追放ヒーラー集めて最強パーティ目指してみる

神崎 彰真

第001話 送別会

 王国の外れにある田舎町、サランの路地裏で、五人の冒険者達が一人の男を取り囲んでいた。

 今はまだ通りに人もいないほどの薄暗い早朝、野鳥がチュンチュンとちらほら鳴き始める時間帯であった。

 取り囲んでいる者達の中で、眩いほど銀色に輝く鎧を着込んだ緑髪の男が冷たい口調で話し掛ける。


「グレイン、単刀直入に言うが、もうお前に用はない。今日限りでクビだ。このパーティから出てってもらう」


 グレインと呼ばれた銀髪の男は、突然の言葉に動揺を隠せない。


「ちょ、ちょっと待てよリーナス! 俺はパーティ結成当初から、これまで五年もこのパーティの為に尽くしてきただろ? なんだっていきなりそんな話になったんだ?」


「……俺達『緑風のさざなみ』は、今からこの田舎町を出ていくことにした。この時間に出発すれば、夕暮れまでに隣町に着けるからな」


 銀色の鎧の男──リーナスは、腰の長剣に手を掛け、カチカチと音を鳴らしながら、グレインの方へ一歩近づくと、表情を変えることなく告げた。


「もう、お前のような役立たずのジョブ無しは要らないんだ。俺達のジョブを考えてもみろよ。俺が戦士、アイシャが騎士、魔法使いのラミア、治癒師セフィスト、そして……無職のグレイン、お前だ」


「ジョブは無いけど、あえて職業をつけるなら荷物持ちかしら?」


 全身を黒装束に包み、さらに黒いとんがり帽子をかぶった女、魔法使いのラミアが、グレインを睨みつけながら皮肉を付け足した。

 それを切っ掛けに、他のメンバーたちも次々に口を開く。まずはリーナスの隣に立っていた甲冑女騎士のアイシャ。


「キミは荷物持ちと、微妙にセフィストの能力を底上げするしか役に立ってないからね。私達はキミと一緒だと、これ以上の成長が見込めないのさ。その証拠に、パーティ結成から五年経っても、まだこの初心者向けの町、サランにいる。私はもうこの町に飽きたよ。私達のレベルにも合わなくなってきた。だから、皆で思い切って別の町へ行こうとリーナスに提案したんだ」


 グレインの真後ろに立っている治癒師セフィストも優しい口調で語り掛ける。


「しかし、他の町へ行くということは、モンスターも強くなり、危険度が増します。我々はジョブを心得ているため、今より強いモンスターが現れても戦えますが、グレイン君はジョブがないではありませんか。そうすると、グレイン君を待ち受ける運命は……確実な死です。そうすると、グレイン君にはこの町でパーティから外れてもらうのが最善だと考えたわけです。君の『味方の治癒師の能力アップ』という特殊能力だけが唯一の取柄でしたが、我々もこのあたりのモンスターではかすり傷程度しか負わないですし、私の治癒能力も成長しましたので、あなたの特殊能力は存在意義を失いました」


 全員が話し終えるのを見て、リーナスはどこか悪意の籠った笑みを浮かべながら、話を引き継ぐ。


「皆の言う通りだ。俺たちはお前のことを考えて、この町でクビにしてやると言ってるんだから、その言葉をありがたく受け取って欲しいもんだ。俺達全員、十八歳でパーティ組んで、二十歳で教会の洗礼を受けてジョブを授かっただろ。お前のジョブ無しもその時に分かったから、本来ならその時点でクビにしてもおかしくないところだったんだ。だが、さすがに即クビにするのはかわいそうだろうということで、俺達はそこから三年も、戦闘や雑用で全く役に立たない無職のお前をパーティに置いてやったんだ。いつクビになってもおかしくない状態だったって気が付かなかったのか?」


「特殊能力は空気みたいに存在感無いし、戦闘でも雑用でも役立たずで、貢献したのは荷物持ちぐらい? でもその荷物持ちも、もう要らなくなくなっちゃったんだよね」


 ラミアが再び憎まれ口を叩きながら、これまでグレインを取り囲んでいる者達の中で、唯一無言を貫いている男の方へ視線を向ける。

 男もラミアと同様、全身に黒装束を纏っていたが、背中には短い剣を背負っている。


「グレインさん、初めまして。ダラスと申します。ジョブは暗殺者です」


「わたしが冒険者ギルドで見つけてスカウトしてさ、今日から加入することになったんだよ! ダラスは暗殺者なのに魔法も使えてさ、荷物の重さを感じなくできるって訳」


「重力操作魔法です。……もうパーティメンバーではなくなる方に、あまり手の内を明かすのは得策ではないのですが」


「ラミア、ダラス、もうコイツとの話は終わるから、それまで少し黙っていてくれよ。一応俺がリーダーなんだぜ?……グレイン、そういう訳でお前は今この瞬間から『緑風の漣』メンバーではなくなった。それじゃあ、『送別会』といくか!」


 そう言った瞬間、リーナスの右手拳がグレインの腹にめり込んでいた。


「うぐっ! ぐ……ごばぁ……」


 グレインはその場に蹲りながら、口から苦悶の息とともに、胃から込み上げてくるものを地面にぶち撒けた。


「きったねぇなぁ……雑用とは言え『緑風の漣』に五年も在籍してたんだ。たった一撃で沈むなよ……っと!」


 リーナスは蹲るグレインの顎をつま先で蹴り上げる。


「わたしたちの積年の恨みをここで晴らさせてもらうわ!」


 ラミアは持っている魔導士用の杖で何度もグレインの頭頂部を殴りつける。


「キミのせいで三年もここで無駄に燻ってたんだぞ!どう責任を取ってくれるんだ!」


 アイシャも鋼鉄の拳を何度も何度もグレインの全身に叩き付けていく。


「皆さん、少々お待ちを。パーティメンバーが怪我したら治療するのは仕事なので当たり前ですが、グレイン君は別です。これまでの君の怪我を私が治療した分については、ちゃんと治療費をいただきますよ」


 セフィストはそう言って、他のメンバーの暴行を一旦止めて、ぐったりしたグレインの装備していた軽鎧などの防具や財布、所持品を剥ぎ取っていく。

 一頻りの略奪が終わった後、セフィストは合図を出し、再びメンバーからの暴行が始まる。

 しかし、防具も含めて装備品を全て略奪されたグレインが受けるダメージは、最初の暴行の比では無かった。

 あっという間にグレインは意識を手放し、その後はメンバーたちが長年にわたって溜め込んでいた鬱憤の捌け口になっていた。


「フン……胸糞が悪い」


 ダラスはその様子を遠巻きに眺めてぽつりと呟いた。



 数時間後、路地裏に出来た血溜まりの中で、誰だか分からなくなるほど顔が腫れ上がったグレインが発見された頃には、『緑風の漣』は笑いながら次の町へと旅立っていた。

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