第18話 アレルギー② 悪魔ですか?
カランコロンという爽やかな鈴の音と共に入店すると、ゆったりとしたBGMが店内に流れていた。店内を見渡してみると、床は木目調のフロアタイルでいくつもの木製の机や椅子が並べられている。店内の奥側にはソファやその下にはふかふかしたマットが敷かれてあり、至る所には赤玉が敷き詰められたポッドには葉先の尖った観葉植物がたくさん置いてあった。
内装はとてもリラックスできる空間が完成されており、緑色が多いぶん癒される気がする。『猫々喫茶』と言うだけあって壁にはたくさんの可愛い猫の写真やイラストがあり、それを見るだけで心が軽くなるほどだ。
「………ん?」
一部の机を凝視すると、猫がいた。しかしそれは石像のように一切動いていなく、入店した際に鈴の音が鳴ったとしてもまったく微動だにしない様子で鎮座していた。こちらと結構距離が離れているのでぬいぐるみか何かだろうか。スキル『危機感』も発動してない。
そう思ったが、女性の店員さんの声により途中で思考が遮られる。
「いらっしゃいませ、『猫々喫茶』へようこそ! 当店はにゃんこちゃんと一緒に触れ合い、お客様に癒しと安らぎを提供する場となっております。こちらでは料理も提供しておりますので、是非お楽しみ下さい。こちらがメニューとなります」
「え………っ!」
説明を聞きながら固まった暮人に気が付かず、「それではごゆるりとお過ごし下さい!」と元気に去って行く女性店員。
ふと視線を下げると足元には、いつの間にか一匹の猫が近寄っていた。ギギギ、と聖梨華へと顔を向けると―――、
「あるぇ~? 如月さ~ん、何かあったんですかぁ~?」
「こ、の………っ!」
聖梨華は頬杖を突きながらこちらをニヤニヤして見ていた。小悪魔的な笑みを浮かべるその様子は彼女の高校のファンからしてみれば非常にギャップがあってぶっ倒れる人が続出するんだろうが、自分はある意味正気を保つので精一杯である。
その原因は『猫アレルギー』だ。
最初に発症したのは、小学校の二年生の頃『どうぶつがかり』として犬、猫、ウサギなどとといった動物たちと関わったとき。それ以前は何ともなかったのだが、数匹の猫の世話をしていると急に体がかゆくなりふと腕を確認したら身体中に斑点が出来たのだ。そして息をするにも苦しくなり、次第に過呼吸になってからは覚えていない。
気が付いたら病院だった。同じ係で近くにいた美雪が驚いて先生に知らせてくれたらしい。そこで判明したのが自分が突然猫アレルギーを発症したことだった。そこでしばらく入院した。
それからというものの、触るだけではなく猫がいる空間そのもの自体がダメになってしまった。それどころか近くに猫がいると肌がかゆくなってしまう程だ。
目の前の聖梨華はおそらくそのことを知ってて意図的にここに来たのだろう。しかも、彼女が行きたいといっていた先程のパンケーキ専門店もここに連れて来る為のブラフだったのかもしれない。
いや、それ以前にどうやって自分が猫アレルギーだと知っていたのか―――、
『おや、猫などペットを飼ったことがあるんですか?』
『いやないよ。ただそういう考えを持っているだけ。あと猫アレルギーだから飼えない』
(はい、自分から話してました。自業自得ですねはい)
思わず敬語になって心の中で呟くが、なぜ彼女が知っていたのかという疑問は解決できた。確かにあのやりとりの後に聖梨華が過剰に反応していたのでどうしたのだろうかと思っていたが、この為のものだったのだろう。
過去の自分を殴りに行きたい気持ちに駆り立てられるが、今はそれよりのこの現状をどうにかする事だ。
「まぁ先に何を頼むのか決めちゃいましょー! 如月さんは何が良いですかぁ?」
「っ………! じゃあ、アイスコーヒーで」
「じゃあじゃあ私はー、この抹茶ホイップにゃんにゃんパフェとアイスティーにします!」
聖梨華が元気に先程の女性店員を呼ぶとメモをしながら注文を聞いていった。「少々お待ち下さい」と商業スマイルで去って行くのを見届けると、彼女に話しかける。
「聖梨華さん、率直に言って帰りたい。悪魔ですかアンタは」
「ME☆GA☆MIです! まぁそんな反応するのは分かりきっていた事ですけどね。大方、『僕アレルギー持ちなのになんでこんなとこに連れてこられなくちゃいけないんだよぉ………うぇーん聖梨華さんの大きなおっぱいで甘えさせてぇー』って考えてるんでしょう?」
「最後の文章は全身全霊で否定させて貰うけど大体そんな感じ」
「酷いです!?」
「そんなに魅力が無いですかねぇ………?」と両手でたわわな胸をむにむにとさせているが、それは公共の場では絶対にしない方が良いと思う。
あと聖梨華は決して魅力が無い訳ではなく、中身はこんなだが外見は清楚系美少女なのでその色香に惑わされないように鋼の精神を保っているだけだ。
絶対に
暮人は表情を強張らせると、腕を組みながら顔を背ける。
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