第4話

 ラーメン禁止法は社会のあらゆるところで問題となっていた。

 ラーメン店は明暗がはっきりしてきた。ラーメン調理のための二種免許を取得しても、一種免許をもっている客がいなければ商売は成り立たない。

 一種免許の資格要件は厳しく、富裕層でなければ取得できない規定となっていた。野党はこの点を攻めたが、与党は強行採決。国民のデモが功を奏すこともなかった。

 都市部の一部のラーメン店は都心の一等地に移転し、免許をもつ富裕層向けの高級ラーメン店に姿をかえた。もはや料亭である。富裕層向けに転向しなかったラーメン店は廃業に追い込まれた。合掌。

 街の様子もかわった。あちこちにあったラーメン店は全滅、ほかの飲食店は死肉を狙うハイエナとなり、ラーメンに飢えた客の取り込みに躍起だ。

『こんにゃく麺はじめました』

『汁なし担々麺あり〼』

 そんなのぼりがあちこちに立つようになった。

 かわったところでは、麺を食わせる店、道路をはさんだ向かいにスープを飲ませる店ができた。はしごすることによって腹の中でラーメンが完成するという。奇抜すぎるというか、客が望んでいるのはそれではないということだろう、人気は芳しくない。

 旅行会社は台湾、香港へのパック旅行に力を入れ、飛行機は満席になった。航空会社もドル箱路線だと気づき増便に増便を重ね、国際空港は山手線並みに飛行機が発着するようになった。

 台湾、香港にはラーメン屋が乱立し、激戦区は台湾、香港にワープしたようなものだ。

 VRラーメンを開発した企業も。ラーメン店風の内装に、各席VRゴーグルが設置されている。ラーメンの匂いを分析し再現していて、雰囲気を盛り上げる。実際のどんぶりや麺をゴーグルのセンサーと人工知能で認識、現実を再現したバーチャル店内でラーメンが食べられる。実際に食べるのはそうめんだったりするのだが。人間の味覚が視覚と嗅覚に大きく影響されるせいでラーメンを食べていると錯覚できるのだ。

 VRラーメンは若者に人気となり、連日行列ができている。それをテレビが取材するという。テレビは情報が遅い。いや、プレスリリースがあっても話題になると判断できず、後手にまわったにすぎない。古いメディアは働いている人間の感覚も古臭い。

 のんびりした出来事だけではない。

 国会前のデモは機動隊に規制され車道を占めることができなくなった。それでも連日デモはつづいている。歩道は地獄だ。

 蕎麦やうどんといった日本風のおいしい食べ物があるじゃないかと素朴な疑問を発した外国人はあちこちでひどい目に遭っている。

 ふざけんな、ぶっ殺す。俺達はラーメンが食いてえんだよ!

 そんな怒号が渦を巻き、外国人を取り囲み、暴力沙汰に発展、病院送りとなったりした。

 もし某国の要人が同じような発言をしたら、きっとその国の大使館、もしかしたらその国の首都の目立つところで、ラーメンテロをお見舞いされるなんてことにならないでもない。

 そのくらい、この国はラーメンに依存し、ラーメンを愛し、むしろラーメンで成り立っていたのだ。ラーメンを失い、国は狂気に満ち満ちていた。

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