第15話 日常② 大事なことを聞いたようです


 

 

 暮人と聖梨華の二人は放課後に教室を出るとゴミ置き場へと向かっていた。



「それにしても勇者である如月さんがゴミ捨てを命じられるって………プークスクスッ、威厳も何もないですね!」

「それはお互いさまじゃないかな、キミ一応女神だよね?」

「いや私は自分から立候補しましたし! いわばこのゴミ捨ては勇者とはいえ下々しもじもの人間である如月さんの負担を軽減する為の慈善事業と言っても過言ではありません!!」

「神とあろう者が人を見下さないでよ駄女神。だから駄女神って言われるんだよ」

「あー、二回も言った! 私が気にしてること二回も言ったぁ!!」



 クシャクシャになったプリントやティッシュ、教室を掃除した時に出たであろう埃などが詰まったゴミ袋一つを片手で持ちながらぶんぶんと廊下で振り回す聖梨華。


 どうやら認識改変で廊下を歩く周囲の生徒からはお淑やかに見えているみたいだが、実際はこれが現実である。どうやらクラス内ではオンオフしているらしいのだが、学校中を歩くときは平常運転で認識改変をしているらしいのでこんな姿が学校中に広まる事はないのだろう。非常に残念。



「むっ、なんだか私神として………いや、女としての価値が軽んじられた気がしますよ如月さん!」

「気のせい気のせい」



 「ウソですー!」と暮人が歩く隣でぴょんぴょんと跳ねながら存在感を主張する聖梨華だが、暮人はゴミ袋二つを持ちながら気にせず歩みを進める。


 因みにぴょんぴょんする度に揺れる大きな胸を思わず二秒くらいガン見してしまった。少しだけ身体が熱くなるが、後悔はしていない。



 さて、何故二人がゴミ捨てへ向かっているのかというと、担任の教師から指示されたからである。教室には燃えるゴミ・プラスチック類ゴミ・缶、ビン類ゴミの三種類のゴミ箱があるのだが、それが丁度良く今日満タンになってしまったのだ。

 日直当番は暮人だけ。本当はもう一人女子がいるのだが、その女子は本日風邪で休みということで学校には来てはいない。


 日直の仕事には、日誌のまとめや教師の補助の他にゴミ捨てもある。日直が一人の時にゴミが満タンになるということは滅多にないのでこれはこれで大変。まぁ運が悪かったと一人で運ぼうとしたのだが、何故か親切心を出した担任は誰か一人手伝うように呼び掛けた。


 教室に残る人数は少ないが、早く帰りたいと思っているか部活に行きたいと思っているクラスメイトは一斉に顔を逸らす。しかもただでさえ学校中の人気者である聖梨華と仲がよさそうに関わる男子なのだ(彼女から聞いた)。手伝いたいとも思わないだろう。

 頼みの綱であった美雪も、もう既に部活の準備に行くと言って去って行った。

 

 溜息を吐きながらそんな現実を突きつけた担任に思わず睨み付けながら威圧していると、一人の少女が手を上げた。


 そう、聖梨華である。


 教室内では神までも見惚れるような清い笑みを湛えながら過ごしている彼女。ピンと背筋を伸ばしながら礼儀正しく一緒にいる友達の女子に断るとこちらに近寄ってきて「行きましょっか!」と言って教室をでたのだ。



 そして今に至る。





「ハッ、なんかスケベな視線を感じますっ!! まさか私を乱暴するんでしょうか!? Hな本みたいに! Hな本みたいに!!」

「はっ」

「一蹴されました!?」



 聖梨華は立ち止まって後ずさりながら胸を搔き抱くが、そんな動作は逆効果だと思う。明らかに学生サイズではない豊満な胸が制服を押し上げてすっごく強調され、むにぃっ、と腕からはみ出す様はまさに"圧巻"の一言。

 動揺を悟られなくて鼻で笑ってしまったが、心の中で拝むので許して欲しい。顔が赤くなっていないことを祈る。


 あと手伝いを申し出た事には感謝しているのだが、なんだか異様に疲れるのは自分のメンタルが弱いからなのだろうか。


 まだゴミ捨て場まで大分距離がある。歩くのを再開しつつ、そういえば、とふと思い出したことを彼女に訊ねた。



「ねぇ聖梨華さん。一つ聞きたいんだけどさ、前に拳銃で撃たれたときに回避したんだけど、撃つ前に頭の中がキーンって響いたんだ。それってどういう現象?」

「………………………えっ」



 しばらく固まっていた聖梨華はようやく言葉を発すると、少しだけ思案して暮人に向き合う。



「それってもしかして不快感がありました?」

「うん」

「命の危険が迫ったときにそのキーンが鳴るんですよね?」

「うん」



 手首を掴まれ人通りが少ない場所へと移動すると、彼女はゴミ袋を床に置いて自身の顎に手を添えながらその肘を片手で支える。途端に、顔全体から冷や汗が吹きだした。



「それって、もしかして『スキル』が発現したんじゃないですか………!?」



 なんだか、現実では聞き慣れない言葉が彼女の口から飛び出た。




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