警告
その日の夜遅く、皆の仕事が終わると、翠と壮太は、揃って茉里の部屋にやってきた。そこで、茉里はコスメポーチから例の石を出した。そして、この石を拾ってから起きたことを洗いざらい話した。
その話には二人とも聞き入った。話が終わると、二人とも神妙な顔をしていた。
「及川って人、壮太のことを知っていたのね。なぜかしら?」
翠は、訳がわからない、と言った表情で相太を見た。
「大学のお友達?」
壮太は、それを聞いて、神妙な顔つきは崩さずにため息をついた。
「僕もよくわからないよ。及川なんて人、知らないし、第一その人、子供だったんだろ?」
壮太はちらりと茉里を見た。茉里は、いつになく冷静な自分に驚きながらも、壮太の質問に答えた。
「はい。でも、一番わからないのは、このペンションが、もうここにはないって話なんです。何かの理由で及川さんが壮太さんのことを知っていたとしても、このペンションがもうここにないなんて」
そこで言葉を切った茉里は、ふと、自分を見つめる親子を見た。すると、壮太はどこか安心したような顔をしていて、翠に至っては泣きそうな顔をしていた。
そして、翠は、茉里の方に近づいてきて、茉里の細身の体を抱いた。
翠は、身体中を震わせて泣いた。泣きながら茉里に訴えるその涙声さえ、震えていた。
「茉里さん、ありがとう。すごく怖かったでしょう。そんな思いまでしてこのペンションで働いて、気にかけてくれて。どうお礼を言ったらいいか」
茉里は、翠を抱き返した。
怖い思いをしたことはもうどうでもよかった。ただ、自分にあてがわれたいくつかの謎だけが気にかかっていた。
「翠さん、壮太さん、私、なんとかやってみます。どんな脅しが来るかわからないし、それに耐えられるかも分からないですけど」
茉里はそう言って、翠の背中を叩いた。すると、何かスッキリしたような顔をして、翠が茉里から離れた。
その時だった。
部屋の明かりが、突然、消えた。
あんな話の後だ。やはり脅しが来たのだろうか。
「あかりのスイッチ切ったのは?」
翠の声がしたので、そちらに翠がいると思い、茉里は翠の声がする方に手を伸ばした。
「母さん、そこなの?」
壮太の声がした。まだ明かりはつかない。茉里はふと、嫌な予感がして、翠のいた方へと這っていった。すると、明かりがついた。
そして、その明かりは、ついたと同時に、目の前に広がる大惨事を茉里の前に叩きつけた。
茉里は、その大惨事に腰の力を失い、その場にへたり込んだまま、動けなくなってしまった。
「翠さん!」
茉里の目の前にあったのは、事切れた翠の、変わり果てた姿だった。
翠の体にはすでに温度はなく、目を開けたまま死んでいた。ずいぶん前から死んでいたかのような有様だった。それを見て、壮太が声を失った。
「どうして?」
壮太は、涙を流しながら後ずさった。
「なんで母さんが?」
壮太は、それ以上何も言わないまま、母の死体にすがって泣いた。
腰を寝かしていた茉里は、それを見て、これがもしかして脅しなのではないかという考えが頭を持った。翠の体にすがって泣く壮太を見る。
これは、危ない。
次は、壮太かもしれない。
こんな脅しをしてくる、恐ろしいものを相手に、茉里に何ができるというのだろう。
及川は、自分を買いかぶりすぎなのではないか。
「壮太さん、救急車を」
ようやく現実が見えてきた壮太は、歯を食いしばって泣くのを耐えている茉里に声をかけられ、ハッとした。
「救急車を、呼んでください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます