第29話 プール② 襲い掛かる魔の手
その後暮人達はプール内にてビーチボールで遊んだり、巨大ウォータースライダーで滑って遊んだりした。その際に二人一組で誰が暮人と一緒に滑るかで揉めたりもしたが、ここは公平にジャンケンで決める(決して具現化ジャンケンではない)。
結果は暮人と聖梨華、美雪と小梅のペアということになったが、公平に決めたので誰の文句は言わなかった。滑るときに叫び声を上げながら暮人の背中に抱き着いてきた聖梨華の巨大なメロンが無性に気持ち良かったが、こんな公共の場で顔を赤らめるだけで済んだのが暮人にとって救いだろう。
そんなこんなでしばらく楽しんだ頃、暮人と聖梨華は飲食店で設営されているパラソルテーブルに座っていた。
テーブルの上にはパックに入ったフランクフルトや焼きそば、たこ焼き、オムライスといった、お祭りの屋台で出るような品で昼食をとろうと思っていたのだが、ジュースを買いに行っている美雪と小梅が遅い。
「うーん、ジュース買いに行ったっきり戻ってこないけど何かあったのかなぁ。もう買いに行ってから三十分経つよ?」
「あまり距離は離れてはいないですが、人混みが多いですからねぇ。こっちから座ってると確認できませんし」
暮人は普通に、聖梨華は椅子に座ってガッタンゴットンさせながら遠くの様子を見ているが多くの人に阻まれて見えない。
夜に打ち上げ花火イベントがあるせいか昼過ぎ辺りから人の数が増えてきた気がする。二人に限ってはぐれてしまい迷うということはないのだろうが、それでも心配である。
万が一のことを考えて、二人を探す為に暮人は立ち上がる。
「あえ、ほうひはんへふか(あれ、どうしたんですか)?」
「うん、飲み込んでから話そうね。………ちょっと心配だから二人を探してくるよ。なんだか少し嫌な予感もするし」
「むぐむぐ………ごっくん! それなら私も行きますよっ。何かあったら困りますし」
「え、でもここにある荷物や食べ物はどうするのさ?」
荷物などはプールで遊んでいた際に使っていたコインロッカーがあるのでそこにしまえば問題は無いのだが、ここには所狭しと並んだ食べ物がある。
こんな人混みなので誰かが見守っていなければ誰かが盗んでいく可能性も無きにしも非ずだ。
「ちっちっち、問題ナッシングですよ! 私の力を使ってここの空間だけ認識を逸らせばいい話ですからね」
「聖梨華さん………ありがとう」
「………っ、ま、まぁせっかくの思い出ですし、こういう風に力を使うのも全然大丈夫です。というか前に具合の悪い美雪さんにも使いましたしねっ!」
そうやって話す聖梨華の様子に柔らかい笑みを浮かべる暮人。その視線に気付いた聖梨華はそのように言葉を言い放つと、少しだけ気恥ずかしそうに顔を背けながら二人が向かった方向へと歩き始めた。
本当に、出会った当初とは雲泥の差だ。反応の温度差がまるっきり違う。
暮人は自然と湧き上がる嬉しい気持ちを胸に抱きながら彼女の背中を追いかけた。
◇◆◇
「ひゃぁ~、だんだん人が増えてきたね。ジュースを買うだけなのに結構並んだし、暮人も心配してる頃じゃないかな?」
「はやく戻ろ、美雪ちゃん。にいに成分が足りない………」
「水不足の植物並みな
最近あまり暮人に抱き着いていないせいか、しおしおとしながら歩く小梅を美雪は渇いた笑みを浮かべて見つめた。
現在、互いの両手にジュースを持っているのだが、若干フラフラとしているのが美雪から見て危なげ。しかし小梅が持っているのは暮人の分と自分のジュースなので、彼女の性格からして落としてしまうようなことはないだろう。
美雪は小梅に気が付かれないように小さく嘆息した。
―――美雪はあのゲームの後に落ち込んだ様子だった小梅の話を聞いた。
彼女は声を震わせながら泣いていた。いつの間にかたった一人の大切な兄に多くの負担を掛けていたのではないかと。普段から美雪が暮人に好意を抱いている事に気が付いていて、警戒心を常に張っていた小梅が自分の前で泣いたのだ。両親が亡くなってから一度も涙を見せてこなかった彼女が、だ。
確かに小梅は幼馴染からの視点からみても、普通の兄妹よりべったりしている………言い方を変えれば『依存』していると言ってもおかしくはない程。
それは両親に甘える筈だった時間を兄とのスキンシップで埋めているようにも見えた。境遇を考えれば彼女の暮人に対する独占欲や異常な愛情は仕方のない事なのだろうと今まで美雪も寛容に接していた部分もあったが、まさか小梅が聖梨華から指摘されるとは思ってもいなかった美雪。
(まぁ、これも良いきっかけになればいいかな………?)
本人や暮人から話は聞くが、どうやら以前のようなべっとりくっつくような行動は減ったらしい。逆に料理以外の家事を手伝ったりなるべく暮人の負担を減らす行動を心掛けているようだ。
………肝心の暮人は『やっぱり俺には言わないけど反抗期かな!?』と相談してくるが全くの見当違い。
「………もっと意識して貰わないといけないなぁ」
「むっ、何か言った?」
「い、言ってないよっ」
ぼんやりと呟いた言葉に暮人の唇にキスした時の光景が蘇ってきた美雪。何かを察した小梅だったが、美雪は自然に紅くなった頬を誤魔化す為に顔を思いきり横に振った。
思わず歩くのが早足になる。
しかし動揺を抑える為に少しだけ顔を俯けたのがいけなかった。
いつもなら気が付く筈の、男性特有の粘っこい視線に気が付かなかったのだ。
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