ソラ コトバ ~どうしても恋愛に聞こえてしまう物語~

柊 一葉

第1話 なんちゃってBL

真っ暗な狭い空間で、青年二人が隣り合っている。

高校の同級生だった二人は、今年25歳。

互いの家を行き来し合う間柄で、こどもの頃からずっとその関係は続いてきた。


何でも話し合える、対等な友人関係。

しかしそれが今、目に見えて崩れていた……



篤史あつし、ガッチガチじゃん。そんな緊張すんなって」


明るい声を発する祐樹ゆうき。緊張で顔を引きつらせる相方を見て、ケラケラと笑っている。

一方の篤史は、明らかに狼狽した声を上げた。


「無理。絶対に無理」


目をぎゅっと閉じ、大きくかぶりを振る。緊張からか、じわりと額に汗がにじんでいた。


「何年ぶり?」


「6年かな」


「そんなにかよ!」


20代の6年間は、長い。からかって笑っていた祐樹も、苦笑いへと変わる。


「俺、引越したからさ。会社の寮で暮らすようになってから全然」


「へぇ」


「あー、もー!なんでおまえそんな余裕なの!?俺なんてさっきからずっと心臓がすげー鳴ってんだよ!余裕ゼロだから!!」


「落ち着け。やればできる」


祐樹はなんとかなだめようと手を差し伸べるが、その手はあっけなく振り払われた。


「はぁ!?人ごとかよ!?」


俗にいう逆切れである。


「俺だっておまえがそんなだから緊張してきたわ!いいかげん、早くしろよ!一回いっときゃ大丈夫だって!」


「あああ!待て、触んな!俺は俺のペースでやるから!」


「うるさい、早く出せ!」


「いきなりは無理に決まってるだろぉぉぉ!?」


「あ、そう」


しばらく沈黙が続き、篤史の悲哀はピークに達していた。


「もうやだ、死にそう。俺今日死ぬかも」


「不吉なこと言うな。死なねーよ、多分。それに、死ぬときは一緒だろ?」


「だよな」


「で?準備はできたか?」


「あぁ……」


「嘘つけ」


再び静寂が訪れる。

篤史は大きく深呼吸して、祐樹の目をまっすぐに見つめた。


「今さらだけどさ、俺まず何からしたらいい?目の前が真っ暗なんだけど」



興奮気味の篤史に対し、冷静な祐樹は的確にアドバイスをする。



「そうだな」




見つめ合う二人。


篤史はゴクリと唾を飲み込んだ。





「とりあえずライトつけろ」


「はい」


「ミラー出せ」


「はい」


「おまっ……!まだシートベルトもつけてなかったのかよ!!」


「んなこと言われても6年ぶりなんだからよー!!」



暗闇の駐車場、彼らはまだまだ出発できない。



「しゃーねーなぁ。しっかり面倒みてやるよ」


「ごめんね?ごめんね?メシおごるよ」

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