第34話 祭りの後
『それでは優勝トロフィーの授与でございます』
なんやかんやの祭りの後。結局今回の闘技大会の優勝は俺達冒険者クラス――ではなく、聖騎士クラス様と相成った、やつらあの後ちゃっかりと時間ぎりぎりながらもオリエンテーリング試験もゴールしやがったのだ、それもプライズを全部回収してのゴールだ。
あの混乱した状況からどうやってそんな事を成し遂げたのか気になるが、ともかく奴らはオリエンテーリング試験を商業クラスに続いての2位という成績に終わったという話。それに伴い俺たちのオリエンテーリング試験は3位という結果になってしまった。
「うふふふふ。ディアネットちゃんたらご機嫌ななめみたいねぇ」
「まーそうだろよ、アイツの性格ならなー」
壇上でトロフィーを受け取るディアネットの顔にはありありと不満が浮かんでいた。彼女はいかにもカンペ通りといった感じの当り障りのない謝辞を淡々と述べていく。
「まっ、お偉いさんにはお偉いさんなりの苦労があるって事よ」
「ほーん、さよけ」
師匠は実力者であったがお偉いさんという訳では無かった。やりたい放題好き放題にやっていたのも、そのあたりの違いがあっての事かもしれない。
『最後に……このトロフィーを受け取る栄誉を与えてくれたのは私たちだけの力ではありません』
ディアネットはそう言うと、俺たちの方へと視線を向ける。
『勝負はひとりではする事など叶いません、ともに競い合い切磋琢磨するライバルたちがあってからこその話です。
ですから私はこのトロフィーの煌めきは、参加したすべての生徒たちの胸に宿っていると信じています。
皆さん、これからも一緒にこの光を磨き合い、王国の為の素晴らしい人材となる事を誓いましょう』
ディアネットはそう言って、優しい笑みを浮かべたのであった。
★
「やりましたよー! みなさんなんとわたしたち冒険者クラスが3位ですよー!
コモエ先生、今日はおおばんぶるまいなのですよー!」
まあその3位という結果に思う所は多大にあるが、全てはおわってしまったこと、今はコモエ先生の顔を立てて、大いにはしゃぎ笑っとくとしよう。ハーレム王は過去にはこだわらないのだ。
という訳で……
「者どもー! 宴じゃー! 今夜は無礼講じゃー!」
『おーーーーーーーう!』
教室中に所狭しと並べられたご馳走の数々に俺たちは子供の様に目を輝かせる。
最初は、俺たち5人以外はこの闘技大会に興味が無かった我がクラスも終わってみれば一致団結の大盛り上がり、最終試験であるオリエンテーリング試験の時はのどがかれるまで応援していてくれたらしい。
「ったく、聖騎士クラスの奴らはたまんねぇよな」
そんな応援を仕切ってくれたクラスメイトのボンゴが話しかけて来る。
「まぁそう言うなって、奴らには奴らの事情があるんだよ」
「……まぁ、実際にあの場所で戦ったナックスがそう言うなら仕方ねぇけどよ」
「そうそう、ここは俺とコモエ先生の顔に免じて引き下がってくれ」
運営サイドの思惑によって、生徒同士がぎくしゃくするのはディアネットも望むところではないだろう。彼女は彼女で犠牲者なのだ。
「はっはっはー! ステーキの食べ放題じゃー!」
「なっ、あのバカを見ろよ、過去の因縁なんて食欲の前に吹き飛んじまってる」
「ははははは。たしかにあいつを見てるとウジウジ考えてるのが馬鹿らしくなってくるな」
ボンゴはそう言うとやれやれと肩をすくめる。
「うふふふふ。そうよねーナックスちゃんはハーレム王になる男ですものねー」
ミーシャはそう言い妖艶にほほ笑む。
「おう! ハーレム王は過去の事などにはとらわれないのだ!」
「はっはっは、期待してるぜハーレム王」
ボンゴはそう言うと、俺の肩をポンと叩き別の輪に加わりに行った。
「まぁウチとしては、今回の結果にはおおむね満足だわ」
「ん? そうなのかカーヤ」
「まぁね、いきなり優勝なんて結果を求めるのはそれこそ高望みし過ぎってものよ。それよりウチの作品が役に立って嬉しいわ」
「ははははは。たしかに栄光の手が無ければ俺たちは全滅してたところだ、感謝するぜカーヤ」
「ええ、今度は安全性や耐久性にもバランスを振った栄光の手マークⅡを考えてるからその時はよろしくねナックス」
「おう任せとけ」
栄光の手という決め手が無ければ、あのロリコンドレイクを撃退する事は出来なかったし、魔法試験はかなり厳しい戦いになっていただろう。彼女の働きは影のMVPと言ったところだろうか。
「パルポはどうだった? 楽しかったか?」
「……(こくり)」
奴はそう言って魔道カメラを慌てて隠す。きっと闘技大会で集めに集めたお宝写真があの中には眠っているのだろう。
……後で焼き増ししてもらおう。
「うふふふふ。そう言うナックスちゃんはどうだった? 楽しかった?」
「ああ勿論、楽しかったぜ」
色んな意味で死の淵をさまよい続けた感もあるが。今となっちゃ笑い話だ、俺はこの闘技大会を大いに満喫した。
「まぁ上層部に十分なアピールも出来ただろうしな」
「そうよねー、良きにしろ悪しきにしろ、ナックスちゃんがこの闘技大会の目玉だったのは誰も否定しないわねー」
ミーシャはそう言ってキャハハと笑う。
「あー……けど聖騎士クラスに行ったらあのしかめっ面が担当になるのか、5秒と持てる自身は無いぞ?」
「うふふふふ。そうかもね、その時は冒険者クラスに帰って来なさいな」
「それはそれで困る、俺はハーレム王になる男だからな。エリートコースへはどうあがいても行ってしまう宿命なのだ」
「あははははは。期待してるわよナックスちゃん」
宴もたけなわ、俺たちのおんぼろ教室はやいのやいのと大盛り上がり、その中で俺はそっとクラスを後にする。
約束の時間が来たのだ。
★
「おう、待たしちまったかディアネット」
「いいえ、私もいま来た所よ」
月明かりに照らされたグランドで、彼女はその淡い光を一身に浴び、まるで天使の様に輝いていた。
「どうした、こんな手紙で呼び出して」
俺はポケットから一通の手紙を出す。そこには『今夜7時グランドで待つ』と簡潔に書かれていた。
「うふふ。貴方も気になっていると思ってね」
彼女はそう言って木剣を放り投げて来た。
「俺はてっきり告白タイムだと思っていたんだがね」
俺はそう言って木剣をキャッチする。
まぁそんな事だろうとは思っていた。苦節15年今だにノーヒットノーラン達成中のこの身なのだ、お預けを食らうのには慣れてしまっている。あれが決闘状という事ぐらい気が付いていたさこんちくしょうめ!
「うふふふふ。それはあなた次第かしら」
ディアネットはそう微笑みつつも木剣を構える。
「女に手を上げて喜ぶような難儀な性癖は持っちゃいないんだが」
俺は手に持った木剣をブラブラと遊ばせながらそう言った。女をひいひい言わすのはベッドの上だけで十分だ。
……まだ清い体だけどね! なぜか!
「あら残念。勝負には乗ってくれないという事かしら?」
「まぁな、折角のお誘いを断るのは気がひけるが――」
「私にかてたら、貴方のハーレムとやらの一員になってあげるわ」
「準備は良いか、ディアネット」
俺は俺は木剣をゆるりと構える。リナリカ流闘術に決まった構えなどは存在しない。
いやそもそも師匠は魔法使いだ、リナリカ流闘術なんてものは存在しない。あの人はただ魔法をぶっ放してすっきりするだけだ。という訳で俺の剣術は全くの我流。師匠の理不尽な攻撃をいなすために棒切れ振るっていたらいつの間にかこうなっただけだ。
「うふふふふ。やる気になってくれて光栄だわ」
「さっきの約束忘れんじゃねぇぞ」
こうして月夜の決闘が人知れず始まった。
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