28.後輩の独白


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窮屈な世界に生きていた。


愛されている。大事にされている。そう言えば幸せなことだ。それに文句を言うなんてひどく贅沢な話。でも俺は、そんな自分の状況に大きな不満を抱えていた。


お金持ちな家柄。何事もそつなくこなせてしまう性格。整っていると言われる容姿。勉強も運動も苦手と言えるようなことはほとんどない。多分容量がいいのだろう。俺はいつだって最小の努力で最大の結果を上げてきた。だから何事もすぐに飽きてしまって、熱中するものになど出会ったことがない。どんなに素晴らしい結果を残したって俺にとっては普通のことで、心から喜んだことなんて無い気がする。


それ故に人から妬まれたりすることは多い。自慢なんてしなくても、そんな態度が人から見れば気にくわないものらしかった。俺の周囲には近づいてくる人が居なくなって、少し遠くから賞賛の声をかけてくる他人ばかりが集まった。その中にもごくたまに親しげに声をかけてくる人物もいたが、彼らの目には俺が映っていない。俺と一緒にいることで得られるステータスのようなものを目的に近づいてきていることなど、眼に見えて明らかだった。そういう連中は大概うっとおしい。話しかけられても無視に徹すれば、俺に見切りをつけて悪態をついて離れていくのも早かった。

友達が少ないことが悪いことであるのなら、それは欠点かもしれない。でも俺にとって友人の有無は大した問題ではなかった。支え合う友達などいなくても、辛いことなどなかったから。


人間関係の面倒臭さを学んだ俺は、1人でいることが好きになった。家でも、学校でも。

だから学校では一人でいられる場所をいつも探していた。人が常にいる教室はなんとなく居心地が悪い。常にガヤガヤとうるさく、単純な好意だけでは無い人の視線を感じる。静かで落ち着ける時間なんて滅多にやってこない。俺は穏やかな空間が好きだ。ゆったりと、時間の流れが緩やかに感じるような。何かに集中したいからとかではない。静かな場所に居ることが好きなのだ。その空間にいる間、勿論課題とかやらねばならないことがあったらやるが、基本的には何もせずぼうっとして過ごす。何も生み出さない無為な時間だとしても、誰になんと言われようと、俺にとってはそれが一番幸せな時間だった。




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