2  ゴブリンたちの憂鬱

「勇者どもがもうすぐここに来るってよ」


 ゴブリンAが、はあ、と憂鬱そうなため息を吐いて、その後にああイライラするぜ、と無意識に言葉を吐いた。


「知ってるっつーのそんなこと、つーよりもモンスター全部が知ってるだろそんな事」


 ゴブリンBが、そんなこと今更言うな、お前に言われなくても知っている。せっかくちょっと忘れてたのによ、と軽く舌打ちをした。その態度を見たゴブリンAが明らかに不快な顔をした。しかし小競り合いとかにはならなかった。


「勇者たちがもうすぐここに……、どうしよう、どうしよう……、どうすんのさこれから」


 ゴブリンCは動揺と混乱の間を行ったり来たりしている。誰かに何とかしてもらいたいかのように顔を右に振り左に振りを繰り返している。


「落ち着けよ、遅かれ早かれ勇者一行がここに辿り着くのはわかってたのだからな」


 ゴブリンⅮはいたって冷静だった。その場で寝っ転がって両手を頭の後ろに敷いて空を眺めている。


「何だよ、やけに余裕じゃねえか、お前には危機感がねえのか」


 ゴブリンAがゴブリンⅮの方を見た。あいつはいつもそうだ、自分がリーダーだと思いあがっている。リーダーはクールじゃないとだめだ、なんて思っているに違いない。


「そうだ、そうだ、勇者どもが来たらオレたちなんか一巻の終わりなんだぞ、リーダーさんよ」


 ゴブリンBもゴブリンAに加わりゴブリンⅮに抗議する。


「……」


 それに対してゴブリンⅮは何も言わない。そのままごろっと体を横に向けた。


「ち、何だよ、何も言わねえのかよ、根性なしめ」

「所詮お前だってただのゴブリンてことじゃねえか」


 ゴブリンAとゴブリンBは嫌味の追撃の言葉をつばを吐くように吐き捨てた。


「やめなよ、勇者たちがくるっていうのに仲間割れしたってしょうがないじゃん」


 ゴブリンCがなだめようとするがたいして効果はなかった。


「ああイラつく、勇者どもが来たら俺ら何かあっという間に全滅だぜ」

「ああ、そりゃまちがいねえわな」


 さっきも言ったことをまた言っている。ゴブリンBはゴブリンAの言葉を否定しなかった。何しろ勇者たちの強さはいまや魔王を倒そうとする一心で成長を続けて、そして魔王と同格までになったのだ。

 それに比べて自分たちは最弱のモンスター、ゴブリンなのだから。

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