5 気だるいゴブリンⅮ

 今まで我関せずだったゴブリンⅮはわざとらしく、このタイミングを待っていたかのように、よっこらしょ、というような感じで身を起こした。そして、体をほぐすように手を裏にして組んだ両腕を上にあげて、上半身で伸びをした。

 ここでヒーロー登場だ、心の中でそんな風につぶやいてカッコつけている。


「なんだお前、急にしゃべり出しやがって、死んでたのかと思ったぜ、相変わらずイライラさせやがって」


 ゴブリンAはゴブリンⅮのこういうところが嫌いでしょうがなかった。自分がしゃべりたい時だけ偉そうにしゃべり、気がのらない時は皆が積極的にしゃべっても自分は何も言わず、後は任せたぞ、というような上からの態度。

 戦闘の時もそうだ。皆で力を合わそうと団結して突撃しているのに、自分だけ後ろの方から「援護射撃だ」とか言って頼りにならない投石をして満足している。

 しかもその援護射撃として投げた石が自分たちに当たることは一度や二度ではない。

 こいつは全部自分の気分で生きている、ただの自己中ヤローだ。何でこんなヤツがリーダー気取ってやがるんだ、気に食わねえ、ゴブリンAはそんなことをいつも思っていた。


「何でか知らねえがお前がリーダー気取りだから俺たちがそういうことにしてやってんだからな」

  

 ゴブリンAの言葉にゴブリンBは、そうだそうだ、その通りだと、心の中の声が聞えてくるかのように腕を組んで何度かうなずいた。ゴブリンCはというと、どっちの味方をしていいかわからず、おろおろとして困っている。

 もうすぐ勇者たちが来るというのに、何か対策を立てなければならないというのに、いつものことだけど、この険悪な雰囲気はもういい加減たくさんだ。


「わかってる、わかってるさ、そんなことは。お前たちには本当に感謝してるよ」


 ゴブリンⅮは気だるそうにしながらもその目はどこか澄んでいて、それはまるで、オレについて来い、オレが必ず何とかする。と言っているようだった。

 

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