4.3日目の始まり

目を覚ますとまた自分の部屋の天井が視界に入る。

昨日とは反対に重く動かない体を動かすために神経を体中に張りめぐらせる。

疲れなのかわからないれど口すらも動かせず頭の中で呟く。

動かせないと言うよりは冬の寒い朝に体が動かず布団から出たくないという感覚に近い。

「何時だろ」

重い体を捻り視界に時計を入れると針は深夜2時を示していた。

「丑三つ時か…」

まるで頭の中にでもあるのかと思うほど時計の針の音がカチッカチッと家中に響き渡る。

それ以外の音は家の中からも外からも聞こえない。

まるで幽霊でも出そうな雰囲気だな。

「あ…」

そう言えばもう僕は死んでいた。

なにいってんのと自分で自分に突っ込む。

よくホラー番組で死んでいることに気がついていないのだろうとナレーターが言っていたが、死んだら普通分かるだろうとずっと思っていた。

しかし、実際に死ぬとナレーターが正しいと理解する。

酸素を大きくとり入れ深く吐き上半身を起こす。

窓から外を見るが外には当然誰もいない。

「夜中って感じ」

当たり前すぎてつまらないコメントを言い残す。


ホラー番組がまた頭をよぎる。


それにしてもこんな時間に起きるってことは…

嫌な映像がが頭に浮かぶ。


こわ。


「だから幽霊は丑三つ時に出るのかな」

丑三つ時は特に幽霊が現れる時間帯として語られるがその理由がようやくわかった気がする。

なんてたって幽霊だもんね。


そう言えば老爺の言う2日目は…

「1日目は今この時間でここのことを元から居る人に教える日、2日目は自分の自由に行動できる日、三日目は新しくここに来た人に教える日だ」



自由に動ける日は今日が最初で最後だ。


冬音に会うことが出来るの可能性があるのも今日が最後。

こんなに早くに目覚めても日付が変わる12時までは22時間、かなり長いように感じるが時間も場所も分からない相手と会うのはかなり難しい。

きっと彼女も今日はどこかに行くだろうからさらに会う確率は低くなる。

心ばかりが焦る。

「早く行かなきゃ」

僕は急いで家を出るが彼女のいる所など検討もつかずすぐに足は止まった。

まず、彼女が来ていたもしくはこれから行く場所に僕がいっても意味が無い。

同じ場所に行くことだけでも簡単ではないのに同じ時間というさらに難しいルールが追加されている。

「もう会えないのかな」

急速に僕の脳はネガティブで満たされていく。

行先も分からずただ立ち尽くす僕を生温い風がまとわりつく。

普段は憂鬱な夏特有の生温くまるで実体があるかのようなべっとりとまとわりつく夜風も最後かもしれないと思うと名残惜しく感じる。

もしかして夜風って生きてる誰かに気付いた欲しい幽霊なのかな。

もしそうなら怖いね。


ふと空を見ると星がやけに光って見えた。

それにしても星ってチカチカと点滅して見えるのはなんでなんだろう。

宇宙人が悪戯でボタンをつけたり消したりしているのかな。

冬音と一緒に見たかったな。

そんなことを考えながら少しの間、星に目を奪われていた。

目を取り戻し視線を戻すとさっきまであった街頭は消えて辺りは真っ暗になっていた。

「またか」

この現象は初めてではないからすぐに理解した。

また、気を失うのか?

「…………」

あれ、失わない。

「それにしても暗いな」

空を見るとそこには星達が自身の存在を主張し合っていた。

周りが暗すぎて星の光が街頭の役割を担う。

暗闇に目が慣れ始め周りが徐々に見えるようになってきた。

都会のように街自体が明るいと星は見えないけれど周りを把握できる程に見えるここは都会からは離れているのだろう。

少し歩いてみると地面は芝生のような軟らかい草が生えていると足が教えてくれた。

「またどこかの田舎にでも来ちゃったかな」

辺りを見渡していると視界の片隅に人影が入る。

実際に居ないのだろうけど、こんな田舎の周りに何も無いようなところで人などいるはずがないという思い込みからか一瞬で見てはいけないものを見たと感じ全身の毛が逆立つのを感じた。

幽霊は信じていなかったが何より怖いものは幽霊だった。

バレないように音を立てずにしゃがみこむが意思に反して心臓はバクンバクンと音を立てる。

たのむ!静かにしてくれ心臓。

「怖い怖すぎる!」

口には出さず頭の中で叫ぶ。

「なんでこんな所にいるん、おかしいでしょ」

恐怖を紛らわすため脳内で陽気な自分が作り出される。

その人影はこちらにゆっくりと向かってくる。

「やばい!やばすぎる!」

頭の中で怖さを紛らわすために面白おかしく叫ぶ余裕もなくなり陽気な自分はすぐに消える。

サッサッと草を踏む音が近くなる。

既に心臓の音は全身に響き渡っていた。


足音は目の前で止まり目を閉じていてもしゃがむのが分かった。

瞼に人生で1度も入れたことのないほどの力を入れ目を食いしばった。


「あれ、おばけのくせにおばけが怖いの?」

その人物は聞き覚えのある声で笑いながら言った。


恐る恐る目を開けると僕は驚愕した。


目の前に彼女がいる。

僕の心は驚きと喜び、そして、悲しみが混ざっていた。

「探したよ」

彼女は綺麗でどこか悲しげな笑顔で言い僕に抱きつく。

声は震えていた。

僕も彼女に抱きつく。

視界は歪み一滴の雫がこぼれ落ちる。

雫に映るのは逆さまになった星空だった。


小さな宇宙がそこにあるように。


「会えてよかった」

彼女は目を擦りながら答える。

「この世界で会えるのって運命なんだって」

運命という言葉に高揚し前を見ると彼女はいつもの笑顔でこちらを見ていた。

「そうなの?」

「うん、気持ちが強いとお互いを引き付けるんだって

星と星が引き寄せ合うよに」

彼女は少し照れているようだった。

「ねえ、星を見ない?」

声のトーンが少しさがる。

「今日が最後なんだし」

きっと彼女も今日が最後かもしれないと分かっているのだろう。

「さっきいいところ見つけたんだよね」

声も普段のトーンに戻りいつもの綺麗な笑顔になっていた。

僕はまた彼女の笑顔に救われた。

彼女はきっとこの日を楽しもうとしているんだ。

最後の日を無駄にしたくはない。

僕は彼女との今を楽しむことに全力を尽くすことにした。

「どんなところ?」

「すごく綺麗な星が見えるところ」

「いいね」

彼女に右手を引っ張られ丘を登っていく。

僕はまだ湿っている目を左手で拭い歪んだ世界を元に戻す。

明かりもないのに妙に明るく鮮明に見える世界はまるで別の星に来たようで神秘的だった。


彼女が急に立ち止まる。

「目をつぶって」

「え?」

「いいから」

僕は彼女の言う通り目をつぶる。

「いいよって言うまで開けないでね」

真剣な声で言う。

僕の心に根拠の無い期待が溢れていたが冷静を装い答える。

「うん」






彼女はまた僕を引っ張る。

「え!?」

僕は別のことを予想していたから驚きのあまり声を出し目を開けてしまう。

「ほら、ちゃんと目を瞑ってよ!」

彼女の頬は少し赤くなっていた。

「ほら行くよ」

大人しく目を瞑り彼女に引っ張られていく。

「目をつぶっているのに早歩き過ぎない?」

引っ張られ足がもつれる。

「だって一日だけなんだよ?はやくしないと勿体ないじゃん」

「確かに」

「でしょ」

彼女は得意げに答える。

どれほどの景色なのか疑問に思い質問した。

「そんなに綺麗なの?」

「うん、感動するよ

私もそんなにちゃんと見てないけど、なんかチラチラしててピカピカって感じ」

あまりよく分からなかったけれど星が綺麗なんだろうね。

「楽しみだな」

「期待してろよ~」

彼女の声はさらに得意気だ。

「よしついた

下を向いて目を開けて」


彼女の言う通りにすると目をつぶっていたからかさっきよりも闇に慣れた目は鮮明に草や砂利を写し出した。

「私もまだ見てないから一緒にみよ」


「うん」


「せーのでみようね」


「いいよ」


「「せーの」」

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