に歩いていると誰かが走ってきた。振り向いて見ると銃を持った友達だった。


「遅れてごめん」


「おせぇよ」


 遅れてきた仲間と話をしながらいつもの堀場へ向かう。

 このゲームではリスポーンした敵に個体差がつくことがあり、その中でもMutationと呼ばれる特異な武器を落とす個体差を持ったモンスターが出やすい思う場所だ。いつも通りの順路で周りながらモンスターを殲滅していると、初めて一時間ほどでMutationの個体差を持つモンスターが現れた。

 ミノタウロスは突進や手に持った斧を振りながら、本来使わない雷属性の広範囲魔法を使う。Mutationは本来使わない魔法などを使うようになるから厄介すぎる。

 自分が前に出て引きつけつつ、弱点を友達に撃たせることで危なげなく倒すことが出来た。どうせ何も来ないだろうなと思いつつドロップ品に近寄ると、一つだけ壊れた装備が落ちていた。壊れた装備は町で修復しないと名前を含む全てのステータスが隠されている。

 だがそれは重要なことではない。壊れた装備は最高レアリティのEpicがなりやすい。確かステータスの知識が高ければ鑑定で隠されたステータスを確認できたはずだ。


「おい、これ鑑定してくれよ」


 後ろにいる友達に声をかけるが、返事がない。疑問に思って振り返ると、友達は銃を構える動作をなんども行っていた。その光景はなんともシュールだ。


「何やってんの?」


「いや、なんか同期……ズレ?」


「喋れてる時点で同期ズレじゃないぞ」


「これがバグか!」


 バグによって友達は銃を構える動作を淡々と続けている。顔は普通なのに首から下は別の動作をしている。その阿保らしい光景に笑ってしまう。


「笑うな! 早く助けろ」


「どうすればいい?」


「タックルとかで俺吹き飛ばせ」


 アクティブスキル『タックル』を友達に向かって使う。タックルを食らって友達が吹き飛んで壁に叩きつけられてダメージを追った。もう少し方向を考えるべきだったか。

 友達に近づこうとすると、自分が屈む動作を連続で行い始めた。


「ん?」


 この動作は屈むというよりもタックルが終わった時の動作に近い。

 まさかこれは……。

 顔を友達の方に向けるとこちらに背中を向けており、笑いをこらえているのか肩が揺れている。


「何笑ってんだ」


「ごめん。今助ける」


 友達がアクティブスキルを使おうとしたところで運悪く大量のモンスターがリポップした。運はとことんモンスターの味方をしており、Disasterの個体差を持つモンスターがいる。この個体差はフィールドレベル無視と超強化が施されている。

 友達は明らかに焦っている。後方支援をメインでアクティブスキルとパッシブスキルを組んでいるせいでそこまでの耐久力は無い。


「おい、急げ!」


「無理だって! ノックバック付きはチャージが必要なんだよ!」


 目の前で友達にモンスターが群がりHPが一瞬で無くなった。ポリゴンの破片となって砕け散るのを見て唖然としていると、モンスターの目がこっちに向いている事に気がついた。

 このゲームで久しぶりに恐怖を感じた。

 屈伸のような動作を続ける俺は何も抵抗できずモンスターの大群に袋叩きにされた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


 町でリスポーンして微妙そうな顔をする友達と酒場へ向かった。酒場はこのゲームの現状を表すかの如くガラガラだった。プレイヤーはおらずNPCだけが突っ立っていた。

 席に座って飲み物を買う。腹が膨れる訳ではないが味はする。

 一口飲むと友達が口を開いた。


「あれは酷いな」


「流石このゲームだ」


 落ち込んでいると、バグ報告の報酬について頭に浮かんだ。

 このバグについては掲示板には何もなかった。PFOを遊ぶ以上どのバグが発見されているのかを知るのは当たり前だ。これはもしかしたら報酬が貰えるかもしれない。友達には悪いが、これも強さの為。


「俺バグ報告してくるわ」


「ちょっと待て」


 立ち上がって踵を返したところで友達が腕をつかんだ。


「お前、悪い事考えてるとき少しニヤつくよな」


「そんなことねぇって」


「俺だって知っているぞ。バグ報告の報酬くらいな!」


 不味い、こいつ分かっているのか。

 自分達はクソゲーだと言いながらも、なんだかんだ長年やって愛着も湧いているし強い装備は欲しい。バグ報告による報酬がどれだけ上手いかも分かっている。

 むしろ気がつかない訳が無いか。

 冷静に、そして的確な判断を下す。


「PvPで決めよう」


「そうだな、ゲームだからそうするのが一番だな」


 友達と決闘場まで行って別々の入口に入って待機部屋でメニューを開く。銃の相手は分が悪いので、近づけた一瞬で試合を終わらせるためにクリティカル特化へ装備を変える。

 カウントダウンが終わり、視界の物が消えてフィールドへと飛ばされる。

飛ばされた場所は真っ黒だった。地面も遮蔽物も敵である友達でさえも見えない。暗闇のフィールドなんてあるのか。


「フフフ……」


 すぐ近くで友達の声が聞こえた。周りを確認しながら動こうとして全く動かない事に気がついた。足で地面を蹴って移動しようにも体が固定されているように動かない。

 こんなスキルがあったのか? いつスキルを当てられたのかを頭を回して考えるが全く思い当たらない。

 焦っているところにまた友達が声をかけてくる。


「いい事を教えてやろうか?」


「くそ、どこだ!」


「お前は今、壁に埋まっている」


「嘘だあぁぁぁぁぁぁ!」


「死ねぇぇぇぇ!」


 友達の叫びを聞きながら俺は絶望し、敗北した。

 このゲームを止めようかと真剣に思った。


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件名:バグ報告について

Barm株式会社


平素より大変お世話になっております。

PFOを運営する株式会社Barmの須玖弐番太郎(すぐにばんたろう)と申します。

報告していただいたバグの件ですが、こちらも把握しており解決の為に努力しております。報酬を渡すことは出来ませんが、心より感謝しております。


今後もサービス改善の為に努力してまいりますので、これからもご愛護のほどよろしくお願いいたします。

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