集合そして叛逆編

【その一】

 ユーシア・レゾナントール。

 ユーリ・エストハイム。

 ユノ・フォグスター。

 ユフィーリア・エイクトベル。

 ユウ・フィーネ。

 ユーイル・エネン。

 ユーバ ・アインス。


 異世界より召喚された七人は、見事に窮地を覆すことができた。平穏無事に戦争を終結させることに成功し、これで晴れて帰れることになるのだった。

 ――が。


「なんで帰れねえんだよ!?」


 晴れ渡った曇天を仰ぎ見て、ユフィーリアが叫んだ。

 彼女からすればさっさと元の世界に帰れると踏んでいたのだろうが、その目論見は簡単に外れたことになる。非常に残念である。

 そして他の六人ももれなく全員ユフィーリアと同じことを考えていたようで、特にユノなんかは今にも魔法を発動させて城ごと破壊しそうな雰囲気さえあった。実際のところ、少しだけバチバチと見事な金髪から紫電が散っていた。


「【疑問】これで任務は達成したはず。何故帰投できないのか」

「あ、あの、もしかしてこれが大団円ではないんですか……?」


 無表情で思考回路を働かせるユーバ・アインスに、ユウがおどおどと全員に向かって問いを投げる。

 もちろん、全員はこれで終わりだと思っていたのだ。戦争が終われば全て終わると考えたから、今まで戦争を終結するべく尽力していたというのに、これのどこが不幸な結末なのか。

 うーん、と全員して首を捻るが、ユーイルだけが「……なあ」と口を開く。


「女神の言う大団円ってよ、誰を基準にしたものだ?」

「何言ってんだい、ガスマスク。そのツラを拝まれたくなければ分かりやすく言いな」


 銀色の散弾銃を装備したユーリが、赤い瞳に不機嫌さを滲ませながらユーイルへ言う。

 ユーイルは小声で「これだから馬鹿は……」とユーリを嘲ったが、彼女にはどうやら届いていなかったようだ。挑発が失敗に終わってしまったので、ユーイルは仕方なしにユフィーリアへと向く。


「おい、オマエ」

「ンだよ」

「オマエは確かに言ったな、自分の幸せは他人の不幸の上に成り立つって。だったら悲劇も同じことが言えるはずだ。


 全員の時が、一瞬だけ止まる。

 今まで戦争を終わらせれば、誰もが幸せになるという先入観から動いていた。だが、もしこの戦争を終わらせることで不幸になる人がいるのならば。

 それは、この戦争を起こした人物か?


「それは、いっそどうでもいいんじゃねーかな」

「む。ユーシア・レゾナントールよ、何故そう思う?」


 ポツリと呟いたユーシアに、ユノが振り返って反応する。


「いや、だってよ。戦争を起こしたってことは、少なくともなんか侵略してやろうってことがあったんだから。攫われた姫さんだって幸せなんじゃないの?」

「あ」


 ユーシアが見解を述べ終わったあと、ユフィーリアが不意に口を開いた。全員が注目して彼女は慌てた様子で口を塞ぐが、ユノが過敏に反応してユフィーリアへと詰め寄ってくる。

 豊かな乳房をユフィーリアの乳房に押しつけるほど密着してきたユノに、ユフィーリアは「だ、大胆ッ!?」と驚愕していたが、彼女は「喧しい!!」と一喝する。


「なにか隠しておるな? 言え、今すぐ。我輩に秘密を作るなど不敬であるぞ!!」

「いや、あの、べ、別に大した秘密じゃねえし大丈夫って言うか」

「言・え」

「えええ、なにこれなにこの真っ正面からおっぱいを揉まれてる感覚。これなら素直に揉んだ方がいいのに、なんだろうこの罪悪感!?」


 ぐいぐいと胸が押しつけられているのでユフィーリアはどう反応していいのか分からなくなるのだが、ユノが「言え」と騒ぎ立てるたびに胸が押しつけられるので仕方なしに話すことにした。

 本音を言えば、もう少しだけユノの豊満なおっぱいを堪能して痛かったのだが、ここで邪な感情をチラ見せしてしまうと雷によって黒焦げにされそうだったのでやめておいたのだ。賢明な判断であると信じている。

 ユノを引き剥がしたユフィーリアは、銀髪をガシガシと乱暴に掻くと、


「城の最上階でお姫さんと会ったんだよ」

「救わなかったのか?」

「救わなかった。というより、自分から檻に入ったような気さえした」


 ユフィーリアはその時の状況をよく思い出しながら、


「多分この戦争の首謀者はお姫さんだろうな。まあ、その理由は分からねえけどよ」


 ☆


 分からないのであれば聞いてみよう、とユノが言い出したので、会ったことがあるというユフィーリアを先頭にして、七人の勇者はアウシュビッツ城の中を突き進んでいた。

 ユフィーリアは遠回りの道を選ばずに最短で行ける螺旋階段を選び、静かに階段を上っていく。時折、背後へ続く六人を一瞥すると、また階段を上る作業に戻っていった。


「あー、ここだここだ」


 ぽっかりと見事な穴が開いた玉座の間までやってきたユフィーリアは、玉座の裏側にある小さな扉を見つけた。全員でその扉を覗き込み、そしてユフィーリアを除いた六人が「ほええ」と声を上げる。

 ユフィーリアは木製の扉を軽くコツコツと叩きながら、


「この向こうにあのお姫様がいらっしゃる訳だ。――性格は悪いけどな」

「性格が悪いお姫様って……あれか、なんか高飛車に笑う感じの」

「いや、クソガキ方面の」


 真顔で否定するユフィーリアに、高飛車だと言った張本人であるユーシアが苦笑いを浮かべる。たくさんのおとぎ話を敵として扱う彼からすれば、クソガキのお姫様など想像がつかないのだろう。

 小さな木製の扉を押し開けたユフィーリアは、手招きだけで六人についてくるように示す。ほんの僅かな視線の交錯で、ユーバ・アインスがユフィーリアの後ろに続いた。それからユノ、ユーリ、ユーイルと追いかけて、ユウが後方に控えて、殿しんがりにユーシアが続く。思いのほか明るい狭い螺旋階段を上っていくと、豪奢な寝台が支配する牢獄にやってきた。


「あ、起きてるな」


 ユフィーリアが不意に呟く。

 天蓋てんがい付きの寝台には、豊かな茶色の髪を持つ美しい少女がぼんやりと座り込んでいた。ユフィーリアの飄々とした声を聞いた途端に、彼女は弾かれたようにやってきた勇者たちを睨みつけた。色鮮やかな緑色の瞳には憎悪が滲み、唇は引き結ばれている。

 せっかく助けにきたのに、何故そんな表情をされなきゃいけないのか。全員して睨み返すと、彼女は負けじと叫び返した。


「あなた達、よくも私の作戦を台無しにしてくれたわね!? 勇者様に助けてもらうっていう私の作戦を!!」


 不思議なことである。

 勇者として呼び出されたのはこの七人であり、勇者に助けられることを目的としているのであれば彼女の言う条件はすでに達成されている。それなのに、なにが不満なのか。

 お姫様は心底屈辱だとばかりに、綺麗な表情を歪めて言う。


「あなた達のせいで、あなた達のせいで!! !!」


 ――――はい?

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