第24話 動いた!

     

9月8日 

発病から3週間


なりゆきに最初に動きがあったのは、私が夕方弁当を食べている時に見ていた足の指が、「ピクッ」と動いた事である。


小さな動きだが、まちがいなく動いた。


看護婦さんに確認したがどうやら彼女は見ていなかったらしい。


看護婦

「本当に動きましたか?それならビッグニュースですよ」


わたしはあまりの驚きで弁当箱を落としたほどである。

「やった!また一緒にサッカーができる」と思った。


次の日の夕方になりゆきの手をさすっていると、「ピクッ」と指が動いた。


「昨日は足で、今日は手か。ということは、脊髄はなんとか守られたんだなあ」と勝手に素人判断した。


次の日は朝から手がよくピクピク動いていた。


ただおととい動いたはずの足はまったく動かなかった。


「たしかにおとうさん、足が動くのを見たんですか?足は末端ですので一番覚醒が遅いはずなんですがねえ」

と先生に言われた。


「まちがいなく動いたんですが・・・」と足をさすりながらもそう言われれば自信がなかった。


このころ酸素と窒素の含有量の変更がじょじょに行なわれていた。


普通の空気は1:4で酸素がすくないのだがずっとその逆の4:1の空気を送っていた事は前に述べたとおりである。


その比率を酸素3、窒素2に変更した。


つまり普通の空気に一歩近づけたのである。



9月10日


だいぶん、指と手が動くようになっていた。


指だけではなく、腕自体をお腹のうえにやったりこぶしを握り締めようとする。


その都度「お、また動いたぞ!」と大きな声で妻と喜び合ったものである。


「なーくん、がんばって」

と妻が泣きながら手をさすっていた。


9月11日


顔の動きに変化が出てきだした。


ほっぺたと眉がピクピクと動いたのである。


「おー、顔が動いた!」

とにかく体のどこかが動くたびに、私たちはお祭騒ぎであった。

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