八譚ノ弐 球体関節人形の回想

 わたしが球体関節人形になってから、今日で丸十日が経つ。

 池鯉鮒さんが用意してくれる衣食住は最高だし、寧ろ服の枚数がどんどん増えていく。

 箪笥にも服が大量に収納されている。

 以前の持ち主──もとい、マリーはロリータ系を好んでいたらしいが、わたしには似合わないことが判っている。

 フリルの多いワンピース類の中に、ジーンズやキュロットが混ざってきた。

 ただ今の見た目は、関節がどうしても目立ってしまうから、タイツや長袖が欠かせない。

 増やされ続ける衣服の山を眺め、ふと思う。

 池鯉鮒さんの求めたマリーは、どんな人物だった?

 声は? 趣味は? 性格は? 池鯉鮒さんをどう思っていた?

 ──わたしは、どんな生き様だった?

 マリーは、どんな生き方で、暮らし、何を思ったのか。


 わたしは池鯉鮒さんと暮らす家をくまなく調べ、そのマリーの手記らしき手帳を発見した。

 古い作りで、所々破けていたり、縫い目も解けている。

 池鯉鮒さんは、今は何も考えなくて良いと言ったが、それはあくまでも許可ではない。

 今のわたしと同じ顔をしていたマリーを、池鯉鮒さんは捜しているのだ。

 そしてわたしは、意を決して手帳の表紙を開いた。


 まず最初に驚いたのは、マリーは茉莉であること。恐らく森茉莉から取ったのだろう。

 池鯉鮒さん──手記の中では姐様だが──が命名した、と言及されている。

 それから服事情、姐様と呼ぶ池鯉鮒さんの事、その他諸々。

 全体的に見ると、姐様と慕う池鯉鮒さんを中心に回る世界を描写している様だ。

 謙遜が強く、自分の事を書かせても否定的な記述が多い。

 ただそれ以上に池鯉鮒さんへの感謝が強く、文末にはいつも、感謝の言葉で締め括られている。

 わたしとは正反対の、満ち足りた生活に見えた。

 謙遜するだけの心の余裕があって、少し重いが吊り合っている愛を注がれて。

 羨ましくて、自分が元居た環境が下卑たモノに見えて。

 それから手帳の中身を一通り読んで、箪笥の後ろに隠しておいた。

 ここに居たのが茉莉ならば、一体全体、わたしとは何者なのだろう。

 しかしここに居てもわたしと言う証明は出来やしない。甘やかされる日々が続く、わたしが求めたこの家と距離を置かないといけない。

 今こそ消し去った記憶と向き合い、わたしが茉莉であると認める時間だ。


          *


「最近の名ちゃんは、ようどこかに出掛けとるなあ」

「……ほんまに。たまーに行商の時もいのうなるわ」

「そこまで心配しちょるなら、何で回収しにいかへんのや?」

「暫くは自由に羽を広げさせるべきや思うてねぇ。あの子もあの子なりに、現実も見られるし、分別も、取捨選択も出来るええ子やから」

 昼下がり、自分は行商を放り出し、かがみと談笑していた。

 談笑、と言っても、今回の事件はこの人形師が元凶である為、穏便な雰囲気ではない。

 事実、鑑の膝は笑っており、私は余裕綽々として足を組んでいる。

「んで……茉莉ちゃんのことなんやけど」

「なんや、もう解決しはったんか?」

 予想していたよりも早く感じたが、敢えて圧をかける様に話した。

「っ……まあな。名ちゃんを人形に作り替える時、名ちゃんの記憶を抜き出したのは伝えたやろ? あと池鯉鮒はん、そない圧かけんといてえや」

「鑑ぃ。茉莉が戻せへんかったら、あんたに問題があると証明されるんやからな」

「わあっとるってえ! そんで話を戻すけどな、記憶様のレコードを間違えて内蔵したらしい。ってかそれでもう確定やけどな」

 もっと急かしたい気分だったが、河合名かわいめいとして何が最善と思うかで判断させようと思う。

 これからあの子は、自らと向き合いに行くだろう。

 満足のいくまで自由に放し、自分が全てを識っている事を明かし、その上で如何なる選択を取るのかと期待している。

「それで? 鑑、あんたはどう落し前つける心算でいるんや」

「はあ! 原因を見つけて終わりや無かったんかい」

「当たり前やろう。内の茉莉をあんなにしよってからに、弁明なぞ聞くに堪えんわ」

「言い方! 語弊!」

「まあ、後処理は宜しゅう頼んます」

「だから!」


          *


 置き手紙を書き、机上に置いておく。

 部屋の掃除をし、電気を全て消し、玄関に鍵をかけ、家を出る。

 紺のエプロンドレスに黒のタイツ。丸眼鏡、キャスケット、肩掛け鞄。

 目立つ髪は編み込んで一つに纏めた。

 わたしと決別する為にも、今までの私では絶対に着られなかったであろう服を選んだのだが、外に出てみるとかなり恥ずかしい。

 人形で体温が無いのが助かった。

 血が通っていたら、今頃耳まで赤くなっていただろう。

 お蔭で堂々と人前を歩く事が出来た。

 それはさておき、わたしはまず自宅に向かうことに決めているので、用事は早めに済ませなければならない。

 何日も行方知れずになっていたかも知らないが、捜索願いの一つや二つ、既に出ていることだろう。

 大通りから外れた閑散とした住宅街に自宅はある。

 二段坂を上って、慣れた足取りで通りを歩き、脇道にそれ、丁字路を曲がった。

 そこには住宅街があった筈だが、

 あるのは灰色の壁と、薄汚れた通路。

 以前には無かった住宅の数々。それによって生み出された、煩雑と入り組んだ迷路の様な裏路地。

 わたしは知らない。

 もっと綺麗な住宅が建ち並んでいた。庭を持つ家は庭の隅に花壇を作っていた。

 こんなに圧迫された細い道は知らない。

 大通りからは外れていたが、広い道路は通行人も乗用車も十二分に通れる。

 わたしは知らない。

 こんな、持っている記憶と違う風景を。

 わたしの家は此処に在った。

 でもそれは幻影の様に消え去っていて、無理矢理に造られた石垣の上、そこに見知らぬ誰かの住宅が建っている。

 庭が在った筈の場所は、草花の枯れ果てた土が剥き出しになっていた。

 おかしい。

 これが現実で、わたしの持っている記憶が幻想であればだ。

 わたしのトラウマの原因であるあの家までの経路を、こんなにも鮮明に覚えている理屈は無いのだ。

 情報量の過多に頭を抱えていたその時。

「嬢ちゃん、んなとこであにやってんだ?」

「ひゃいっ!」

 唐突に背後から声が降ってきたのだ。

 しかもドスがきいている。

 私有地にでも足を踏み入れたかと思い、恐る恐る背後を振り返った。

「あの、ごめんなさいっ!」

「あ?」

 やっぱり許されないよねえええええ!

 その場で回れ右をして前動作もなく一気に走り出す。

 スタートダッシュは最高で、かなりのスピードが出たと思う。

「おい待て!!」

 背後からまた同じ声が追い掛けてくる。焦った様な声だ。

 でもここで振り向いたらきっと捕まる。姿はよく見えなかったが、背丈が高い上に体格も大きかった。声からして男性だろう。

 脇道を抜けて、障害物を飛び越え、転んで前転、起き上がろうとしてワンピースの裾を踏みつけ、再度前転。

 落ち着きを取り戻して起き上がると──

「だから、嬢ちゃんはんなとこであにしてんだ?」

 眼前の木箱の上に、男性が座り込んでいた。

 逆行の中で目は怪しい金色に光っており、髪は薄い赤毛。頭からは山羊らしき角が生えていて、明らかに異形である。

 尖った耳にはピアスとイヤーカフを身に着けていた。

 口が悪いのも相まって、小さい子供だったら泣くだろう。

 わたしは息を飲み、覚悟を決めた。

「ごめんなさい。私有地に侵入したのであれば、謝ります。本当に──」

「何言ってやがんだ? 此処に私有地とか大層なモンはねえぞ」

「はい?」

「此処は以外の侵入を許さねえけどな、その代わり好きな場所に居られる」

 どうも話が噛み合わない。

 お互いに情報量が少ないから、と言うのもあるだろうが、何か決定的な齟齬がある気がしてならなかった。

「あの……話を変えて申し訳ないのですが、此処ってどう言う場所なんですか? ここ、住宅街がありましたよね」

 責めて希望ある回答が得られることを期待したが、返答は全く予期しないものだった。

「ここにあった住宅街なら、地震で全部倒壊したぞ? そのあと此処が造られた。もう四十年前だな」

「……え? っていや、わたし、ここに住んでいたんですよ!? つい数日前まで。ここにあった白い家に!」

 有り得ない。

 有り得ない。有り得ない。有り得ない。有り得ない。有り得ない。有り得ない!

 わたしがここに居た証拠を失くしてしまう。

「ここに白い家があったかは知らねえけどよ。そんな事より、嬢ちゃん何もんだ? 此処はニンゲンなんぞに入れねえところだぞ」

「わたしは人形です。兎に角……ああもう」

 自分で何を言っているのかも混乱している。

 土が剥き出しになった地べたにへたりこんだ。

 わたしの家が無くなったのが四十年前。

 それが事実だとしたら、わたしは人形のまま四十年を過ごしたことになる。

 まるで浦島太郎にでもなった気分だ。

 自分は少しの間楽しい思いをして、いざ帰ってみれば居場所は既に失くしている。

 わたしと池鯉鮒さんとで過ごした時間は、ほんの一週間程度の筈だ。

 母は今頃九十代、妹は五十代だろう。

 わたしは十代前半の容姿のままに、四十年を過ごしてきたのだ。方々捜し回って見つけ出しても、わたしがわたしと判る筈もない。

 俯いて、考えていることが口から零れているのも気にせずに、ひたすら頭を抱えた。

「そういや嬢ちゃん、お前……」

 ふと、対峙していた異形の男性が声を投げる。

池鯉鮒ちりふんとこのか? 茉莉マリー、お前何しに来たんだよ」

「池鯉鮒さんを、知っているんですか!?」

「急に食いついたな。まあ、顔見知りと言うかな」

 池鯉鮒さんの知人であれば、変な事は起きないだろう。

 事情を話せば円滑に事が進むかも知れない。


「…………成る程な。あいつよく隠匿出来たな」

 洗いざらい吐いてしまったら、全て理解してくれたらしい。

「でも今はそんなこと問題ではありません。……馬鹿ましかさん。取り敢えず道案内をお願い出来ませんか? がむしゃらに走ったので全く道順が判らないので」

茉莉マリー、お前以前からかなり成長したな……」

 馬鹿さんはわたしを、河合名かわいめいとしてではなく、茉莉として扱う。もう慣れた。

 わたしが河合名として振る舞うのは間違いで、茉莉こそがわたしの歩む道。決して他人の道ではないのだ。


 馬鹿さんの後ろについて入り組んだ道を抜け、その足で帰宅。

 馬鹿さんとはそこで別れた。

 九十九折になった道を右へ左へと進み、漸く辿り着く。

 最近漸く慣れたけど、四十年通った道なんだ。

 居間に入れば、池鯉鮒さんがいつも通り机に向かい、煙管の煙を燻らせている。

 わたしに気づくと、すぐに煙管の火を始末した。

「お帰り、名ちゃん。今日の夕飯はねえ、また糸猫庵で喰おう思たんやけど、名ちゃんはどうしたい?」

 顔には印象の良い笑顔を貼り付け、のんびりとして奇妙な抑揚のついた声も、いつも通りだ。

 わたしは池鯉鮒さんに歩み寄ってすぐ側に正座する。

「《姐様あねさま

 敢えて姐様と口にした事で、池鯉鮒さんはいささか驚いた様だった。

「姐様、どうしても教えて欲しいことがあります」

「なあに?」

「わたしの過去です。人形に成る以前の、わたしが──いえ。僕が、ヒトとして生きていた頃の」

 姐様は特に驚いた様子もなく、一度目を伏せ、鋭い目を向けた。

「四十年、四十年です。僕はその間、ずっと気楽に姐様と肩を並べて居ました。ですが今は、自分と向き合うべきで……」

「済まなかったのお」

「へっ?」

「長いこと隠匿してきたのは私や。名ちゃんの記憶が戻ったんは人形師の不手際やったけど、こんな方向に転ぶとは、全く予期してへんかったわ」

 いつの間にか鋭い眼孔は消え失せ、穏やかな表情に移り変わっている。

 本当にころころと表情を変える人だ。

「実は、このまま名ちゃんとして生き死にを自由にして欲しいと思っとったんやけどねえ。お話をぜえんぶ聞いたら、名ちゃんに、茉莉と成るか、河合名と成るか、決めて貰うわ」

 河合名と成るか、茉莉として、永久的な時間を姐様と過ごすか。

 河合名と成るならば、死んだまま過ごすだろう。

 茉莉に成るなら、人形として、体が粉々に壊れても、記憶さえ別機に移せば永久に僕と言う自我は生きるのだ。

 例え池鯉鮒さんを喪失しようとも。

「茉莉になるには、ニンゲンとは全く違う時間で、僕の自我が無くならない限り僕の時間は続きますよね」

「そう。だから河合名としての記憶を戻す今、吟味して欲しいのや」

 話を聞く覚悟は出来ていた筈なのに、今更後悔している自分が居た。

 何でこんな時まで退いてしまうの。

 手を握りしめ、爪が食い込んで跡が残る程力を込める。

 唇を噛むと、池鯉鮒さんがわたしの肩に手を置いた。

が心配するのは、明日のことだけや。無駄に右往左往したりしない。日は昇り、沈むか。星が消えないか。明日が、来るか──」

 肩に乗せられた手に力は籠っていない筈なのに、言葉が重みとなってのし掛かる。

「元々、私等は人間の虚妄から生まれた模倣体。それが自我を持って居るだけで儲けもんなんや。ヒトサマがどう足掻こうが、それによって私達がどうなっても、自我を持って生きれるだけで良い。」

 池鯉鮒さんは肩から手を退けると、静かに微笑んだ。

 弱いわたしなんて、いっそ僕が殺してしまって。

「──聞きます。わたしの、過去を」


          *


 河合名かわいめいは、母親の再婚相手による暴力が原因の失血死した。

 再婚相手は女性で、河合家は結果的に母二人娘二人の女所帯になった。

 しかしニンゲンと言うモノは矢張醜く、めいの遺伝子異常を最初は可愛がったが、周囲の下らない目と無駄な偏見に屈したらしい。

 キモチワルイ、キモチワルイ、と罵詈雑言をぶつけ、その果てに暴力をふるった。

 妹護身の為に再婚相手の女につき、産みの母親だけは名を比護した。

 だが幾ら目を光らせても相手は狡猾で、最終的には内出血によって死亡。

 死体は丁寧すぎる程に防腐処理され、塵袋に入れて棄てられた。

 私はそれを拾い今の茉莉を造った。

 殺害した母親は私が殺し、その後家族は散り散りになり、今では誰が死んでいるのかも判らない。

 それから河合名を、茉莉として私の手許に置いている間にも月日は経つ。

 私は茉莉を手離すまいとして、河合名を隠匿した。

 その間にも河合名の家は失われ、が蔓延る居場所に代わってしまった。

 私は、これは好都合とばかりに更に遠ざけようとした。

 そのままずるずると日は流れ続ける。

 その時間も茉莉は茉莉で居る。

 そして四十年の節目の年に、錆びた錠前でも綻ぶ様に、河合名は蘇ってしまう。


「さあ、どうするんや」

 私は声を抑えて尋ねる。

「河合名として、既に通り越した死亡を受け入れるか。茉莉として、自我の崩壊しない限り留まり続けるか」

 今眼前で籐椅子に腰掛けた河合名は、人形の様な表情の読めない目を私に向けている。

 茉莉の頃も同じ目をしていたが、今はあくまでも河合名だ。読めない。

 しかし、当初感じていた外見と内面の差による違和感は無くなっていた。

「僕は──」

 その小さき口が開かれ、鈴を転がす声音が、意思を持って飛び出す。

「河合名の記憶を引き継ぎ、四十年分の茉莉と足します」

「ほう」

 矢張賢い子だ。

 二択を与えた筈だが、それに束縛されないのは、優柔不断であろうか。

 だが彼女はニンゲンとは構造から違う。

 ニンゲンに束縛されていないことを示している。

「有り難う。……茉莉」


          *


 あれから僕は人形師、かがみの許へ赴き、今の記憶と溜め込んだ四十年分の記憶を全て機構に組み込んだ。

 これからは新調されたレコードに記録が遺されていく。

 記憶を二人分入れたお蔭で、時折多重人格の様になる。

 それでも姐様は、僕を可愛い、可愛いと本心から言うのだ。

 褒め倒しには慣れているが、人数が集まる場所ではやめて欲しい。

 これ以上姐様の痴人癖を拡散させて、どうしようと言うのか。

 そして褒め倒しをよくやるのが何故か糸猫庵なのだ。

 その度に食費の嵩むものだから、何度財布の紐を手厳しく閉めたか判らない。生前の記憶が戻ってからは、倹約癖が身に付いたらしい。

「心配せんでも、それなりに貯金はあるし、現金は行商箪笥に、あとは宝石とか金に代えてるんや」

 それでも崩していけばすぐに崩れるだろう、と反論すると、

「その為に私らは明日の心配だけをするんやろう?」

「……納得しましたよ。姐様」

 それならもうどうにでもなってしまえ。

 明日が来るならそれで良い。

 姐様が微笑んだのを見て、僕は品書を手に取る。

「では……鮭親子丼、すき焼き、鯖味噌煮、杏仁豆腐、蜜柑入り寒天。以上でお願いします」

 好きなだけ食べてやる。暴飲暴食? そんな概念人形の僕にはない。

「茉莉、食べ過ぎで機構が故障することは無いと思うんやけど、くれぐれも気を遣いなさい」

「判ってますよ姐様。あ、パンケーキとパフェも追加でお願いします。財布は大丈夫ですよね? 姐様」

 普段のささやかな仕返しに、笑顔で圧をかけてみる。

 心なしか、姐様の表情筋がひきつった気がした。

「茉莉は随分と変わってしまったねぇ。モノを喰らう様になってから舌が肥えたし、性格も変わってしまったよ」

「でも、愛想が足りなかった四十年よりはましになったでしょう」

 そうだねえ、とのんびりとした口調で姐様は言う。

 厨房では、大量の注文をさばく店主が見えた。

 料理が出てくるまでの間僕はお通しを食べて待つ。

 因みにお通しは鰹のたたきだった。

 料理が来ると、当たり前だが卓上が埋まってしまい、手前にあったモノから食べるので奥に置かれた料理が冷めてしまう。

「茉莉、熱くて食べづらいのは後に回し。食べたいのがあるんなら、皿取ってくれって言うんよ? 食い物は逃げん」

 考えが見透かされている。

 しかしこの量を注文したのは、何も僕個人の欲を満たす為ではない。

「じゃあ姐様も一緒に食べる?」

「? 自分一人で食べたらええやろ?」

「元々、モノを食べられる様になったら、こうして姐様と肩を並べる場所を増やそうと、思っていましたから……」

 いざ口に出してみると、こんなに恥ずかしいものなにか。

 無言で皿を差し出すと、姐様は料理には手をつけず、僕に抱きついた。

「ああああああもおおおおうう茉莉は可愛いいなああああああ! やっぱり茉莉の選択は間違ってなかったし導いた私も悪くなかった! いや本当に茉莉は可愛いな」

「ああああああああ! うるさい! 姐様! 退いてください!」


          *


 本日の料理

・鴨生姜焼定食

・たこ焼き

・抹茶金時葛餅

・鮭親子丼

・すき焼き

・鯖味噌煮

・杏仁豆腐

・蜜柑入り寒天

・パンケーキ

・パフェ

・鰹のたたき

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