8.テストの成績について


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日はテストの順位が発表される日だった。うちの学校は学年ごとに10位まで掲示されるようになっている。俺は今回は11位だった。前回までは10位以内に入っていたのだが、弟が入ってきたから名前を出されたくなくて、わざと数問落とした。狙い通りの順位がとれて俺は大満足だが、おそらく親にとってはあまり喜ばしい成績じゃないだろう。俺のことなど興味はないくせに、こういうところだけ文句は言ってくるから。

ふと、1つ下の1年生の順位表に目を移す。驚いたことに弟は2位だった。いつだってなんだって1番を取る弟が珍しい。入学式の代表挨拶もそうだがどうやらかなりすごい奴がいるらしい。そう思い弟の名前から右に視線をスライドする。

その名前を俺は何度も心の中で読み上げた。既視感のあり過ぎる苗字に自分の目を疑ってしまう。嘘だろと思っていると不意に肩を叩かれた。


「先輩」


勢いよく振り返って俺はどういうことだとその人物の肩を掴む。


「お前!え、お前なの!?」


「…何の話ですか?」


順位表を指差せば、さも当たり前というように軽く頷いて見せてくれた。大したことではないというように。なんとなくなんでもできそうな雰囲気は醸していたが、まさかこいつがあの弟を負かしている男だったなんて。

驚きのあまり返す言葉もない俺を不思議そうな顔で見てくる。そりゃお前にとっちゃ普通のことなのかもしれないけどさ。


「先輩は何位だったんですか」


「11位」


「惜しかったですね」


「いや?お前に名前知られたくなかったからさ。ギリギリ11位にしといた」


名前が知られたくないのは別にお前だけじゃないけど。適当に返したその言葉に今度は塚本くんが驚いた顔をする。


「…なんだよ」


「すごくないですか、それ」


「……一位とってるお前に言われても嬉しくないんだけど」


「いや先輩多分俺よりすごいことしてると思うんですけど」


平然とトップを取れる天才にそんなこと言われてもなんだかという感じだ。狙った下位は取れても1位は流石に取れない。死ぬほど勉強しても上には上がいる。その最上に行くことは本当に大変なことなのだ。


「やっぱり先輩はすごい人です」


それなのに彼はきらきらと目を輝かせながらそんなことを言ってくる。不思議な奴。なんで彼は俺のことをそんなに慕うのだろう。思い返してみれば割と最初の頃から彼は俺に対して尊敬に似た感情を俺に持っている気がする。彼に対して何かした記憶はないし、何かやり遂げて見せたこともない。彼の中の人を評価する基準が狂っているとしか思えない。自分でもいうのもあれだが俺は大したことない人間なのだ。平々凡々。細かいことをいえばちょっと上だけど。この才能の塊みたいな人間の瞳に、俺は一体どんな風に映っているのだろう。


くだらない思考を遮るようにぐう、と小さくお腹がなる。そういえば今は昼休みだったか。


「そういや塚本くんもう飯食った?」


「いえ」


まだですと、手に持った綺麗な日本柄の包みを俺に見せてくる。お弁当なんてもう何年も作ってもらっていない。少しだけ、この家庭感が羨ましい。


「じゃ、一緒に食う?お前が約束とかしてなきゃだけ、ど」


最後まで言い終わる前に彼は吊り下げられた餌に飛びつくように、うんうんと激しく頷いた。本当にこいつ友だちとか居ないんじゃないのか。まさか今まで一人で食ってたのか?もっと前に誘ってやればよかったかもしれないが、俺が出しゃばってもクラスでどんどん浮いてしまうだけだ。本当はクラスや同学年の友達と食べるべき。だけど今日一日くらいはいいだろう。


犬のようにすぐ後ろを付いてくる塚本くん。真横じゃなくてちょっと後ろに下がって俺のことをじっと見てる。いつもいつも視線が痛いって。

そんな彼のことがおかしくて、ちょっと振り返って目が合うと俺は笑いを堪えられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る