3.精神的動揺を誘うのは戦術の基本

「人はなぜ争うのか……、人類とは闘いの歴史だ……」

「今日もいきなり意味不明っすね」

 まぁ、事実として人間、もとい、生物としては、"増やし"て"広げ"ていくのが本能であることに間違いはない。それが生存本能であり、そのために取る様々な行為が生存戦略なのだろう。

 つまり何が言いたいかというと──


「より楽しむためには勝ちたいのです!」

「えぇー、生存戦略とかの下りって関係ありました、それ?」

「俺の心の独白にツッコミを入れるんじゃない!!」



「ということで、今日こそは真緒ちゃんに勝つ!!」

「前後関係支離滅裂っすけど、がんばってくださいっすー」

 俺は不敵な笑みを浮かべる。すぐに真緒ちゃんのその余裕の表情を砕いてやる。

「余裕でいられるのも今のうちだ。今日勝負……、俺が勝ったら、なんでも言うことを1つ聞いてもらおうか!!」

 くっくっく、"敗北へのプレッシャー"、この精神的な揺さぶりにより彼女はいつも通りの戦いはできないはず!

「それ、あたしが勝った時はどうなるんすか?」

「え……」

 彼女の問いに、俺は一瞬頭が真っ白になった。

「もしかして考えてなかったんすか?」

「も、もちろん考えてある……お、俺が何でも言うことを聞く!」

 ぐ、逆に俺を動揺させるとは、やるな! 俺に対し、逆に"敗北へのプレッシャー"をかけてくるとは。敗北した場合、彼女からのどのような要求にも応えないといけないっ……、あれ? それはそれで何かいい感じじゃね?

「それ、勝っても負けてもあたしにメリット無いっす」

「ぬぐぅ」

 こやつ鋭い。俺でさえ、今の今まで気が付かなかったことに、この一瞬で気が付くとは! やはり天才か!


「でもまあ、たまにはそういうのもいいすね。その条件でやってみるっす」

「え、あ、いいの?……、ふ、ふははは、覚悟しろよ! 俺が勝ったら、とても口で言えないような要求をしてやるからな!!」

「……。」

 彼女は珍しく無反応だ。テレビ画面から目を離さない……、あれ? なんか耳が赤くなってる? 俺は彼女の容姿から、勝手にそういう性的っぽいネタに慣れてると思ってたけど……。なんか俺まで緊張してドキドキしてきた。



【ファミリーカート(いろんなキャラクターがみんなでカートでレースするゲーム)】


 プ、プ、プ、ポーン


「す、スタートダッシュは基本だな……」

「……。」


「ぬぅ、NPCめっ!! だがまだだ!」


 2RAP


「追いついたぞ! 甲羅をくらえ!! な! バナナガードだと!?」

「……。」


 3RAP


「ふっふっふっ、とげ付きの甲羅だ! これなら躱せまい!!」

「……。(きた……、今ダッシュ!)」

「え? なんでスリップしないの?」


 Goal!!




「なんでも言うこと聞いてくれるんすよね?」

「あ、はい」

 マズい。俺、よく考えたらさっきの発言ってセクハラっぽいよな。なんか、真緒ちゃんずっと無言だったし、怒らせたかな……。


「んじゃ、夕ご飯ご馳走してください」

「ふぇ?」

「えっと、ダメ……っすか?」

 なぜか、彼女が自信なさげに上目遣いで確認してくる。な、なんだこの破壊力は。胸を撃ち抜かれるような感覚は!!

「ぐはぁ、う、うん、いいよ。」



 だが、ぼっち歴の長い俺に、こんな時に気の利いたディナーを準備するスペックは無く、結局自分がいつも食べているペペロンチーノを作った。

 しまったっ!! ペペロンチーノってすげぇニンニク臭いじゃないか!! 女子に勧めるメニューじゃないだろうが。もっとカルボナーラとかそういうのにすべきだった! 作り方知らねぇけど。

 作り終わって今更気が付いても手遅れだ。しっかりと二皿盛り付けたスパゲッティをちゃぶ台に持っていく。

「お、あたしペペロン好きなんすよ……、二人で食べれば、匂いも気にならないっすよね?」

 フォーク片手に笑顔を真緒ちゃんは良い笑顔を俺に向けてきた。本日何度目かの動悸に、一瞬息が詰まる。

「そ、そうだな」


 今日のスパゲッティは、やけに喉につかえた。

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