無知という特権

 ぼくはコンビニが大好きだ。いつでもラーメンややきそばを買えるし、おいしい弁当やからあげもあるからだ。ポテチとかコーラもうれしい。そんなコンビニの深夜営業が禁止されると聞いて、困った。そんなとき、抵抗しているひとたちのことを知った。ネトゲのついでにネットを見ていたら、生存権を守るももいろリボンという団体の宣伝を見たのだ。

 ももいろリボンは、ぼくらを守るために、政府にはたらきかけていろいろやっているそうだ。そんな立派なひとたちが、ぼくらのために働いてくれるなんて、知らなかった。

 代表のひとは、国会議員の豚田先生と握手している写真をのせていた。豚田先生は、ぼくが支持する大日本右翼党の議員だ。大日本右翼党の政策ほどすばらしいものはない。とくに、徴兵してつよい軍隊を作ろうというのは、他のどこにも言えないことだ。その党の議員なら、まちがいはないはずだ。ぼくが敬愛する首相さまの仲間なのだから。

 とりあえずぼくは、ももいろリボンに寄付することにした。課金を少し我慢して、その分を出す。これなら平気だ。

(埼玉県 23歳)


 ひきこもりの白地終は、写真を一枚見て、行動を始めた。ひきこもりにしては手早い。だが、時々部屋を出てコンビニへ行くついでに用が足りるので、手間は知れていた。

 なるほど、ももいろリボンは、生存権を守る運動だと言っている。その中には、コンビニへの営業規制を止めようというものも含まれている。深夜に買い物をしたい人たちの権利を守ろうというのである。


 私はそんなに頻繁にコンビニに行くわけではない。だが、営業規制には賛成できない。時々用事があるからだ。仕事に明け暮れる中、他の店が開いていない時にも、コンビニなら使える。そういう人の都合を考えないとは、どういうことか。幸い、国会議員にもつながりがあって、力強く働きかけてくれる人たちがいると知った。だから私は、この人たちを応援する。

(千葉県 33歳)


 ブラック企業勤務の笠元労は、表向きもっともらしい理由で、「生存権」を主張する。だが、実際に買っているものは、笠元も白地と変わらないらしい。


 私女だけど、やっぱりコンビニって必要です。特に夜は、大好きなスイーツを買える店がないから。規制するなんて無理!だからももいろリボンさんに活躍してほしいです!

(栃木県 22歳)


 無職の餃子好男に至っては、性別を偽ってまで意見を出していた。ポテトチップスを軸に、ジャンクフーヅと炭酸飲料を買ってばかりいるくせに。


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 これが、彼らの意見とされるものです。

 なるほど、コンビニの深夜営業を支持する意見として、それなりに意味が通じるものではあります。しかし、その限りでも、一つの指摘が可能です。それは、自分の都合だけしか考えていないということです。消費されるエネルギーとか店主や従業員の生活は、一切省みられていません。

 そして、決定的に怪しげなところがあります。その主張が、ももいろリボンへの支持に直結しているというところです。ももいろリボンの主張との整合性に、問題はありません。しかし、何かを見落としているのです。

 この資料をご覧下さい。ももいろリボンが公表している収支です。1回に十万円かかるかどうかの講演会の開催が年に5回、これで支出の2割です。残りの活動については、「その他」とだけ書かれています。具体的な情報はありません。

 ところで、広告費の割合について、皆さんはご存知でしょうか。サーヴィス業の場合、売り上げの2割が相場です。はっきりしないものを売っているももいろリボンの場合、支出側で見ることになりますが、やはり2割です。この数字は、例年あまり変わりません。言い換えると、外から見える講演会事業が広告であると捉えると、辻褄が合うわけです。

 そんな、何をやっているのかわからない、すべてが秘密にされているももいろリボンを相手に、支持するとか簡単に言っている人たちがいる。あっさり信用しているんです、何も知らないのに。

 ここまで頭が悪い人たちがいるものでしょうか。このウェブサイトを造ったのは、名義を書いていないももいろリボン自身なんではないでしょうか。すぐばれるような自作自演に、広告効果があるのでしょうか。


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 ある会合で、そんな報告がなされた。広告に詳しい参加者は、笑いながら言った。

「バカどもはそんなもんなんだよ。キミは間違ってる。消費者はバカなんだ。」

 報告者は困惑した。突っ込みは続いた。

「だからな、そういうもんだってのを証明するのが、この事例なわけだ。」

 報告者は困り果てているようだ。

「そういうもんだとわかってやるしかないんだよ、この商売はな。それがわかる、いい事例だったよ。」

 紫煙が風に揺らいだ。

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