第40話・大切なお友達

 文化祭の準備もほとんど終わり、いよいよ明後日が本番となった放課後、俺は覚悟を決めて不思議研究会の部室を訪れた。


「あっ、先生お疲れ様でーす」

「お疲れ、こっちの準備は終わった?」

「バッチリですよ!」

「そっか、それじゃあさっそくだけど、赤井さんに大切な話があるんだ」

「えっ? シエラちゃんじゃなくて私にですか?」

「うん」

「まさか先生、シエラちゃんを差し置いて私に惚れちゃったとか!? いけませんよ先生、私はシエラちゃんを悲しませたくないから……」


 そう言うと赤井さんはわざとらしくしなを作りながら俺を見つめた。


「先生、早矢香の事が好きなの?」

「ち、違うよ! 俺が好きなのはシエラちゃんだけだ! あっ――」


 赤井さんの後ろに居るシエラちゃんにそう言われて焦った俺は、即座にそう答えた。しかしそれが赤井さんの仕掛けた罠だと気付いた時には既に遅く、チラ見した赤井さんはニンマリした表情を浮かべていた。


「最近の先生はハッキリしてていいですね♪ そんなにシエラちゃんの事が好きなんですかぁ?」

「えっと……それはその……」


 シエラちゃんの事が好きなのは間違いないが、それを人前で堂々と言えるほど俺の恋愛経験値は高くない。


「あははっ、先生って大人なのに可愛いですよねー♪」

「あのなぁ、大人をからかうもんじゃないぞ?」

「ごめんなさーい。それで、私に話って何ですか?」

「あー、順序立てて話そうと思ったけど、今のでそれもできなくなったな……」

「えっ? どういう意味ですか?」

「とりあえず後ろを振り向いてくれたら分かるよ」

「後ろですか? えっ!?」


 言われた通りに後ろを振り向いた赤井さんは、視線の先に居る黒い羽と悪魔の尻尾が出てしまったシエラちゃんを見て驚きの声を上げた。


「えっとあの……先生とシエラちゃんで仕掛けたドッキリですか?」

「いやまあ、そう思うのが普通だろうけど、これは現実なんだ」

「てことは、シエラちゃんは本当に悪魔だったの?」

「うん、私は魔界から来た悪魔」


 シエラちゃんがそう言うと赤井さんは顔を深く俯かせ、身体を小刻みに震わせ始めた。


 ――やっぱりいきなりシエラちゃんの正体を見せたのはマズかったか?


「あの、赤井さ――」

「いいっ! いいよシエラちゃん! 他の人とは違う雰囲気があったけど、本当に悪魔だったなんて最高だよっ!」

「早矢香は私が悪魔でもいいの?」

「いいに決まってるじゃない! こんなに可愛い悪魔とお友達になれるなんて、私は超ハッピーだよっ!」

「むぐっ」


 今までに無いくらいのハイテンションな声でそう言うと、赤井さんはいつもよりも激しくシエラちゃんを抱き締めた。


「あの、シエラちゃんが悪魔だって信じたの?」

「信じるも何も、こうして黒い羽と尻尾が動いてるじゃないですか! これを見て信じない方がおかしいですよ!」

「それはそうかもだが、少しは疑ったりしないのか?」

「先生とシエラちゃんがそう言うなら、嘘だなんて思いません。それに初めて見た悪魔がシエラちゃんみたいな可愛い子だったなんて、最高としか言い様がないじゃないですか!」

「信用してもらえてるのは嬉しいけど、そろそろシエラちゃんを解放してあげないと苦しいと思うぞ?」

「あっ!」


 俺の言葉を聞いてハッとした赤井さんは、慌てて抱き締めていたシエラちゃんを放した。


「ふうっ、苦しかった……」

「ごめんねシエラちゃん、嬉し過ぎたからつい……」

「ううん、気にしなくていいよ」

「良かった……それで先生、シエラちゃんの正体を私に教えてどうしようと思ったんですか?」

「単刀直入に言うと、シエラちゃんが本当の悪魔だって事が他の人にバレない様に協力してほしい。俺だけじゃどうにもできない事はあるから」

「なるほど、確かにシエラちゃんが本物の悪魔だって知れたら、面倒な事になるかもですからね。分かりました! 私も全力で協力します!」

「ありがとう、早矢香」

「お礼なんていいよ、シエラちゃんが困ってるなら、私はいつでも助けるから」

「本当にありがとう、早矢香」

「あっ……」


 改めてお礼を言うと、シエラちゃんはその小さな身体で赤井さんを抱き締めた。

 そしてその行為にまた赤井さんが興奮するかと俺は思っていたが、意外にもそんな事はなく、赤井さんは両目を閉じて静かにその抱擁を受けていた。

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