第十話「分身鬼性獣の罠」

出演者やスタッフに内容の変更をどう説明しようかと思いながら、社内を準が歩いていたその時、突然準を大きな揺れが襲った。

 

「何?!地震………?!」

 

よろめき、倒れかける。

そして顔をあげた瞬間、準は驚くべき光景を目にする。

 

「………何あれ」

 

窓越しに見えるのは、いつも見慣れた街並みを破壊する巨大なコウモリのような怪物。

それに立ち向かう小型ロボット群。

 

所詮はよそ事他人事、もしくはテレビの向こうだけの物だと思っていた光景。

それが、今自分の眼前に広がっている。

 

準は、ただ呆然とするしか無かった。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「折角の休みに限ってそりゃあ無いでしょ~」

「仕方ないでしょう、ヒナタ!敵はこっちの事なんてお構い無しなんだから!」

 

休日を邪魔されたヒナタと加々美のケーオンが対峙するのは、巨大な翼を持つ鬼性獣。

 

ガシボやボルトヨガンと対比すると小型ではあるが、目を引くのは飛行機のものを思わせる巨大な翼。

二本角のような耳を持ち、牙の並んだ口は、吸血鬼を思わせる。

胸から腹にかけてを古いオーディオ機器を思わせる機械のパーツで覆い、ビカビカと妖しく発光させている。

 

KIKIKIKIKI!!

 

コウモリを思わせる姿の鬼性獣「ウゾーマ」が、嘲笑うような咆哮を響かせ、その翼を羽ばたかせた。

 

「こいつ!」

 

ヒナタ機のケーオンが手にしたマシンガンを発砲し、加々美機も同じようにマシンガンを放つ。

市街での戦いのため、バズーカのような大型の火器は使えないのだ。

 

KIKAKAKAKA!

 

しかし、着弾より早くウゾーマが舞い上がり、回避。

弾丸は虚しく宙を切った。

 

「避けた?!」

「なんてスピード………ああっ!」

 

その巨体からは想像できないスピードに加々美が驚いた隙をつき、二機の背後に回ったウゾーマが加々美機をその脚に捕らえた。

 

「テンドン!」

「テンドン言うなぁっ!」

 

二人のいつものボケと突っ込みの応酬であるが、今は流石に笑ってはいられない。

加々美機を救出に向かおうとするヒナタ機だが、それより早くウゾーマが羽根を羽ばたかせた。

 

「きゃああ!!」

「テンドンーッ!」

「だからテンドン言うなぁぁ!!」

 

ウゾーマは、上空から加々美のケーオンを地面に叩きつけて壊そうと考えていた。

ケーオンは小さい。故に、高高度から叩きつけられたのではひとたまりもない。

 

ウゾーマの顔がニタァ~と歪む。

今、まさに地面に叩きつけてやろうとした、その時である。

 

 

「リスカタァァーールッ!!」

 

 

ズバォッ!と刃の一撃が、ウゾーマの片足を、捕まれていた加々美機ごと切り落とす。

 

KIKAAAAAAA?!

 

悲痛の甲高い咆哮をあげるウゾーマ。

その前に、ズンッと降り立つ鉄の巨体。

 

「セクサー!」

 

ヒナタ機の前に降り立ったのは、他でもない我らがセクサーギャル。

手に握られた、加々美機を掴んだウゾーマの足を、やさしく下ろす。

切り落とされて握力が無くなった為、加々美機の拘束は簡単に解けた。

 

「ありがと、助かったわセクサー」

「気にすんなって、普段サポートしてもらってんだ、お互い様さ」

 

KIIIII………ッ!

 

セクサーギャルが加々美のケーオンを救出した背後。

ウゾーマが切り落とされた足を再生させて、恨めしそうにセクサーを睨んでいる。

 

「二人は後続の司と三郷と合流してくれ、こいつはセクサーロボが殺る!」

 

セクサーギャルが、ウゾーマの前に立ちはだかる。

 

「わかった、鬼性獣は任せるよ」

「負けたら承知しないわよ、涼子!」

 

その場をセクサーギャルに任せ、二機のケーオンがその場から撤退する。

残されたのは、睨み合うウゾーマとセクサーギャル。

 

「行くぜ光!」

「はい!涼子さん!」

 

先手必勝、一撃を叩き込むべくセクサーギャルが突撃をかける。

対するウゾーマは、どういう訳か微動だにしない。

 

「うおりゃああっ!!」

 

好機とばかりに、涼子はセクサーギャルの腕を振るい、ウゾーマを殴り付けようとした。

しかし。

 

 

「りゃああ………うおお?!」

 

 

ウゾーマに叩き込まれたはずのセクサーギャルの拳は、虚しく宙を切っていた。

そこにいるはずのウゾーマが、いつの間にか消えていたのだ。

 

「鬼性獣が消えた?!どうなってやがる!」

 

苛立ちと困惑の声をあげる涼子。

対する光は、即座にサブコックピットの戦闘管制システムを起動する。

 

セクサーロボに合体している時のCコマンダーのパイロットに与えられる役割は、こうした索敵や分析なのだ。

 

「………どういう事だ?センサーに反応がない?」

 

しかし、光の目の前のセンサーには、敵機=ウゾーマの中にいるであろうスティンクホーの反応がない。

プロの忍者だろうが見つけ出す (毒島談) セクサーロボのセンサーなのだが、画面に映るのは何もない地平。

 

ウゾーマが文字通り「消えた」としか、言いようがない。

 

「まさか逃げやがった、なんて事は………」

 

涼子がつぶやいた、その直後。

 

「ぐああっ!」

「うわあっ!」

 

ズワオ!と、背後からの一撃。

よろめき、振り返るセクサーギャルの前には、宙を舞うウゾーマの姿。

 

「野郎どこに隠れてやがっ………!」

 

言い終わるより早く、セクサーギャルを次の一撃が襲った。

 

「うおお?!今度はなんだ………!?」

 

攻撃してきた先にいたのは、なんと二体目のウゾーマ。

 

「ふ、双子ぉ!?」

 

思わず、すっとんきょうな声をあげる涼子。

 

「いえ、涼子さん………“六つ子”です」

 

見れば、ウゾーマは一体や二体ではない。

セクサーギャルを取り囲むように、その場には六体のウゾーマが存在していた。

 

サブコックピットの索敵センサーにも、ちゃんと六つの機影が映っている。

なんと、これ全てが実体を持った本物のウゾーマだ。

 

KIKIKIKI!

KIKKKKKK!

KIKAKAKAKA………!

KIIIII………!

 

セクサーギャルを取り囲む六体のウゾーマが、嘲笑うかのようにその不気味な声を都市に響かせる………。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「うわああ!」

「きゃあ!」

「逃げろ!」

「退け!押すなよ!」

 

その頃、丸山社のビルの中は大混乱に陥っていた。

 

街で鬼性獣とセクサーロボが戦っているのだ。こちらに被害が及ぶ可能性もある。

なら当然、ビルにいる人々は避難しなくてはならない。

 

しかし、会社の正門が戦いの余波で飛んで来た瓦礫に塞がれてしまったのだ。

そして、普段から仕事仕事で疲労が溜まり、政府から義務づけられていた避難訓練も真面目にやらなかった弊害が、今ここで出ていた。

 

「どこから避難すりゃいいんだ?!」

「非常口はどっちなのよ!」

「嫌だー!死ぬのは嫌だー!」

 

おさない、かけない、しゃべらないの避難訓練三原則と、真逆の事をやってしまっている。

非常口目掛けて殺到する社員達で、非常口はまるで都会の朝の駅のホームのよう。

 

「くっそお………!」

 

社員の一人が、窓を割って外に出ようと、椅子を窓に叩きつけようとした。

 

「バカヤロー!」

「がぶ?!」

 

しかし、その社員は殴り付けられた。

殴ったのは、外回りから帰って来ていきなりこの混乱に襲われた企画部長。

 

「緊急事態だろうが会社の物を壊したら、お前の給料から引かせてもらうからな!!」

 

部下を心配しての行動に思われたが、実際は会社の物を壊されたくないだけである。

 

「まったく、帰りにお得意先とキャバクラに行く予定だったのに………!」

 

これでは無事逃げられたとしても、街であんなもの達が暴れたのでは、キャバクラは開いていまい。

と企画部長はぼやく。

これで折角の取引がパーだ、と。

 

 

人々が避難する中、その逆方向を走る人影が一つ。

準だ。

 

準だけが避難せず、人混みを掻き分けて会社の屋上に向かっていた。

 

「………何故?」

 

何故だかは、解らない。

ただ、あのセクサーロボの姿を見た途端、何かの義務感に駆られていた。

 

「………私は………!」

 

ただ、本能が求めていた。

あのロボを、あそこにある「何か」を。

何故かは解らない。

だが、強い本能が、準の心をかき乱し、身体を突き動かさせている。

 

準の身体が、まるで豹のように駆けた。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

KIKAAAAAAA!!

 

ウゾーマが空中から急降下を仕掛け、セクサーギャルに爪の一撃を叩き込む。

 

「ぐあっ!!」

 

ガキンッ!という音と共に、セクサーギャルがよろめいた。

 

「くそっ、セクサービームッ!!」

 

セクサーギャルの額から桃色の光線「セクサービーム」が放たれた。

通常なら鬼性獣相手に有効な武装ではあるが、空を舞うウゾーマはそれをひょいひょいと避ける。

 

KIKIKIKI!

「がふうっ!?」

 

今度は、背後からの爪の一撃。

別のウゾーマによる物だ。

 

「くそっ、コウモリ野郎共が………!」

 

絶え間なく浴びせられるウゾーマの波状攻撃が、涼子の精神と体力がどんどん削られて行く。

 

「間接、装甲ダメージレベル6!このままでは危険です涼子さん!」

『わかってる!だから困ってるんだろうが!』

 

セクサーギャルも、度重なるウゾーマの攻撃で確実に追い詰められていた。

 

ウゾーマは、先に戦ったガシボやボルトヨガンと比べるとパワーは劣る。

しかし、確実に一点を攻撃する事で、徐々にセクサーギャルにダメージを与えていた。

 

「ぐああっ!」

「わああっ!」

 

間髪入れずに、ウゾーマの次の一撃が入る。

セクサーギャルは、ただ嬲られ続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「ああっ!」

 

走り続け、準は丸山ビルの屋上に着いた。

セクサーギャルとウゾーマ達の戦いがよく見える場所に。

 

「ああっ………!」

 

一方的に攻撃を受けるセクサーギャル。その姿に、準の中の「何か」が疼いた。

 

「はんっ……あはぁぁっ………!」

 

顔を光悦とさせ、その場にへたり混む。

 

「(なに………これ………?!)」

 

準は混乱する。

一方的に嬲られるあのロボットを見て、自分の中に、熱を帯びた感情が芽生えている事に。

 

すでに足がガクガクと震え、息は荒ぎ、胸の奥がキュウウンッと疼く。

 

「(ああ………これって………)」

 

準の脳裏に、昔の記憶が過る。

 

思い出した。

自分は過去にも、同じような経験をした事がある。

 

それは、「もぎたて!ラブピュア」のワンシーン。

敵に戻ったノースが自分の心を否定しようとして、わざとマサトを傷つけるシーンだ。

 

当時準は、ムチを振るわれて苦悶の表情を浮かべるマサトを前に、身体に電流のようなものが走ったのを覚えている。


母親の教育により性的なものを嫌悪してきた準がはじめて感じた、「目覚め」であった。

 

 

「はぁ、あっ………はぁぁ………!」

 

もう、立つ事すらままならなかった。

胸が疼き、心臓が脈打ち、思考が暴走する。


身体は汗ばみ、顔は長距離を走った後のように赤く紅潮する。

 

「はぁっ、あっ………はぁっ………!」

 

想像する。

自分がウゾーマやノースのように、マサトのような少年に鞭を振るう姿を。


少年が浮かべる苦悶の表情。

それを思い浮かべると、準の胸の奥の奥が、締め付けられるように疼いた。

 

そしてその思いによって、目覚めようとしているものがあった………。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

五月雨研究所。

 

「どうなっている?!」

「解りません!誰も乗っていないのに、オウル号が!」

 

混乱に包まれる研究所。

その原因は、サーバル号に続く第二のヒロイジェッター。

 

機首にドリルを持った奇抜な外観が目を引く紫色の機体「オウル号」が、誰も乗っていないのに起動したのだ。

 

「ハッキングは!」

「反応なし!ウィルスも探知されません!」

「じゃあオウル号は自分の意思で動いてるってのか!?」

 

混乱する整備班の眼前で、オウル号のエンジンに火が入る。

 

「発進するつもりか?!」

 

機首のドリルが高速回転を始める。

ハッチを突き破り、強硬発進するつもりだ。

させてたまるかと、整備班がオウル号に固定用のロックを噛ませようとする。

そこに。

 

『聞こえるか整備班』

「博士!?」

 

整備班班長に、五月雨からの通信が入る。

そして、その内容が。

 

『ハッチを開ける、オウル号を発進させろ』

「なんですって?!」

 

これであった。

今のオウル号を出撃させれば、何が起こるか解った物ではないのに。

 

『今のオウル号は、あのセクサーロボが戦っている街に向かおうとしている』

「何故、そんな事が言い切れるのです?!」

『街で光の持つイロモンGOに強い反応があった、それが今、街でのセクサーロボの戦いによって撒き散らされたゼリンツ線に反応を起こし、オウル号を呼んでいるのだ、こちらのモニターでも確認は取れている』

 

これもゼリンツ線のなせる技か、と、整備班班長は額に冷や汗をかく。

 

「………班長、どうします?」

 

整備班の一人が、不安げに尋ねる。

通信を終えた班長は、彼等の方を向くと、いつものような大声で彼等に指令を飛ばす。

 

 

「ロックを解除し、ハッチを開けろ!博士からの指令だ、オウル号を発進させる!」

 

 

班長の指令により、オウル号を拘束していたロックをが解除され、外に続くハッチが開く。

カタパルトが展開し、出撃準備が整った。

 

ズワーッ!

 

轟音をたて、オウル号が出撃して行く。

整備班は、空の彼方に消えて行くオウル号を、ただただ見送った………。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

防戦一方のセクサーギャル。

相も変わらずウゾーマの波状攻撃に晒され、その場を動けないでいる。

 

「………ん?」

 

光がセンサーに映る機影に気付いた。

真っ直ぐに、こちらに向かってくる。

 

「涼子さん、こちらに何かが近づいてきます!」

「新手か?!こんな時に!」

「いえ!これは………」

 

ウゾーマの間を切り裂くように、セクサーギャルの目の前を通り過ぎたそれは………

 

「ヒロイジェッター!!」


ドリルを回す紫色の機体・オウル号。

その矢のような機体はセクサーギャルの前を通りすぎて飛ぶ。


そして………。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

ズワオ!

「きゃあ!」

 

準のすぐ隣。

丸川社ビルの屋上に、不時着するように突き刺さった。

 

「………えっ?」

 

吹き飛ばされ、倒れた身体を起こした準は、眼前に鎮座するオウル号を前に唖然とする。

これは何なのか?何故ここにこんな物が?

準が混乱するより早く、オウル号のコックピットハッチが開いた。

そして。

 

『聞こえるか!今すぐこれに乗れ!』

「えっ?!」

 

コックピットから声が響いた。

五月雨からの通信だ。

 

「わ、私………?」

『そうだ!理由は後から話す、とにかく今はこれに乗って操縦しろ!やり方はシートに内蔵した教育コンピュータが教えてくれる!さあ!』

 

五月雨が言うまでもなく、準は自分が呼んでいたのがこれであると理解していた。


漠然とだが感じていた。

これが、自分をこことは違う場所に連れていってくれると。

 

「………ッ!」

 

自分を虐げる社会にも会社にも、未練はない。

疼く本能が、準に機体への一歩を踏み出させた。

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