17.自慢の先輩

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



目を、奪われた。


なんて格好いい人なんだろう。


絶対不利な状況で、不敵に笑ってバトンを受け取る。まるで映画の主人公みたい。今まで見たことがないくらい真剣な表情で必死に走る姿から目が離せない。

あんなに嫌そうな顔をしていたのに、何が先輩に火をつけたのだろう。先輩を励まそうとして持ちかけた勝負。あれのおかげとはあまり思えない。自分で言っておいてなんだが、そんな煽りに簡単に乗るような人じゃない。


ぐんぐんと前方との距離を詰めていくから、先輩の足の早さは目に見えて明らかで、誰が見ても驚嘆に値するものだった。


「すげーなあいつ…誰だ?」


誰かのつぶやきが俺にはひどく誇らしかった。あれは、俺の先輩だ。俺だけが知っていたんだ。あの人はすごい人なんだって。

ただ本気で先輩が走っている姿が見れただけなのに、こんなにも嬉しい。


そんな風にしているとあっという間に自分の番が来て、俺は早く先輩にこの気持ちを伝えたくて思い切り走った。

だけどその周りには先輩を称えるクラスメイトがいる。そうして一緒に優勝を喜んでいるのを見て、近づいてはいけないと思った。


俺は初めて見た。あんな風に屈託無く笑う先輩の顔。本当に、本当に心から嬉しそうな笑顔。俺は、見たことがない。

いつもどこか大人びていて、感情を出すときは控えめだ。そんな先輩の純粋な笑顔はとても新鮮だった。


先輩に近寄ることは諦めて、おとなしく退場することにする。俺が健闘を称えるのはいつでもできること。でもこの優勝の喜びを分かち合うのは今しかできないことだから。先輩のあの楽しそうな表情が一秒でも長く続いて欲しかったから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る