アイアンオア 戦車大好き男、異世界へ行く

@pipipuu

第1話 俺の名前はアイアンオアだぜ!

 俺の名前はアイアンオア・スミス。0歳児だ。元戦車好きの日本人だ。今日も元気に目が覚めたわけだが、いかんせん0歳児じゃあ自分では何も出来ねえ。さっそくだが、俺は母ちゃんを呼ぶことにした。


「おぎゃ~! ほぎゃ~!」


 ぱたぱたと2人分の足音が聞こえる。


「あらあら、アイアンちゃん、おはよう。ご飯でちゅか~? じゃあ、ダイニングにいきまちょうね~」


 このまったりとした口調の女性が俺の母親、エメラルド・スミスだ。ストレートの銀髪にその名が示すような綺麗な緑色の瞳をしている。身長は145cmくらい、そのせいもあってか、見た目すごく幼く感じる。実際美人というよりはかわいい系だ。


「お~、よしよし、アイアン。父ちゃんでちゅよ~」


 そしてこの男がタングステン・スミス。俺の父親だ。黒髪、黒目、黒髭だ。母親のエメラが幼い感じなのに、父親は割りといかついおっさん顔だ。その迫力のある顔からの赤ちゃん言葉、うん、微妙だぜ、父ちゃん。身長は155cmくらい、縦には低いものの、横にはすごい大きい。それも太っているというわけじゃない。腕も足もめちゃくちゃごついのだ。


 ちなみに俺は両親の色の中間くらいだ。髪は灰色で、目もかなり濃い緑色をしている。身長は、まだよちよち歩きなのでよくわかんねえ。


 そう、俺はドワーフに生まれ変わったのだ。いわゆる異世界転生ってやつをしたからだな。その時の様子はこんな感じだった。





「はじめまして、鉄・・・さん」


 俺は真っ白い世界で、男に声をかけられて目が覚めた。男は不思議な男だった。青年といわれれば青年だったし、老人といわれれば老人のようでもあった。俺はとりあえず、このなぞの男と会話をすることにした。


「どうやら混乱しているようですね。では、説明いたしましょう。ここは死後の世界です」


 俺が死んだ?


「はい、残念なことにお亡くなりになりました。死因は覚えていらっしゃいますか?」


 思い出そうとするが、まったく思い出せない。だが、死んだ時の記憶を思い出したいとも思わなかった。どう考えてもいい記憶であるわけがないのだから。


「ふふ、確かにそうですね。こういう言い方をするのもどうかと思いますが、おかしな死因ではありませんよ。ただ、死んだ際の記憶がもどるのは、精神的にあまりいいことでもありませんからね。詳しく話すのはやめておきますね」


 確かにそうだな。実にありがたい。というか、さっきから俺、しゃべってないよな。心の中で考えているだけなのに、この人には伝わってるんだな。というか、この人、神様とかそういう人なのかな? だとしたら、俺、こんな口調で大丈夫なのか? というか、俺、こんな尊大なしゃべり方だったっけ?


「まず、今の貴方は魂だけの存在なので、肉体が無く、当然口もありません。ですので、しゃべることはできません。意思疎通が出来るのは、テレパシーのおかげですね。それから私は神様ではありません。死後の世界の住む、ただの住人ですよ。それから、貴方のしゃべり方ですが、問題ありませんよ。今は魂の存在ですからね。社会性など人間社会の中で培われてきた要素は薄くなり、子供が親兄弟に向かって話すような、本質的な部分がどうしても強くなるのです」


 なるほど、よくわからないが、まあ、わかったことにしよう。ところで、俺はお前のことをどうよんだらいいんだ? 神様もどきか? おう、俺の心の言葉、素直すぎるだろ。


「ふふ、神様もどきでかまいませんよ」


 わりいな。ところで、俺はこの後どうすればいいんだ? 死んだってことは、神様もどきが、俺の死後の世界の案内人なのか?


「いいえ、違います。ですが、それこそが私が貴方の魂の前に現れた理由であり、本題です。聞いていただけますか?」


 もちろんだ。


「ありがとうございます。単刀直入に言いますと、貴方には死後の世界に来るのではなく、異世界に行って頂きたいのです」


 うお、これはラノベとかで定番の異世界転生ってやつか?


「ええ、そう思っていただいてけっこうです」


 でも、何でそんなことするんだ? そもそも、なんで俺なんだ?


「今からご説明します。まず、異世界にいっていただきたい理由としましては、緊急避難場所を作りたいからです。地球の文明は滅びるには惜しいレベルまで高まりました。ですが、地球は日々様々な脅威に見舞われています。例えば、隕石ですね。過去にも恐竜が隕石の直撃のために絶滅したのはご存知ですか?」


 ああ、詳しくは知らないが、一般常識的なレベルでなら知ってるぜ。


「過去に起きた自然現象が、今起きない保障はないでしょう? もっといえば、木星あたりでは、地球が破壊されるレベルの巨大隕石すら衝突しているのです。ある意味地球の文明は、いつ滅びてもおかしくないのです。また、運よくそれらが回避されても、数十億年後には、地球は太陽の膨張により、住むことはできなくなります。いまのままの成長速度なら、そうなるまえに地球脱出等、人間でなんとかできる程度まで文明レベルが上がるかとも思いますが、確証はありません」


 ふむ、確かにな。それが緊急避難場所がほしい理由ってことか。でも、俺の転生はどう関係するんだ?


「残念ながら今の宇宙には、地球の代替惑星がまだ発見されておりません。そのため、緊急避難場所を異世界のとある惑星にお願いすることを検討しているのです。その異世界の宇宙は、極めて安定した環境です。少なくとも、地球よりははるかに長期間の安定が約束されていると考えて下さい。ですが、その惑星は地球とは違い、魔力が存在し、モンスターがおります。そのため、いきなり地球人を送り込んでも、どの程度現地の生活にマッチするかわかりません。そのため、転生先の候補地に魂を送り、問題なく生活できるかをチェックしたいのです」


 なるほど。よくわかった。さしずめ俺は実験サンプル、あるいは、開拓民ってわけか。


「ええ、実験サ、こほん、開拓民だと思っていただければ結構です」


 本音が漏れたなこいつ。まあいい、じゃ、何で俺なんだ? 記憶があいまいだから正確じゃないかもだが、なにかすぐれた人間って要素は無かったと思うが。


「それに関しては貴方個人の資質の問題です。今回私達が候補者を探すのに重視した点は、運動能力の高い人間でも、頭のいい人間でも、芸術センスのいい人間でも、ありません。重視した点は、異世界、特に魔法やモンスターへの憧れですね。どんなに優れた身体能力や頭脳を持っていても、向こうの世界に適合する気の無い人間を送り込むわけにはいきませんから」


 なるほどな。でも、それだと候補者はめちゃんこ多くないのか?


「そうでもありません。魔法に憧れを持つ人は多くても、モンスターと戦ってもいいという方は多くないですからね。その中でも特に日本人で、なおかつ一定期間内に死んだ方限定ですから。それに、異世界に行って貰うのは、あなた1人というわけではないです。候補地が多すぎて、1つの世界に1人しか送れませんが、数百の異世界に、開拓民を送り込む予定です」


 日本人だけなの?


「私の担当はそうです。他の地域は、同僚が担当しております」


 そうだ、重要なことをスルーするところだった。確かに俺は魔法への憧れがあるが、魔法って俺もつかえるようになるのか?


「ええ、もちろんです。好きこそものの上手なれといいますからね。魔法への憧れの強い人は、ほとんど才能を持っていますよ」


 ほう、じゃあ俺は異世界にいけば、魔法使いまくれるのか?


「才能はあるとだけ申しておきましょう」


 じゃあさ、チートとかってあるのか?


「無いです。私は神様ではありませんからね。ただ、すぐ死なれても困るので、1つだけ私でも与えられる特典をご用意いたしました。ただし、他言無用です。しゃべった場合魂ごと消滅させますので、ご注意下さい」


 く、怖いこというな。で、どんなのなんだ?


「記憶、知識をプレゼントします」


 え、そんだけ?


「本来は記憶をリセットするところを、うっかり見逃すことにします。それどころか、私の知識までうっかり伝授することにします。例えばですよ、人間というのは赤子のときが一番成長率が高いのはご存知ですか? そんな赤子の時に、私からうっかり伝授された知識をもとに、魔力増強トレーニングに励んだとしますよ。そうすれば、あとはわかりますね?」


 なるほど、強い魔法使いになれるってわけだな!


「ええ、そういうことです。原理としましては、あなたの行く異世界は、物質的な目に見える体のほかに、魔力体と呼ばれる、魔力で出来ている体があります。そして、2つの体が密接に絡み合い、1つの生命として存在しています。そして、魔力増強トレーニングで魔力体を鍛えれば、それだけ魔力体が大きく成長するのです。おまけに、魔法の知識もうっかり伝授してしまいますので、存分に使用してください」


 ありがてえ! でも、俺はどちらかというと、戦闘よりものづくりのほうが好きなんだけど。いや、モンスターとも戦ってみたいけどさ。


「それも問題ないです。転生先の世界では、生産魔法と呼ばれる、ものづくりの魔法がありますからね。モンスター溢れる世界ですので、最強の武器とか作っていただいてもいっこうにかまいませんよ」


 うおお、まじか、おっしゃ。いっちょ最強の武器をつくってみるかな。いや、待てよ、なあなあ、向こうの世界に戦車ってあるか? 俺、戦車好きなんだよ。


「似たようなものはありますね。文明レベルとしてはそこそこ高いので」


 ほう、そうなんだ。


「ええ、転生先の惑星は、もともと知的生命体がいなかった惑星なんですよ。ですので、現地人はみな、他の宇宙からの移民です。そのため、中には元の宇宙で恒星間移動を可能にしていた種族さえいたはずです」


 あれ? それって、戦車いらなくね?


「恒星間移動の話は、あくまでも元の宇宙の技術レベルです。転生先の惑星では、そこまでのことは出来ていません。私が知っている範囲では、宇宙開発どころか、大陸の支配ですらまだまだで、いまだにモンスターの支配領域のほうが人類の居住地よりもはるかに多い状況です。ですので、そこはあなたが戦車と魔法を融合するなりして、強い戦車を作ってください。そうすれば、戦車も十分役に立つかと思いますよ。それに、金属加工系の魔法などを駆使すれば、1人で戦車を作ることも可能でしょう」


 うおお、まじか、そいつはいいな! ん、でも、ちょっと待てよ。なんかさ、もうすでに戦車ありそうだよな?


「以前、似たようなものが存在していたこともあるようですよ。もっとも、戦闘用ゴーレムというものに覇権争いで破れて、いまは衰退してしまっているようですが。ですが、私としては、あなたに勇者や英雄になることを望んでいるわけではありません。あくまでも開拓者として、寿命を全うしていただくことのほうが、重要ですからね」


 なるほどな。つまり俺は戦車を好きに作って、作った戦車で勝てる範囲のモンスターと戦って、寿命をまっとうすればいいってわけか。


「ええ、そういうことですね。では、そろそろお返事を聞かせてもらってもいいでしょうか?」


 もちろん行かせてもらうぜ。


「やる気十分ですね。では、勉強を始めましょうか」


 勉強するの? こう、魔法でぽんって教えてほしいんだけど。


「それでは身につきません。勉強に近道は存在しませんよ」


 まじかよ、俺勉強嫌いなのに。まさか死んでまで勉強することになるなんて。


 こうして俺は神様もどきと、猛勉強をするハメになった。もっとも、その過程でいろいろなことも教わったが。まさか神様もどきが、地球に存在する戦車の構造まで教えてくれるとは思わなかったぜ。それどころか、転生先の惑星にある魔道工学とかいうののことまで教えてくれた。なんでも、内燃機関が向こうには無いから、代替品である魔道エンジンのことを学んでおかないと、戦車が作れないらしい。


 そんなこんなで無事に俺は勉強を終え、転生したってわけさ。ただ、ものづくりがしたいとはいったが、まさか人間じゃなく、ドワーフに転生するとは思わなかったぜ。


 

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