第22話 キューブタイプうどん

 ササキは例の大会でふるまうべきメニューで頭がいっぱいだったが、「旧文明の飛行機墓場」と呼ばれる地帯を探索してはどうかというレナの発案にしたがってホバーバイクを走らせていた。


 地上10mほどの高さで旧高速道路を走らせる。

 このあたりは極地戦争の影響でところどころ大きなクレーターができていた。

 

 しばらく飛行するとかつてナリタと言われた地域で見えてきた。

 このあたりは固定翼で大気圏内を飛行する民間機が飛び交っていたという。そのほとんどは打ち捨てられ廃墟となった航空機がそこら中に置き去りにされている。


 もっともこの地域での楽しみは屋台村だ。


「おぉ今日もやってるな」

 ササキはホバーバイクを地上に止めオート警戒モードにした。

 

 管制塔廃墟のそばに色とりどりの布を屋根としたテント村ができていた。

 そのほとんどがいわゆる屋台だ。


 もともとは管理外の地域で機動警察と小競り合いもあったというが、今は屋台のほとんどは登録され管理された住民たちが売り買いしている。そのすべては当局に記録されてはいるが、事実上何を売っても買っても構わないというお目こぼし状態だった。


 屋台村は活気があり、管理者風の人間もうろついている。

 飛行機の残骸から引きずり出したよくわからない機械、旧文明の半導体、食器、小瓶の酒、何でも売っている。


「安いよー! 今日は旧文明の"うどん"が売ってるでー!」

 子供……というより濃紺色で厚手の布をマントのようにかぶった少女が屋台の前で大声をあげていた。布はおそらく旧文明のカーテンか何かだろう。


「お、兄さん試してみるかい。消化にも良いし魚の出汁が効いた逸品やで」

 彼女は薄汚れた鼻の下をぐいっとぬぐってにやっと笑った。

 許可をとって遺跡を掘っているトレジャーハンターかスカベンジャーだろう。


「いくら?」

「共通アースドルみっつかよっつでいいで」

「じゃあもらおうかな」


 ササキは終末統合端末から彼女のIDに対してアースドルを4つ送金した。

「確かに、じゃこれうどんやで」


 何やら職員向けのキューブ定食によく似たプレートが手渡された。

 旧文明のものには違いない。


「立ち食いならあっちやで」

「ありがとう」


 立ち食い用のカウンターにプレートを置いてフィルムをはがしてみた。


「うどん」というものをササキは写真で見たことがあった。

 白い太めの麺、乾燥した魚や藻類からとったスープに入った料理。それが「うどん」だ。


 しかし……そのプレートに入っていたのは白い立方体のキューブが10個ほど、そして同数の琥珀色の立方体のキューブ、何やら黄金色の立方体のキューブが2個。


 以上だった。


 ササキは売り子の少女をちらっと見たが彼女はにんまりと笑って「白いキューブとそのけったいな色のキューブを同時に食うんやで」と言った。

 

 仕方なくササキは白いキューブと琥珀色のキューブを同時に口に放り込む。

 すると何と、口の中にあっさりとしつつも濃厚な出汁を感じるスープと、つるっとした触感の細長い麺が出現した。


「おぉっ!?」

 驚くササキに売り子の少女がにやにやと話しかける。

「せやで、みんなお客さんはおどろくんや。それがうどんやで」


 どうやらキューブを口に放り込むと、キューブがほぐれてうどんの麺とスープになるようだった。


「ではこの黄金色のキューブは……?」

 

 出汁の風味が効いた何やらもちもちと弾力のある、そして香ばしさも感じるキューブだった。

「これが伝説の"きつね"……?」

「うどんといえばおきつねさんやな」

「なるほど……」


 ササキはあっというまに平らげてしまった。

 しかもそれなりに腹が満ちたように思う。


「これは素晴らしい……」


 量を減らせば前菜、あるいは変わり種のスープとしても使えるかもしれなかった。

 

「できれば何個か買っていきたいんだが」

「うーんいま在庫があんまりないで。住所教えてくれたら発掘した分だけ送ったろか?」

「じゃあそうしてくれ」


 機動警察の住所を伝え、ササキは共通アースドルをさらに20ほど彼女に送信したのだった。



「キューブタイプうどん」

――材料 (1人分)

キューブタイプうどんのプレート× 1


――作り方

1.フィルムをはがす

2.スープキューブと麺キューブを同時に食べる


――コツ・ポイント

あっさり風味、しょうゆ風味、出汁風味など複数のバリエーションがあります。

中には麺キューブとわずかな醤油キューブのみの製品もありますが、お好みでお召し上がりください。



 

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