旦那様が多すぎて困っています!?〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん

第1話転移と出会い




 気がついたら、地面に寝っ転がっていた。





 いやいや、おかしいでしょ!!


 慌てて起き上がって、まわりを見渡しても木しか見えない…


 どこ、ここ!?

 夜の森の中にひとりって、命の危険だよ!?





 落ち着け、私。

 一旦、冷静になろう。昨日何したか思い出すんだ。

 いつも通り大学に行って、授業を受けた。

 それから、帰りにスーパーに寄って買い物しようと思って…


 思い出した、目の前いっぱいに迫るトラックのフロントガラス。

 焦った運転手の表情。




 人間、本当に怖いことは記憶から消してしまうって本当かもしれない。

 たぶんついさっきのことなのに、記憶から抹消されかかってたよ…



 つまり、私はおそらく死んだ。

 両親には申し訳ないくらいにあっさりと死んだのだ。たぶん。


 で、それが分かったところで現在の状況には全く結びついていない。

 夢?それとも死後の世界?


 誰でもいいから説明してくださいまじでお願い




 ……


 誰もいないよね、そりゃそうだ。

 だれが好き好んで夜の森に寝っ転がるんだよ!!



 とりあえず、歩くか

 ここに寝てても仕方ないし


 とはいってもどっちに向いて進むんだろう?



 うーん…こっち!!


 誰も見てないのにムダにビシッとポーズをキメて指さしたのは向かって右側。

 気分は犯人を指す名探偵だけど、残念ながらなんの根拠もない。


 まぁ、直前にトラックに撥ねられるなんて不運を経験してるんだから多少はいい方向に向かえるでしょ。

 神様、それぐらいの補正はしてよ?





 歩くこと、15分くらい。

 周りの景色には変化なし。

 しいて言うなら、満月だから森の中でも歩けるくらいには明るい。

 ちなみに時間は体感ね。

 スマホもカバンもなんにもなかったから仕方ない。



 その時、木々の間から人間が見えた。


「すいませーん!助けてくださいー!」

 自分に出せる精一杯の大声で叫んだ。


 はじめての人間だぁ!



 近づいてきたふたりの人影は…


 信じられないくらいイケメンだった


 いや、それどころじゃないってことはちゃんと分かってるんだけどね!?

 それでも、イケメンはイケメンなのよ!




「こんなところでどうした」


 心配そうな声音と正統派王子様系イケメン顔を自分に向けられて、落ちない女はいないんじゃないかってレベル。

 燃える炎のような鮮烈な赤色の髪と瞳、高くすっきりと通った鼻梁、困ったように少し垂れた眉。

 魔法使いみたいなローブは紺色に金の縁どりで、夜の闇に溶け込んでしまいそう。




「あの、ほんとに、申し訳ないんですけど、ここは、どこですか?」


 つっかえながら、しどろもどろに話す私にも丁寧な対応のイケメンさん。


「王城の北ノ森だが。ここまでの間に城壁があったはずだが…

 どうやって通った?」


 城壁なんて知らないよ!

 てか、ここお城の中なの!?

 ヤバいところにいるんじゃないでしょうね…


「気づいたら、この森にいたので分かりません…」


「まぁいい、こんなところで話すのもなんだから詰所まで来てくれるか?」


「はい…」


 返事をした、次の瞬間、抱き上げられた。

 俗に言うお姫様だっこだ。

 いやいや、ちょっと待って?

 なんでお姫様だっこ?



「あの、すいません、自分で歩きます…!」


 控えめながらアピールするけど、ガン無視。

 おーい、赤髪さん(仮称)ー!


 ついでに言うと、もう一人のひとは同じようなローブを着ていて、フードをすっぽり被ってる。

 でも、あんまり背も高くないし、中学生くらいかも。ってことで、フード君(仮称)と呼ばせていただこう。



 現実逃避はこれぐらいにしておこうか。

 うん、誰も見ていないとはいえ、恥ずかしすぎる。

 赤髪さん、全然話聞いてくれないし。


「あの、ほんとに大丈夫です。自分で歩きますから…降ろしてください…」


 もう一回言ってみるも、やっぱりガン無視。

 落とされそうな訳じゃないんだけど普通に恥ずかしいよね…


 初対面でいきなりお姫様だっこだもん。



 しばらくすると、突然森が終わって目の前にお城が現れた。

 夢の国のシンデレラのお城なんて比較にならないくらいに大きくて美しいお城と、後ろに浮かぶふたつの満月。

 こんな状況なのに綺麗すぎて感動しちゃったよ。


 満月がふたつって、やっぱり異世界なのかなぁ






 無言のままお城の隣の塔のような建物に連れていかれて、応接室みたいなところに通される。

 とりあえず犯人扱いではなさそう。


 ここまでの廊下では好奇の視線に晒されて居心地が悪かったし、赤髪さんはなんにも説明してくれないし。



 でもまぁ、考えてもどうにもならないよね、って思えるポジティブな私。

 能天気なぐらいじゃないとこの状況ではやっていけない!


 だって、誰もなんにも説明してくれないんだもん!




 私をそうっと壊れものでも扱うみたいにソファに座らせて、赤髪さんはどこかへ行ってしまった。

 残される私とフード君。

 いや、ほんとに居心地悪い!

 フード君、仮称男の子だけど性別すらわからないからね…



 帰ってきた赤髪さんが部屋の四隅に粉みたいなものを撒いて、何かを呟いた。その瞬間、部屋の空気がふんわりと心地よいものに変わったみたいになった。




「ふぅ、これでやっと落ち着いて話せるな」


 赤髪さんはまた私を抱き上げると、ソファに座った。

 …私は赤髪さんの膝の上。


 なぜ…!?

 全く落ち着いて話せません…!




 フード君は傍らに立ったままだったけど、赤髪さんが話しはじめた。

 まるでこの状況があたりまえかのように。



「手荒な真似をして申し訳なかった。俺はカイルセル・ケインテットだ。王宮魔導師団に所属している。

 こいつはツィリム・カセスターニャ。俺の従者だ。」


「助けていただいてありがとうございました。

 あの、降ろしてください、私重いので…」


 ほんとに、初対面ゼロ距離で見るにはこの人はイケメンすぎるんだよ…

 輝く王子様スマイルが私のHPをゴリゴリ削っていく




「なぜだ?重くはないし、普通はこうするものだろう?」


 はて、この人の普通って何なんだろう?

 お姫様だっこがあたりまえなの?



「それとも、君の国ではそうじゃなかった?」


「はい、お姫様だっこも、膝に乗せられるのもほとんどありませんね。空想の世界か、よほど親しい男女がするものです。」


「なるほど。だが、この国ではほとんどの場合、女性はこうするものだぞ?

 女性は希少でか弱い。男が守るのは当然だろう?」


「希少?ってことは、女の人は少ないんですか?」



「あたりまえだろう、8人のうち1人が女性だ。」


「へぇー、私の国では男女は同じ数ずついました。」


「男女が同じ数!?そんな国がこの世界にはあるのか……いや、この世界ではないかもしれないんだな…

 まぁ、君の国とはずいぶん違うみたいだが、ここではこれがあたりまえだ。

 どうしてもという訳でなければ慣れて欲しい。

 それで、君の名前は?」




 お姫様だっこに混乱し過ぎて自己紹介すら忘れてたよ…



「大森泉(おおもりいずみ)です。」


「イズミ、が姓か?」


「いえ、大森が姓、いずみが名前です」


「なるほど。イズミは、どこから来たんだ?」



「日本という国から来ました。ここは自分の世界とは全く違うみたいですが…」


「ここは、アレタード王国という。

 俺の知るかぎり男女の数が同じ国というのはないし、見たところ、イズミはこの辺りの人ではないようだ。顔立ちも服装もな。

 それに、魔素の濃度が信じられないくらい高い。こんなに魔素を持つ人は今まで見たことないな。」




「魔素、って?」


「イズミの国には魔術はなかったのか?そんなにたくさん魔素を持っているのに?」


「私の国には魔術はありませんでした。私が魔素をたくさん持ってるというのもよく分かりませんし…」




「魔素というのは魔術を使うときに使うエネルギーだな。イズミは、俺の300倍くらいの魔素を持っていて、それが常に流れ出しているんだ。

 森の中にいきなり高濃度の魔素が現れたから、急いで様子を見に行ったんだが…

 あまりにも濃度が高いから、封印魔術の構築だけに神経を使ってしまって、ほとんど話ができなくて申し訳なかった。

 これだけ魔素が高いと周りの人間に悪影響があるからな。

 ここは、俺の魔術で封印を作ってあるから大丈夫だ。さっきの粉に俺の魔素が練り込んであるんだよ。」



 なるほど、そうやって私の居場所を見つけたのね。

 魔素とかいわれてもピンとこないけど…

 要するに人間発電所みたいなものなのかな?





「それで、君はあんなところで何をしていたんだ?女性がいるのにはあまり良くない場所だとは思うが…」


「私にもわかりません。学校へ行って、帰る途中だったんですが…

 荒唐無稽な話ですし、信じていただけないかもしれませんが、たぶん私は元の世界で死んでしまって、なぜかあの森の中に転移してしまったみたいです。」




 ここまで来たらもう夢だなんて思えない

 とりあえず、カイルセルさんに信じて貰わないと


「うーん…

 確かに、魔素の流れが現れたのは突然だったしな。どうやってここに来たのかはわからないが、しばらくは俺が面倒を見よう」


「ありがとうございます!」

 よかった、とりあえずの命の危険はなくなったみたいで。

















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