15 蒼赫

 蒼し魔女の契約を終えたリースたちは、次に赫き魔女へと意識を向ける。


「次は赫き魔女だね」


「赫き魔女?そのちんけな火で封印されている醜女のことかしら?」


「醜女?」


「そうよ。それは魔女でも何でもない。ただの…失敗した女よ」


「失敗した?」


「そう、それは太陽を欲し太陽を御せなかった女なのよ」


「あなたと何が違うの?一緒でしょ?」


 リースの言葉に蒼し魔女の右手に蒼い火が出現する。しかしリースの指輪が輝き、蒼し魔女が苦しそうにもがく。


「っ…。私とあれを一緒にしないで。私はきちんと冥府の力を制御していたわ」


「そう」


「その醜女を開放するのはやめてちょうだい」


「でも、チートはあるに越したことないの。私がしようとしていることは、世界に…世界の運命にあらがおうとすることだから。それこそ創造神ロクストシティリに逆らうような…」


「そうねぇ…」


 リースの思いを理解したかのように蒼し魔女は頷き、言葉を紡ぐ



「いいでしょう。ただし、それと私が仲良くできるとは限らないわよ。制約で仲良くするようにするのも絶対にやめて」


「世界を滅ぼすような喧嘩をしなければ何も言わない」


 蒼し魔女の魔法で宙に浮かび、赫き魔女の指輪を取ろうと手を伸ばすが聖火によって弾かれる。


「…ダメみたい」


 蒼し魔女が結界に手を伸ばすが、リースと同じように弾かれる。


「今の私の力ではこの結界を破ることはできないわ」


「…ゲームでは金さえあれば簡単に手に入ったのに」


「諦めるのね…」


 頭を抱えるリースに、嬉しそうに蒼し魔女が言う。


 ダメだ。きっと蒼し魔女だけじゃルルリアナを守ることなんてできない。どうしても彼女の力が必要なのに…。


「あの~…リース?」


 落ち込むリースにそっとルルリアナが寄り添う。


「あのね、あの蝋燭の火なんだけど私が魔法で灯した火なのです…。だから、私が魔力を籠めれば火が激しく燃え上がって、蝋燭が溶けると思うんですけど…」


「本当?」


 ガバリと勢いよくリースが頭をあげる。


「えぇ…。できると思います」


 リースは結界にはじかれる数ミリ手前で立ち止まり目を瞑り魔力を込める。それに合わせて蝋燭の火が激しく燃え上がり、みるみるうちに蝋燭が短くなり溶けて火が次々と消え落ちる。


 残り三本となったところで赫き魔女の右手が動き、残り二本で胸が動き呼吸はじめ、最後の一本で赫き魔女がその双眼が見開かれる。


 最後の一本が燃え尽きたと同時に赫き魔女が蒼し魔女に飛び掛かる。


 が、蒼し魔女は予期していたようで、一瞬にして赫き魔女を地面に押さえつけてしまった。


「私に勝てるとでも思ったの?それとも封印されていた間に、わずかにあった脳みそが朽ち果ててしまったのかしら?」


「ドケよ!このクソ女!」


「相変わらず頭も悪いだけでなく口も悪いのね」


 蒼し魔女は赫き魔女の首を絞める手の力を込める。


「ふっ。ただでさえ私の方が強いというのに、ロクストシティリに封印されたままのお前が契約者を得た私に敵うと思っているの?いいからその指輪を私によこしなさい!」


 蒼し魔女が赫き魔女の力を緩めたとたん、赫き魔女が唸り体を回転させ蒼し魔女の体も一緒に回る。いつの間にか赫き魔女がマウントポジションを取っていた。


「これで形勢逆転だ」


 蒼し魔女が魔法で赫き魔女の体を浮き飛ばし、壁に叩きつける。そのせいで神殿が大きく揺れ、天井からレンガの欠片がボロボロと落ちてくる。


「ちょっと、二人とも辞めなさい!」


 その言葉に蒼し魔女の体は止まるが、赫き魔女の体の動きは止まらない。


 赫き魔女が蒼し魔女の体を殴りつけ、蒼し魔女は天井に磔となる。その衝撃で神殿が再び大きく揺れる。


「調子にのらないで」


 蒼し魔女は天井に磔られたままだというのに、電撃の魔法陣を展開する。魔法陣は赫き魔女を中心に展開され、一番大きな円が結ばれたことで赫き魔女を蒼い電撃が襲う。


 赫き魔女の体は蒼い電撃に貫かれ激しく痙攣する。魔法陣は消えることなく、赫き魔女は電撃の網によって囚われてしまったのだった。


 リースは地面で地上に上がった魚の様にピク付く赫き魔女に近寄る。


「リース!」


「大丈夫。蒼し魔女の魔法は私を害することはできないから」


 心配そうなルルリアナに安心するように声を掛け、魔法陣に近づいていく。


 リースの言ったように蒼い電撃はリースの体を痺れさせることはなかった。


 リースは「頑張ったね」と赫き魔女に声を掛け、右親指のレッドスピネルに似た魔石でできた指輪を抜き取る。


 急いで指輪をはめ、蒼し魔女に科した誓約を赫き魔女にも科していく。


 赫き魔女の体にも五つの雪の結晶が刻まれたのだだった。





     ―❅―・―❅―・―❅―❅―






 リースは赫き魔女に顔を隠していたレースを外すようにお願いする。


 美しい雪の結晶のレースから現れた顔にリースとルルリアナからうっとりするようなため息がもれる。


 赫き魔女はローズピンクとスモークレッドが混ざった赤髪に、蒼し魔女と同じく血の様に赤い瞳を持っていて、決して蒼し魔女の言った醜女なんかではない。むしろ蒼し魔女と並ぶ絶世の美女だ。


「ねぇ、これのどこが醜女なの?」


「あなたたちの美的センスが壊滅的だってことが分かったわ。最悪!私の主は芸術を愛する心がないのね」


 むぅっと唇を突き出し、リースが言ってはいけない言葉を口にする。


「あなたとそっくりだと思うけど?」


「はぁ?本気なの?この女には八重歯があるでしょうが!」


「八重歯?たったそれだけ?」


「たったそれだけですって?この女はあの醜いマッギョタイトにそっくりな八重歯をもっているのよ!」


「マッギョタイトって何でしょうか?」


 リースもわからないと肩をすくめる。


「…魔物よ」


「えっ?」


「だから魔物って言ってるだろうが!マッギョタイトっていうのはガリガリに痩せてて手足が異様に長くて紫色のウサギのモンスターだ!私の八重歯みたいな醜い前歯を持ってるの!」


ツヴァイがヤケクソと言わんばかりに、リースとルルリアナに説明する。


「……教えてくれてありがとう」


「だからこれは醜女なのよ」


「まるで欧米みたいな美人の基準なのね」


「欧米?」


 ルルリアナが可愛らしく首を傾げ、リースに尋ねる。


「ルルリアナ、いちいち私の言葉を気にしなくていいからね。そう、方言だと思って。でも、八重歯なんて削って矯正することだってできるでしょ?」


「でも、その女は惚れた男に褒められた八重歯を削りたくないらしいの。男に左右されるなんて馬鹿な女よね。男はこっちで転がさないと」


 蒼し魔女が赫き魔女を挑発するように妖艶に笑う。


「男を手玉に取ってもてあそび捨てる悪女よりはいいと思うけどね!」


 赫き魔女は蒼し魔女に舌を突きつける。


「赫き魔女さん!私、あなたの気持ちわかります。好きな人に褒められたら、大切にしたいですよね!」


 赫き魔女の手をルルリアナが慰めるように握りしめる。


「ありがとう、白い魔女さん!」


 白い魔女と呼ばれルルリアナがはにかむ。


「赫き魔女さんを封じていた蝋燭の火は私が灯していた火なんです。私の事恨んでいますか?」


「恨んでなんかいないさ」


「良かった」


 ルルリアナは安堵し心からの笑みを浮かべるが、赫き魔女もつられて笑う。しかし、赫き魔女の目は笑っておらず、瞳の奥に憎しみを隠していた。


 ルルリアナが離れたとき、リースは赫き魔女にお礼を述べる。


「ありがとう、ルルリアナを責めないでくれて」


「害したくても私は誓約によってできない。それにあの子はロクストシティリに愛された雪の華だよ?優しくしないわけがないだろ?」


 この時の彼女の言葉に隠された意味をもう少し考えれば良かったと、リースが後悔したのはもう少しあとのことだった。








お詫び

八重歯を醜い基準にしてしまい大変申し訳ございません。

カナダに住んでた時に、「なんで八重歯削らなかったの?」と聞かれた実体験を元にしてあります。

カナダの友達曰く、向こうは狼男を真剣に信じていた時代があって、そこから八重歯を嫌うのでは?といっておりました。

私も八重歯持ちですが、八重歯に誇りを持って生きてきましたし、日本では八重歯はチャーミングなので気にせず一緒にいきましょう!

本当に申し訳ございませんでした。

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