第10話 リガールの町③-アスタリスク帝国城(Empire Ver.)②

リガールの海門に出現した死骸を殲滅するため、春花達は船を用いて海門にやってきた。大多数の死骸を智也が大半を殺め、中位級死骸との戦闘を行う春花達は、苦戦を強いられていた。

相手はオークのような筋肉質で巨大な体を持ち、両手にはそのからだと比例する大きさの斧を持っている死骸・ガルメリカが10体。

下位級の死骸は一般人がギリギリ対抗出来る戦闘能力がほとんどで、それでも死人は多い。対する中位級の死骸は手練の兵士でも死ぬ恐れがある程の戦闘力を持っている。それが10体まとまっているのは、春花と秋斗もやる気を失う。

「こりゃ思った以上につれえな!」

「こっちが攻撃すれば別のガルメリカが攻撃する。攻撃されたやつは防御に専念すればいいもんね。」

「くっそ、智也に加勢してほしいが.......。」

下位級の死骸を1人で戦うと言った智也は、今だ銃で交戦中だ。

すると、一体のガルメリカが斧を振り下げる。春花達は咄嗟にバックステップをするが、横に控えていた別のガルメリカが横スライドに斧を振る。反応が遅れた秋斗は、自身の斧で交える。

「くっそ、いつまで経っても終わらねえぞ!」

春花は秋斗がガルメリカとやりあっているのに気づき、そのまま跳躍してレイピアを貫こうとした。しかし、先程攻撃をしてきたガルメリカが咆哮によって発生した突風で突き飛ばされる。

「っち!」

思わず舌打ちをしてしまうほど厄介で、足をとめずに次の攻撃を仕掛ける。

「風魔法・ウィング!!」

今度は確実に唱えることが出来る魔法を詠唱する。風によって出現した刃は、秋斗と交戦中のガルメリカの両目を切り裂く。

「グギャアアアアアアアアアアア!!」

おぞましい悲鳴とともに、秋斗はそのまま攻撃を繰り出す。

「行くぞ!ライトブレイカーァァァァァァァ!?」

光り輝く斧を縦横無尽に切りつける。両目を手で押えいぇいるガルメリカはされるがままで、傷口がどんどん増える。

「グオオオオオオオオオオオオオオオ」

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」

悲鳴をあげるガルメリカを守ると言わんばかりに別のガルメリカが、秋斗目掛けて斧を振るうが。

「風魔法・ウィング!!」

春花が大きく跳躍して魔法を詠唱する。再び出現した刃がガルメリカの右肩を切り裂く。

「光魔法・ライトをレイピアに百連突貫!!」

続けて光魔法のライトを詠唱してレイピアに光属性を付与する。そのままレイピアを素早く突き出す。

ガルメリカはレイピアで貫かれた場所から見る見るうちに灰となっていく。

「まだ!ライトスラッシュ!」

レイピアを光で包み込んで大剣に進化させたような大きな剣を360°回転しながらスライドさせる。腸を切り裂かれたガルメリカはその体ごと灰に変えた。しかし、後ろに控えていたもう一体のガルメリカが拳で殴りかかってきた。春花は体重を右にかけていて反応が遅れたため殴られた。壁に強く打ち付けられ、肺の空気がなくなり膝をつく。

「がはっ、はあ、はあ。」

呼吸を整えるためしばらく後退する。しかし、もう一体のガルメリカを灰に変えた秋斗は別のガルメリカと戦うも、数に押し切られて苦戦している。自分も休んでいる暇はないと立ち上がるが、すぐに膝から崩れ落ちる。立てなかったのだ。殴られた衝撃で上手く脳からの命令が足に行かなかった。

その瞬間智也から発せられたホーリーレイが海門中を明るく照らし出す。そのまま、魔法と銃を駆使して下位級の死骸が倒す智也は、こちらの戦況を確認する。もちろん良い顔はしなかった、つまり戦況は最悪。

「春花、大丈夫か!」

急いで春花の元へ走ってきた智也が回復魔法を詠唱する。

「医療魔法・チミア!」

医療魔法は3段階の詠唱法ではなく、5段階あった。チア・チミア・ベチミアールと単体に唱える回復系の魔法と、リチミアー・ガブリチアーと広範囲に唱えられる回復魔法がある。それぞれ傷を癒す対象を増やしたり減らしたり、威力やスピードを変えることもできる。

単体の中位医療魔法を唱えられた春花は、体力も回復し呼吸も整ってきた。

「ありがとう。」

「無茶するな、よく2体倒せたな。1体でギリギリだと思っていたが。」

体勢を立て直した春花と智也はすぐさま、秋斗に加勢する。

「遅いぞ智也!」

「せっかちは嫌われるぞ。二重効果・ホーリーレイ!」

閃光と延長の効果が合わさったホーリーレイを1回発砲して、ガルメリカにではなく天井に向けて撃つ。そのまま大きく爆発して辺りが明るく照らされる。

ガルメリカは目を塞いで光を遮断するが、体から黒い灰が充満している。

「光を直に当てるだけでも効果はある。それが死骸の弱点であり、有難いことに動きも鈍る。」

「それ最初からやってくれねえか?」

「昨日作ったばかりなんだ。試運転で下位級の死骸にやったら当たってしまってね。今が絶好のチャンスだと思ってね。」

「腹黒いのもモテないぞ。」

「僕は精密に計算して100%成功する道を選ぶ。行き当たりばったりな秋斗と違って無闇に猛烈アタックはしないのだよ。」

「.......。」

会話する余裕が出来たのか、秋斗と智也は雑談をする中、春花は呆れたような目で見つめる。

「早く終わらせようよ.......。」

「「はい......。かしこまりました。」」

春花が冷たい声で指揮を執る。改めて武器を構えた春花達は各人お得意の死骸対策用の技を披露する。

「ライトスラッシュ!!」

「ライトブレイカー!!」

「二重効果・ホーリーレイ!!」

智也の閃光+増加の効果で広範囲にホーリーレイが炸裂し、その間を縫うように春花と秋斗が切り裂く。正面にいたガルメリカ3体を灰に変える。しかし、奥にいたガルメリカがもがく様に抵抗してきて斧を振るう。

春花は器用に体をひねらせて近づく。そのまま密かにレイピアをガルメリカの腹に突き刺す。

「輝裂爆!!」

突き刺されたレイピアが勢いよく光出して爆発してガルメリカを灰にする。残り4体のガルメリカが咄嗟に襲いかかる。

「邪魔させねえぞ、ライトブレイカー!」

「散れ、ホーリーレイ!」

智也と秋斗が透かさず追撃をする。振り下ろされる斧をサイドステップで避けて攻撃をする秋斗はガルメリカの頭から足めがけて2等分にして灰にする。

智也も閃光+強化を付与した弾丸を2回発泡して一気に2体を灰にする。大分天井に展開してるホーリーレイの光が効いているようだ。

「これで終わり!ライトスラッシュ!!」

輝裂爆の反動を受けていた春花は、その場から走り出してガルメリカの懐へ潜り込んで光の大剣を360°回転しながら横にスライドさせる。懐に潜り込まれたガルメリカは何もすることが出来ず灰になった。

「終わった.......。」

「ああ、流石にキツかったな。」

「ハハハ、中位級10体はもう懲り懲りだぜ。」

それぞれ戦闘が終わったことに安堵する。秋斗はその場で寝っ転がる。下位級の死骸が100体以上と中位級の死骸が10体と大激闘だったため疲労を隠せないのは無理もない。智也がそんな秋斗を見て近づく。

「医療魔法・チミア!」

単体中位回復魔法のチミアを詠唱して秋斗の傷は見る見るうちに塞がっていく。そして体力も少し回復して座る体勢になる。

「サンキュ智也。」

「ああ、回復なしでよくもってくれた。感謝する。」

「へへへ、鍛錬不足が語ったな。」

「いや、単に栄養不足だ。手足が震えているぞ。」

秋斗は指摘された手足を見ると確かに痙攣のように震えていた。

「宿戻って腹いっぱい食うか!」

「うん!お肉食べたい!」

「そうだな、僕もがっつりと食べたい気分だ。」

「んじゃ宿戻ろうぜ!」

アテムでの帝国の襲撃も大変だったが、今回の死骸の群れは無理があった。ご褒美とは言わないが、春花達は盛大なパーティーを開くことにした。そして、今夜の楽しみが出来たことに嬉しさを隠しきれない春花達は船に乗り込んで、港の方へ戻る。





秋斗は智也に問いかける。

「流石にあんだけの数が一夜で現れたのは嘘だろ。」

宿屋の一室で男ふたりが向かい合って語る。現在春花は長い入浴時間で疲れを癒している。そんな中今日戦った死骸の多さについて智也と話していた。

「ああ、町にいた死骸と海門の死骸を含めたら150か200くらいの死骸だった。これじゃ人間と死骸の戦争でもできそうな数だよ。」

「異常だと思わねえか。普段の死骸なら数十体で済むだろ。」

「まあな。しかし、現に今日戦ったのは200体近くの死骸だ。これは現実だ。」

「本当に自然に発生した死骸なのか?」

「わからない。誰かが死骸を連れて.......いや、有り得ない。死骸は腐魔と同じで生命体や建物に興味を示す生き物。誰かに連れられてなんて、そんな危険なことをやるやつはいない。」

「仮に帝国だとしたら?」

「百歩譲って人間に化けた同じ死骸の仕業だろうな。」

「百歩譲ってそれか。いずれにせよ死骸の発生原因はわからねえと。」

「ああ、現状『死骸が現れて町を襲った』ことしかわからない。」

智也は不安を消しきれない気持ちで外を眺める。今は町の街灯だけが照らされている。これでまた死骸が現れれば光を照らす意味がなくなってしまう。そんな考えが頭を過る。

「冷えてきたな、戻ろうぜ。」

「そうだな、そろそろ肉が蒸されたんじゃないか。」

ちょうど肉を柔らかくするために蒸していたのだ。今夜の盛大なパーティーに胸を躍らせながら智也は部屋に戻る。





アスタリスク帝国城の王の間にて、デストロイヤーのノア・フォルグは、国王であるスタイナー・ゲルツに膝をつけていた。

「ノア・フォルグでございます。」

目の前にいる男はスタイナー・メルクの父、さすが親子と言うかよく似ている。男は椅子の取っ手に肘をついて顎に手をやっている。

「先日、メルクと共に破滅の社へ言ったそうだな。」

白い髭を生やしたスタイナー・ゲルツが野太い声で私に問う。別に隠すことではないだろう。

「黄金竜の力を得るために向かいました。」

「黄金竜?そんな品物があそこにあったのか?」

「スタイナー・メルク様が仰るには。」

「そうか、メルクが血眼になって破滅の社のデータを探っていたわけはこれか。」

「ご存知なのですか?」

全くスタイナー一家は会う度に驚かされてばかりだ。親子揃って互いに探り合いをしているのだ。家族なのに敵対していると、第三者からしてみれば面白いが仲良くやれと思うのは帝国内部の関係者だからだろうか。

「ノア・フォルグに命ずる。君の信頼を経てスタイナー・メルクの監視を命ずる。」

「何故?」

「メルクは些か悪巧みを企てているだろう。メルクがこのまま黄金竜の力を全て手にすれば、世界崩壊を目論むだろう。せっかく手にした世界を崩壊させては腐魔を開発する意味が無い。」

腐魔を開発しても死骸を町に放っても世界崩壊をしていることに気づかないのだろうか。私はこの男もあの男も同じ事をやっているような気がしてならない。ぶっちゃけ私はどちらの味方になるつもりは無い。平和に一生を終えられればそれでいい。

「御意。」

そう答えて王の間を立ち去る。一体この2人は何を考えているのだろうか。こんな荒れ果てた地球を支配して何が楽しいのか。私にはわかりっこなかった。

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