第5話 初心者用ダンジョン攻略だぜ!

 初心者用ダンジョンの3階層に到着した俺は、普通のゴブリン狩りに飽きてきたこともあって、上位種のゴブリン10人隊長を狩るのを楽しみにしながら、3階層を進んでいく。すると早速レーダーに反応があった。反応はゴブリン10匹、ゴブリン10人隊長1匹だ。12時の方向100mくらいのところだから、どうやら通路の先のところの広場にいるみたいだな。


「母ちゃん、10人隊長ゴブリン1匹と、ゴブリン10匹の反応があったぜ。前方の部屋の中みたいだ」

「あら、いいわね。油断禁物よ」

「もちろんだぜ」


 俺は1号君をゆっくりと走らせる。見つからないように部屋をのぞいて、射撃しやすい場所に行きたいところだったんだが、音は静かでもなんだかんだででかいからな。残念ながらすぐに見つかっちまったぜ。ゴブリン達は当然襲ってくるが、通路も広ければ部屋も広い。そのため、部屋の入り口からゴブリン達との距離は、50mくらいある。


 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ


 15mm機関銃が火を吹く。ゴブリン達が15mmを防げないのはもう知っている。俺は容赦なくゴブリン達を次々に倒していく。だが、びっくりすることに、ゴブリン10人隊長は数発銃弾に耐えたのだ。完全に観察できていたわけではないのだが、最初の10数発はゴブリン10人隊長の体に当たっても、貫通することが無かった。痛がっていたし血も出ていたようだが、致命傷ではなかった。とはいえ耐えられるのはあくまでも10数発だったようで、50発も撃ち込む頃には死んでいた。


「ふう、びびったぜ。まさか15mmを耐えれるとは思わなかったぜ。でもなんで耐えられたんだ?」

「それはね、魔力体が強いからね。モンスターは上位種になると体以上に魔力体が劇的に大きくなることが多いの。普通のゴブリンとゴブリン10人隊長の体のサイズの差は1、3倍くらいだけど、魔力体は10倍くらい強いのよ。だから、豊富な魔力から繰り出される身体強化魔法も、それ相応に強くなるの。でも、ゴブリン10人隊長くらいなら、まだまだ鉄製の武器でダメージを与えられる相手だからね、最初の10数発は怪我くらいでしのげたみたいだけど、すぐに魔力が減って、耐えられなくなったってところね」

「なるほどな~、じゃあ10人隊長の上の100人隊長とかだと、この機関銃じゃ倒せねえのか?」

「倒せないわけじゃないわよ。ただ、100発以上撃たないといけなくなっちゃうかな。でもこのダンジョンにはゴブリン10人隊長までしかいないから、油断は禁物だけど、問題ないはずよ」

「わかったぜ!」


 なるほど、この世界のモンスターは思った以上に強そうだな。15mmの機関銃を10数発耐えるってことは、普通の銃だと倒すのはかなり厳しそうだな。魔力体の関係でそうなるってことは、この世界、普通の火器よりも、魔法のほうが強いのかも知れねえな。確か神様もどきも、戦車と魔法の融合がどうたら言ってたしな。まあ、そういうことは後でゆっくり父ちゃん母ちゃんに聞くとするか。今はダンジョンの中だからな、まずは1号君の初陣を楽しむとしよう。


「それと、アイアンちゃんは風魔法や氷魔法も使えるわよね」

「ああ、炎や土ほど上手くはないが、使えるぜ」

「じゃあ、機関銃を長時間連射するときは、銃身を魔法で冷やしてあげてね」

「銃身を?」

「ええ、銃身は連射すると熱を持って次第に真っ直ぐじゃなくなっちゃうの。そうすると、命中精度が下がるからね」

「なるほど、わかったぜ!」


 そういや、軽機関銃は銃身が交換しやすい構造になってるだとか、ロータリーオートキャノンの銃身が多い理由は、熱対策って聞いたことあったな。くう、迂闊だったぜ。だが、今は気を取り直して行くとするか。


「じゃあ、ガンガン進むぜ!」


 俺はその後も順調にダンジョンを進んでいった。そんな時、ふと部屋や通路を見渡すと、不自然な出っ張りがところどころにあるのに気づいた。その出っ張りは、ただの岩のようにも見えるのだが、少しキラキラしているようだ。


「なあ母ちゃん。あのキラキラしたでっぱりってなんだ?」

「ああ、あれは鉱石ね」

「鉱石って、鉄鉱石とかそういうやつか?」

「ええ、そうよ」

「なんでそんなものがこんなところにあるんだ?」

「ダンジョンはね、元々地下に溜まった自然の魔力が、噴出してできるそうなんだけど。いまでも自然の魔力が溜まりやすい場所なの。そしてこの初心者用ダンジョンは、土とか金の属性が強いみたいで、通路や広場に、ああして鉱石が生まれるのよ」

「は~、そういうことなのか。じゃあ、モンスターがいるのは何でなんだ? このくらいの広さなら、全滅させられるよな?」

「モンスターも自然の一部だからね、こういう魔力が溜まる場所には、自然と生まれるのよ」

「え、じゃあモンスターって、絶対全滅しないのか?」

「そういわれているわね、だから、私達はモンスターが脅威でないくらいに、強くなる必要があるのよ」

「なるほどな~」


 自然の一部ってことは、地球で言うところの台風や地震とかそういうかんじってことか? あるいは毎年のように流行る風邪みたいなものなのかな? まあ、確かに被害を最小限にする努力は出来ても、無くすことはなさそうだな。


「採取できる鉱石の種類や量は、ダンジョンによって変わるのよ。ただ、いい鉱石が取れるところほど、強いモンスターがいるから、注意してね。この街の周りには何個かダンジョンがあるけど、どこもここより強いモンスターがいるから、挑戦したくなったら、必ず父ちゃんか母ちゃんに言ってね。付いていくこともできるし、護衛を雇うことだって出来るから」

「ああ、わかったぜ!」


 もっと上位のダンジョンか、ちょっと行ってみたい気もするが、今はまだ無理だな。ゴブリンの下から3番目にすら苦戦しそうだからな、火力不足だ。せめて主砲をもっと強力なものに変更してからだな。


 その後もダンジョン攻略はスムーズに進んでいった。ダンジョンの中は分かれ道なんかも多かったけど、地図があれば余裕だぜ。相変わらずゴブリンは多かったけど、無事に最下層の部屋の手前に到着した。


「この先が最下層ね」

「ああ、地図をみてもそうなってる。ゴブリンは、22匹いそうだな」

「アイアンちゃん、この部屋は私に任せてもらえない?」

「母ちゃんに? かまわないけど、どうしてだ?」

「アイアンちゃんは、魔法大砲に興味はない?」

「ああ、めっちゃあるぜ!」


 神様もどきも、戦車と魔法の融合がうんぬん言ってたし、動画や書物でみた戦闘用ゴーレムとかいう、戦車と覇権争いをして、戦車を日陰に追いやった憎っくき兵器に搭載されている武器のひとつに、魔法大砲とかいうのがあった。たしか、魔法と大砲を融合させる、高等技術だったはずだ。俺としては是非とも試したいと思っていた兵器だ。


「せっかくダンジョンまで来たのだし、私がお手本をみせてあげるわ」

「でも、ここには大砲なんてないぜ?」

「あら、この機関銃で十分よ」

「そうなのか?」

「難易度がかなり高いし、それようの大砲なんと比べると、大分威力も落ちるけど、まあ、見てなさい!」


 普段がおっとり気味の母ちゃんだが、なんか気合十分だ。


「おう」

「じゃあ、アイアンちゃんはキューポラの上に登って、そこで見ててね」

「わかったぜ」


 俺は母ちゃんと場所を代わる。母ちゃんがガンナーポジションに移動し、俺はキューポラによじ登った。1号君は俺が使えるサイズってことでなにかと小さいが、母ちゃんならまだ入れる大きさだ。


「じゃあ、アイアンちゃん、ゴーレム君に部屋の入り口まで移動するように言ってもらえる?」

「おう、いくぜ!」


 1号君は最後の部屋の入り口に到着する。すると、中にいるゴブリン達もすぐさま気づく。中にいるのはゴブリン10人隊長が2匹と、雑魚ゴブリン20匹だ。


 タタタタタタタタタッ


 母ちゃんは機関銃を発射するが、普通に撃つのとまったく違う。弾が炎を纏っているというよりも、炎の弾丸がゴブリンに襲い掛かる。雑魚ゴブリンが1撃なのは普通に撃ったのと一緒だが、10人隊長ゴブリンまで1撃でやすやすと貫通した。


「すっげえ母ちゃん、なにこれ。さっきまで倒すのに10発以上かかった10人隊長が、1発で容易く貫通してるじゃん。これ、銃弾に炎の魔法を乗せたのか? どうやったんだ?」

「ちょっとおしいかな。魔力を融合させたのよ」

「うおお、すっげえな」


 これが魔法大砲か、いや、機関銃でやったわけだから、魔道機関銃か。試してみるかな。


「あ、帰り道に試しちゃダメよ、ここはダンジョンだから、実験場じゃないからね」

「うう、そうだな。わかったぜ」

「それと。この部屋で採掘しましょうか、珍しい金属はないと思うけど、父ちゃんへのお土産に丁度いいわ」

「ああ、わかったぜ」

「じゃあ、掘るわよ~!」

「おうよ!」


 俺達は部屋の壁や柱に、不自然に付着している岩のような塊を次々と壊し、鉱石を採集していく。採掘なんてやったことはないが、そこは母ちゃんのやり方を真似た。そのやり方は、岩を爆発魔法で壁ごと破壊して、瓦礫の山に、低レベルの精錬魔法をかける。そして、とりあえず金属だけを回収するという、なんとも荒っぽいやりかただ。だが、つるはしなんて持ってきてないし、もし仮に持ってきていたとしても、この方が手っ取り早いな。俺達は最下層の部屋を破壊しつくして、大量の鉱石をゲットした。


 俺の1号君は、FT17の本来でかいエンジンルームの大半が荷台なので、そこに金属をぽいぽいっと詰め込む。さて、何の金属かまではわからないが、とりあえずこれで満タンだ。そこで俺は、ふとあることに気づく。


「なあ、母ちゃん、鉱石やモンスターが復活するのはわかったんだが、このぼっろぼろの部屋は大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫よ。壁も柱も、1日もしないうちに直るわ」

「へ~、自然ってすげえんだな」

「ほんとうね。それじゃあ、帰りましょうか」

「おう!」


 重くなった1号君を走らせて、俺達は最深部の部屋を後にした。母ちゃんが乗ってた荷台には、大量の金属が積み込まれてしまったので、母ちゃんはその金属の山の上に陣取っている。ゲームだと最深部からワープで入り口に戻れたりするのだが、世の中そんなに甘くはなかった。来た道をひたすら戻る。来た道ならゴブリン達はいないかと思ったが、行きと同じくらいゴブリンはいた。どんだけ復活早いんだよ。


 ただ、ゴブリンどもはもう完全に俺の敵ではない、帰り道は完全な消火試合になってしまった。そしてあっさりと入り口に到着した。初心者用ダンジョンの入り口は街に近いこともあって、ここから街までの間にモンスターがいることは稀だ。なので、俺もハッチから上半身をだし、まったりリラックスモードだ。のんびり話しながら俺達は街をめざす。まあ、油断はしないがな。


「そういえば、子供がよく来るって話だったけど、誰とも出会わなかったな」

「そういえばそうね。もっと賑わっているイメージだったのに。ん~、あ、そうだったわ。今日は平日だったわね」

「平日じゃダメなのか?」

「ええ、平日は子供達、学校だったわ」

「え? そうなの? でも俺達ここにいるぞ? ていうか、俺学校行ってないよ?」

「アイアンちゃんに学校はまだ早いわよ。学校に行くのは10歳からが普通だしね。学校に入ると、基礎的な戦闘訓練をするんだけど、その実戦訓練として、このダンジョンに来るのよ。それで、その後も、戦闘が好きな子達が、鉱石掘ってお小遣いを稼ぎに、やってくるってかんじかな」

「そうなんだ」

「ええ、もちろんアイアンちゃんみたいに、10歳未満でも来たがる子は多いんだけど、大抵は親同伴ね」

「なるほど、平日だと10歳以上の子供は学校で、親が仕事してるから親同伴の子供もいないってことか」

「そういうことね」


 そして、俺達はなんのトラブルも無く、街の北門に帰ってきた。


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