第13話 拳銃① 仮にも女神が人質をとるってどうかと思うんですが
「という訳でいきなりバーン!!」
「あっぶな(ひょい)!!」
本日も億劫な授業を乗り越えた放課後、丁度夕日が沈みかけている頃合いの時間帯。暮人、美雪、聖梨華の三人は公園に来ていた。
一緒に帰宅中「ちょっと改めて話があるので………」と恥じらうように言うので近所の中央公園へ移動、少しだけドキドキしながら一定の距離を保ちながら向かい合ったのだ。
そして聖梨華からいきなり拳銃を向けられて発砲された。なにが"という訳"なのか良く分からない。
何とか拳銃の射線上から身を反らす事で回避するが、心臓はバクバクしていた。
「ちっ、やっぱり躱しやがりましたね! こんな飛び道具にも反応するとは、さすが『回避の勇者』です………!」
「早撃ちの精度高くない!? 全然見えなかったよ!?」
「私こう見えても努力家なんです!!」
「こう、こうです!!」とシュババッ!!と思わず擬音が付きそうな感じでこちらに見せてくる。
彼女と向き合った時点からなんとなく嫌な予感はしていた。もじもじと恥じらう様子を見せているのだが、そこに何か違和感が見え隠れしていたからだ。言っておくが、決して両手を重ねた腕の間にある強調された彼女の豊満な胸を凝視した訳ではない。
さて、話を戻すと完全にその感覚は聖梨華の言う『回避の勇者』としてのものなのだろう。彼女が発砲する様子は全く見えなかったが、今日は突如頭の中に警報がキーンと響いたのだ。今までは違和感だけで、こんな露骨な危険信号は無かった。
そんな出来事に胸の中に僅かな不快感が残るが、結果命の危機を回避することが出来たので良しとする。まぁ一度に何発も撃たれたらどうなるのか分からないので不安が続くが。
安堵の息を一つだけ付くと、自分の斜め後ろ辺りにいた美雪が若干引いたような声で聖梨華に訊ねた。
「あ、あはは………氷石さん、わざわざサイレンサーまで付けて暮人の命を狙うのは結構だけど、この光景を第三者が見たらどう思うかな………?」
「安心して下さい瀧水さん、今回は『拳銃』を召喚したので、以前とは違い大して神力は使ってないんです。なので周囲の認識を塗り替える能力は現在進行形で使えているんですよ。つまり、他人がこの光景を見ても『水鉄砲で遊んでいる』ようにしか見えない訳です」
さらっと認識を塗り替えるという怖い事を平然と言いながらやってのけているのだが、そこは女神。もう驚かない。可愛い顔をしてドヤァとしているのだが、今はその顔面にそこら辺の砂場で作った泥団子をぶつけたくてしょうがないと考えてしまうのは許して欲しい。
聖梨華は懐から
「さぁ、ようやく舞台は整いました! これまで如月さんの殺害に失敗して早一年と数か月………今までなんでも自分で解決しようとしてきましたがやはり持つべきものは神友です。天照ちゃんも協力的でしたので、地球上にある拳銃ならと大した神力も使わずに召喚出来ました!」
「殺傷能力の高い拳銃に頼るなんて他力本願の匂いがしないでもないけど、神様同士が手を組んで一人の人間を殺しにかかるって相当だね氷石さん」
「あれ、さり気なく『たった一人じゃ如月さんを殺すことが出来ない駄女神』ってディスってます………!?」
美雪の言葉にわなわなと震えているが、それは聖梨華の考えすぎだと思う。聖梨華はゴホン、と一つ咳払いをすると、改めてこちらに視線を向けた。
「ささっ、遠慮なく撃たれて胸に風穴開けちゃって下さいっ! だいじょーぶです痛みは一瞬ですから!!」
「全然大丈夫じゃないっ!? ………美雪、俺たちから離れた所に居た方が良い。いくら俺を狙ってるって言っても
美雪の身を案じての言葉だったのだが、彼女からの返事はない。どうしたのかと思い、背後を振り向くと―――、
「………聖梨華、さん?」
「え、どうしたの美雪」
「あ、あはは………。そっか、暮人ったらいつの間にか氷石さんのこと下の名前で呼んでるんだ………」
そう力無く笑って俯く姿は普段の彼女らしからぬ姿。こんな様子の美雪は中学生時代以来だろうか。
すると、ばっと顔を上げたと思ったら驚きの行動を見せた。
「いいもん、暮人の側にいるから大丈夫だもん! こうやって!!」
「ちょっ………これじゃ危ないから美雪!?」
若干声が高く幼児退行したような言動を見せると、いきなり腕を絡ませるようにして抱き着いてきた。美雪の慎ましくともしっかりと存在感のある胸が絡ませた腕を包み込むが、聖梨華が拳銃を手にしている以上そういうドキドキした気分になれなかった。
同時に強く抱き着いているせいか身動きが取れない。このままでは完全に避け切る事は不可能になってしまうことを懸念しつつも思わず静観しているであろう聖梨華を見てみると、彼女も彼女で顔を赤くしながらこちらを睨みつけていた。
「ほう、ほうほうほう………いやまぁ確かに最近如月さんへの殺意は見せませんでしたよ。このまま彼に絆されるとまずいなぁと思いつつ今に至る訳ですが。でもこうして目の前でイチャイチャされるとなんか無性に腹が立ちますね………!」
「こっちはこっちでなんか怒ってる!?」
頬を膨らませて顔を赤くしながらぷるぷると震えているので彼女の琴線に触れたことは明白。美雪はといえば隣で聖梨華へ向けてあっかんべーと可愛らしく舌を出しているが、本当に時と状況を考えて欲しいと思う。
「ばーんばーん」
「ひゅわっ! 足元狙ったあとに頭狙わないで!?」
「はいじゃースタートでーす」
気が抜けたような声とは裏腹に命を奪う為に凶弾が襲い掛かる。
美雪が腕を組むおかげで走りづらさは感じるが、頭の中に鳴り響く警報を頼りに避けていく。躱すたびにパシュン、と周囲のものに当たる乾いた音が耳に障るが、この状況を乗り切るにはどうすれば良いのかと考える。
「美雪! 美雪だけでも俺から離れないとマジでやばい! だから―――」
「イヤ! イヤなのぉ! ずっと一緒が良い! 私は暮人と―――キャッ………!?」
「美雪っ………!?」
美雪は足元を良く見ずに、しがみ付いて一緒に走っていたせいか躓いて転んでしまった。すぐさま駆け寄ろうとするが、倒れた彼女の背後には拳銃を持った聖梨華がすぐそばまで近づいてきていた。
そして、聖梨華が動けない美雪を背後から捕まえると、こめかみに銃口を当てる。
「―――さぁ如月さん、チェックメイトです」
「ちょ、ちょっと待って聖梨華さん! 流石に高校生活を共に過ごしてきた人を人質を使うのは女神といえどそれは卑怯なんじゃないかと思うんだけど………!」
「む、関係ないです。と言いたいところですが、確かにそれを言われると弱いですね。じゃあ一つ提案を出します。これから抹茶系のアイスとかお菓子を買ってきて下さい! 言う事を聞いて頂いたら瀧水さんを解放しないでもないんですけどね~」
見下すような感じでニヤニヤとしながら聖梨華は言った。恐らく自分の言う事を聞かせられるという優越感でそんな態度をとっているんだろうが、今は我慢をする。
「わかった! わかったからちょっと待ってて! すぐに買ってくるから!」
「では如月さん、気を付けて行ってらっしゃーい!!」
そんな聖梨華の楽し気な声を耳朶に入れながらも暮人は急いで近所のスーパーへ行くためにダッシュした。
「ねぇ、氷石さん」
「なんですか瀧水さん、今如月さんは
「―――ちょっとだけ、お話ししよっか」
―――静かに美雪の反撃が始まったと知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます