第16話 イギリスのジェマ②

階段をゆっくりと降りていくと奥にはドアがありその隙間から光が漏れているのが分かった。

見つからないよう細心の注意を払いながら壁に耳を当てると何か声が聞こえた。


「どこにもねえなぁ、本当に参っちまうよ。」


声はだいぶ渋い若い男性の声が聞こえた。

何かを漁っているような音とともに独り言を言っているようだった。

能力者に関する情報のリストだろうか?


「ったく、研究員のやつら バレないようとはいっても一人くらい拉致って情報を吐かせるべきだったなぁ。まぁいっか。」


するとその男性は独り言をやめ、物音もしなくなった。

すると、カツーン、カツーン、と靴で地面を鳴らしながら扉のほうへと近づいてきた。

扉の取っ手をつかむとドアを開けず立ち止まった。

俺とその男性との間にはドア一枚しかない。






「悪いね、仕事なんだわ。」






瞬間だった。

扉のど真ん中にいきなり穴が開いて広がっていき、扉は崩壊をした。

俺は離れて一気に間合いを取った。

何事だったのか俺には理解が出来なかった。

しかし、この男性による攻撃であることは間違いないとわかっていた。

崩壊しかけている扉を見ると空いた穴のあたりから黒い煙が出ているのが分かった。


「おっと、さすがに避けるか。」


「お前、何者だ。」


聞くまでもなかったであろう。

この異様な感じ、西条先輩あのおんなに似ているものがあった。

他人を殺すということに一切の躊躇いもない。

しかし、俺はその男に聞かずにはいられなかった。

きっと『ジェマ』である自分ももしかしたら似ているものを持っているかもしれなかったからだろう。

心の中では否定していても似ているからだろう。

自分も西条先輩を殺すことに躊躇はしなかった。


「そうだな、『イギリスのジェマ』とでも名乗っておこうかな。」


銀髪の男はそう答えた。

眼鏡をかけた細目、そして髪は長めの髪。一つ、三つ編みでサイドテールのようになっていた。


「室内でも甲冑をつけてると禿げるぜ?」


「こういう趣味なんだよ。」


「変わった趣味だなぁオイ。剣を使う英雄ねぇ……多すぎて把握できねえわ。」


「お前こそ、素手で戦うのか?」


「まぁな!」


その男はダッシュをしながら俺のほうへと間合いを詰めてきた。

握っていたこぶしを広げると俺に触れようと手のひらを差し出してきた。

防ぐか……いや!わざと防がせようとしている!

間一髪でかわすと触れた鎧の一部が消滅していることに気づいた。


「なんだ!?」


先ほどの扉のときとまったく同じだった。

触れた時にその物体が消滅をしていき、消滅した部分からは黒い煙が出る。

触れられるだけで俺のほうはどんどん溶けていく、俺の兜は直に触れられたら俺の顔が丸見えになるから余計に気を使わなければならない。


「変わった手をしてるな、それだと生活しづらくないのか?」


避けながらどうにか剣を振るうと、男は俺から距離を取った。

剣を触れば俺の剣は消滅するかもしれないがこの状況はお互いに英雄の内容が分かってないため無暗やたらに障るべきではないとの判断だ。

頭も回るな……随分とやっかいな奴が相手になった。


「別にこれは俺自身の能力で調節ができるぞ。お前の甲冑のようにな!」


再び俺のほうへと間合いを詰めると男はまた同じように顔へと触ろうとしてきた。

状態をそらして避けようとすると空ぶった左手を俺の腰のほうへ、当てようとしてきた。

上体が不安定なままでは下半身を動かすことはできない……!


「まずい!」


籠手の鎧でどうにか左手を防ぐと俺の右手についてた籠手は徐々に蒸発のように、黒い煙をあげて消滅をした。

しかし、ここで一つの疑問が浮かび上がった。

左手で空ぶったときどうして余裕のあった右手ではなく、わざわざ左手で触れたのだろうか。


「さてと、これでもう右手で防ぐことはできないな。」


「あぁ、でもお前のことも一つ分かった。」


「何がだ?」


「どうして、わざわざ左手で触れることにこだわるのか。というか、左手で触れないとその消滅は効果ないんじゃないのか?」


「どうだか……!」


男はそのまま、一直線に俺のほうへと突っ込んできた。

焦りが見えた、ビンゴだ。

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