第46話 守護者



♥7月半ばの空と湖はとても青かったの。


真っ白なヨットがマキノたち実行委員の主要メンバーを乗せて

夏の風に帆を張って、白い波しぶきをあげながら鏡の湖面を疾走しているわ。


 実行委員と親交の深いスポンサー社長が所有するヨットでみんなの

労をねぎらってヨットに乗せてあげたんだって。


 ヨットを操舵する社長とロープを補佐する優作は湖と南へ進めている

みんな夏の青春ワンカットみたいにはしゃいじゃって、楽しそうね。

風の音だけで進むヨットは真夏の太陽をたくさん浴び

マキノたちの笑顔を照らしているの。♥






「社長さん、今日はヨットに乗せていただいてありがとうござます。」


「マキノちゃんも莉緒ちゃんも、モデルさんみたいだね。」


「あら、社長さん、わたしと、マキちゃん、どっちが好みなの?」


「こら、莉緒!なに恥ずかしいこと言ってんのよ!」


「そうだね、どちらかに決められないから、黙っておくよ。」


「なぁんだ、残念です。」






あごに白いひげを髭をたくわえたダンディな社長が

湖の上に船を停泊させると360度視界が広がるの。


 そこには穏やかな夏の午前の空気が流れていたわ、みんな夏も青春も真っ盛りだね。

舵を切りながら社長が、お茶を飲みながらロープを片付けている優作にそっと声をかけるんだ。♥





「安曇川くん、あのさ…つきあってるんだよね。マキノちゃんと。」





♥優作は飲みかけたお茶を喉に詰まらせて咳き込んでしまう。♥





「げほげほ、そうです、ご存知なんですね。」


「ご存知もなにも、君のおばあちゃんが言い回っているよ、マキノちゃんは将来のお嫁さんだって。」


「いや、まだそこまでは。」


「なんだ、遊びなのかい?」


「そ!そんなことないです!」


「そうそれ、あんな綺麗で気立てのいい子そうはいないよ、もっとちゃんと捕まえてあげないと。」


「狙ってるライバルも多いかもよ。」


「わ、わかりました。」


「僕ね、あの子にはどこか底知れない度量をかんじるんだよ、きっと竹生に必要な人間だってね、だから僕たちのためにも大事にしてあげてよ。」




♥ダンディな社長は遠い空を見上げながらつぶやいたの。♥




「いいね、若いって。」




♥優作はいつも巡視から見ている景色だけど今日は違って見えるんだろうな。

そお思いボーッと岸を見ているとタンデム二人乗りバイクが走り抜けていく。

 いつもマキノを乗せて走っている姿はあんな風に見えるんだと思いながら

まったりとした休日を楽しんでいる。

後ろのデッキでは虎姫たち独身男性が盛り上がっているわね。♥





「莉緒ちゃん!一緒に飲もうよ!夏なんだしパァッと騒ごうよ。社長さんも盛り上がりましょうよ!」


「ああ、大いに騒ぎたまえ若人わこうどよ。」





♥ビールを飲んでいる虎姫に莉緒は声をかけられデッキの長椅子に座り

色々と話をしているの。

 なんかこちらでも恋の芽生え?的ななにか、ラブリーな雰囲気を感じるわね

おたがい、いい年齢おとしだしね。♥





「暑いなぁ、もうこれいいでしょ。」





♥そう言うと虎姫は開放的にライフジャケットを脱ぎビールを飲み干したの。♥





「ああ!夏、最高!きもちいい!」





♥虎姫の言葉につられて実行委員のメンバーの何人かライフジャケットを脱ぎ始めている。

莉緒もライフジャケット脱いで夏用のビキニを太陽のもとに晒してると

優作がキリッとした顔をして、ライフジャケットの着用をお願いしたのね。♥





「虎姫さん、団長、莉緒、この辺急に風がふいて危ないから、ライフジャケットは着てもらっていいですか。」


「大丈夫だって、風なんて無いでしょ。それに海じゃないんだから、流されたりしないでしょ。」


「いや、昔の辺で海の事故があったんです。

ときおり左に見える山から突風が吹くときがあるんです。

車でいうシートベルトみたいなもんですから、お願いしますよぉ。」


「さすがレスキュー隊員やな、優は真面目やねぇ。」


「何!優ちゃんそんなキリッとした顔して、そんな二面性にマキちゃん落ちちゃったの?」


「な、何いってんだよ莉央。ライフジャケット早くつけろ。」





♥ライフジャケットを脱いでいた実行委員が一人一人と再び着用していく。

ただ、虎姫だけは着ることはなかったの。♥





「安曇川くん、大丈夫だよ、だって、僕はずっと水泳してきたからね。

遠泳なら何キロでも泳げるし、海みたいに波も無いじゃん。」


「虎姫さん、お願いです。そうやって過信して事故に遭われた方もいるんで。」


「なんよ、大丈夫っていってるじゃん。」





♥百年祭のプロジェクトも軌道にのり誰もが虎姫に感謝していた

優作もそれ以上強くは言え無い中

ただ唯一彼に発言できるマキノが虎姫に注意をしたの。♥





、優くんが危ないって言ってんじゃん、ちゃんと着けなよ!」





♥虎姫はマキノの注意になぜかムキになちゃって

まるで優作を恋敵のように口答えしている。

………実は虎姫もマキノのことが好きだったからね、

お酒がはいっているから闘争本能むきだしみたい。♥





「マキノはほんと心配性だな。大丈夫だって。

おれは水泳でインターハイでて二位だったんだぜ!

こんな水たまりのような湖へでも無いよ。」


「あんた、むかつくわね!

インターハイだか何だか知ら無いけど、昔の話でしょ。

優くんは命掛けで人命を守る現役のプロなんだよ。」


「まぁ、虎姫くんレディが言ってるんだし。さぁ。」





『ひゅひゅひゅ!』


『びゅぅん!びゅぅぅぅ!』





♥緩やかな冷たい風が吹いたと思うと

岸の木々すら薙ぎ倒しそうな突風が山から下りてきたの。


 ものすごいスピードで急な山の斜面を駆け下りた風は

ヨットの帆を殴るようにぶつかり制御ができなくなったの。

みんなは必死船内の突起に捕まるんだけど、最大の狂風圧が

ヨットを横倒しに薙ぎ倒したの。♥





「きゃぁ!!!」


「うわぁあ!」





♥その瞬間、横倒しになったヨットからマキノたちは投げ出され

湖面に叩き付けられるように落水していくの


 水面に浮かんだメンバーは風にあおられてみんなバラバラに

沖へ沖へと離れていってしまうの、湖でもスポット的に水面の冷たい場所に。

投げ出されパニックになっているメンバーたちを優作が声をかけたの。♥






「みんな大丈夫か!近くにいる人は手を取り合って固まってください!」


「はっ、虎姫さん!」




♥虎姫は飲酒もあってか、水温の冷たさにパニックを起こして

浮いていることができずに、その場で必死に足をばたつかせもがいているの

そう溺れていたんだ。


 浮力のあるメンバーたちは押し流されて虎姫と距離が開いていく

泳いでも押し流す力の方が強くて距離は開いていく一方なの。♥




『バシャバシャバシャ!』




♥救命胴衣をした優作が風上の虎姫に向かって泳いでいのが見えたの

日頃から厳しい訓練をしている優作は常人では考えられ無いパワーで

波が荒立ちはじめた湖面を風に逆らって虎姫に近づいていくんだ。


 転覆したヨットはそんなに流されていなくて倒れたマストを掴み

マキノと莉央は虎姫の近くで浮いていたの。


 湖面には大きな波が立ち、ヨットに捕まっているのがやっとな状況だったから溺れる虎姫を見ながら何もでき無い状況だったんだ。

マキノには優作がこちらに向かって泳いでいるのが見える。♥





「マキちゃん!ロープ、ロープは無いか!」





♥マキノはマストを伝わり、横倒しになった船内に括りつけてあるロープを解き肩にかけて優作に届けようとしているの。

横倒しになったヨットに莉央を引き上げると

まさにその目の前で荒ぶる湖面に飛び込むとしていたんだ。♥





「無理よ!マキちゃん!危ないよ。優作はプロだからまかしておきなよ。」


「私はヘーキ!莉央はここから降りないで、きっと優くんは

あいつを助けるから、わたしが手を貸さなきゃ。

優くん無茶しちゃう!だから行かせて。」


「だめだよ!マキちゃんも危ない目にあっちゃう!ここにいて!」


「ごめん、莉央、わたし、もう大切な人を失いたく無いの。優くんはわたしに光をくれた人だから!」



『バシャン!』





♥オロオロと恐怖に震えている莉央を説得して

マキノは冷たい水面に飛び込んだんだ、

肩にロープを担ぎ真横で溺れている虎姫に向かって。


 けたたましい水しぶきをあげて進むマキノ

この土壇場の状況に潜んでいたマキノのパワーが解放されたの

風に流されながらも、必死に優作の元に進んでいる。



 その勇気ある行動に莉央はパニックから自分を取り戻したんだ

「自分も何かしないといけないって」

そして莉央もマキノを追って湖面に飛び込んだの

竹生の子は昔から水辺で遊んでいたから泳ぎは得意なのね

莉央は綺麗なフォームでマキノを追ったの。


 ただ、優作、マキノ、莉央がその地点に泳ぎ着いた時には

虎姫の姿は湖面から沈み見えなくなってしまったの。♥





「やばい!虎姫さんが、マキノ!これ持っていてくれ!」


「優くんなに?やめて!ライフジャケット脱がないで!無茶しないでっ。」


「早くしないと、彼が溺れてしまう。」


「やだっやめて!」


「大丈夫、ちゃんとつれてくるから。合図したら二人でロープを引っ張って!」


「ばか!やだやだ!優作!!!」






♥優作はマキノが持って来たロープを自分の着ていたライフジャケットに結び

ジャケットを脱いでマキノに渡し、ロープの端を持って水面に潜っていくの。

優作の行動にマキノはパニックになり同じようにジャケットのバックルを外そうとしているの。♥





「ばか!なにしてんの!マキちゃん!やめて!死んじゃう!、あいつはプロだからヘーキだから、マキ無茶しないで!」





♥莉央は必死にマキノに抱きつき脱ぐのをやめさせる

パニックになったマキノを死に物狂いの力でで強く抱き押さえつけたの。♥





「マキちゃん、ねっ信じよ!あいつは絶対へいき、だから、信じよ!」


「わ、わかった、優くんを信じる。」





♥優作が水に潜ってどれくらい経っただろう、

一向に上がってこない二人に不安が増していく。



「ツンツン」



マキノが握っているロープに引っ張る感触が伝わったの。♥





「優くん、優くん、死んじゃダメ!優くん!」



「優くん!優くん!」





♥マキノと莉央は必死に二人でロープをたぐり寄せると

少し離れた場所から虎姫を抱きしめた優作が浮き上がってきたの。


 優作はロープを手繰り寄せ気を失っている虎姫に

背中を何度かバンバン叩きライフジャケットを着せると

水中で気絶していた虎姫が水を吐き出したの。♥





「うぐっ、げぼっ!」



「優くん!よかった、助かったよ!よかった!」





♥マキノは満面の笑顔でライフジャケットとつけていない優作に近づいて

横風に流されながらも必死に泳いでいる。もう少し、もう少しで手が届く。♥






優くん!優くん!優くん!!!!!





♥長距離を泳いで、さらに水に潜って虎姫を助けた優作の体力は限界を

超えていたの、もう、自力で浮かぶことができなくなっていて。

そう40年前の永吉のように力尽きて湖面に引きづられて。♥





「離せ!莉央!優くんが、優くんが!死んじゃう!離せ馬鹿野郎!優くん!!!!!ああああああ!」



「だめ、マキちゃんまで引きずられたちゃう!おねがい!やめて、マキちゃん!」





♥莉央は虎姫に掛けられていたロープをマキノの体に巻きつけてマキノの行動を止めていたんだ。莉央だって辛いけど、マキノを助けたい一心で必死に潜るのを止めているの。♥




「離せ!離せって言ってんじゃん!」




♥莉央に押さえつけられ小海からもらった弁天のペンダントチェーンが

切れてしまい暗い湖の中にすいこまれていく

ペンダントは優作を追い越し深い深い湖底に落ちていくの。♥






「おねがい、莉央離して、わたし、優くんがいないと生きていけない!おねがい行かせて。だれか!だれか助けて!おねがいです、だれかぁ!」





「お母さん!!!おじいちゃん!!!!!!!助けて!!!!」






「コツッ!」



♥湖底の木の板のようなものにペンダントが当たった音が聞こえたの。♥





『あなたは珠代さんの孫ですか、どうか私の孫を幸せにしてください。』





♥湖底から突然小さな泡がブクブクとにじみ出し湖面に上がってく

そしてペンダントを乗せた板が泡にのってゆらゆらと浮かびあがってきたんだ

板はゆっくり浮かび上がり、沈んでいく優作を掴んで湖面に浮かんで来る

優作を乗せて湖面に上がってきたのは板ではなくて黄色い船だったの。♥





ざばぁ!!!!!!





♥偶然にも近くでジェットスキーを楽しんでいた若者がマキノの近くまで寄ってきてくれたんだ

マキノ浮かんできた優作を再び湖に落とさないように必死に抱きかかえながら

彼らに涙を流してお願いしたの。♥






「大丈夫っすか?」


「おねがいです、優くんを助けてください。」


「大変だ、浜まで連れていくから。あんたたちも乗って。」





♥三台のジェットスキーは息をしていない優作を引き上げてマキノ、莉央、虎姫を乗せて近い浜に連れて行ってくれてね。♥






「優くん!起きて!ゆうくん!おきてよぉ」


「ヨットこけるとこみてました。他にもだれかいるんすか?」


「そうなんです、あと8人風で流されちゃって」


「それやばいっすね、俺たちちょい見てきます。それと、レスキューに連絡よろしく!」





♥元気そうな若者はジェットにまたがり転倒したヨットより風下目指して救護にしてくれていたの。♥





「やだやだ!優くん!起きて!優くん!優くん!」





♥マキノはとっさに優作の胸の下を押し始めたの

冷たくなった優作の唇に唇を重ねて息を吹き込みさらに胸を押す。

何度も何度も泣きながら叫びながら優作の帰りを信じて人工呼吸を続けたんだ♥





「ねぇ起きて、優くん、起きておねがい。起きて!優くん!!!!」


「げほっ!げほ!げほ!」


「あっマキノちゃん、マキノちゃんは大丈夫だった?」


「うん、優くんのおかげでヘーキだったよ。」





♥息を吹き返した優作は半目でまだぼんやりしているけど

必死の蘇生で体に帰ってくることができたの

マキノは優作の頬に頬をあてて強く強くだきしめたの。


 優作の右手には、浜から小海そそしてマキノに伝えられた永吉の送った弁天のペンダントが握られていたの。


 しばらくすると黄色い船はゆっくりと沈んでいくの、

ゆらゆら、ゆらゆら、浮いてきたよりもゆっくりとしたスピードで。


 しばらくすると、レスキュー隊の隊員も現場にかけつけて、

優作を担架に運び救急車へと搬送していく。♥





「あの、草津さん、あたしもついていっていいですか?」





「ああ、高島さん、安曇川こいつなら大丈夫ですよ!

いちお検査だけですから

それにそんな水着の格好で病院はむりでしょ大丈夫です任せてください。

俺たちはヤワじゃないっす!」




「ごめん、まきちゃん、本当に助かったよ、ありがと。すぐ帰ってくるから

行ってくるね。」





♥観光船が転覆した日タッグを組んで救命していた草津先輩が担架を担ぎ救急車に優作をのせて現場を離れていく。

髭の隊長が浜に救助された実行委員と社長をあつめて。

毛布をかけて外傷がないか、確認している。♥





「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」


「あなたは、大丈夫ですか、お名前いえますか?」


「ああ、高島さん、無事でよかったです、安曇川の人工呼吸ありがとうございます。」


「ジェットのみなさんも人命救助感謝です!

あの、少しお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」





♥船を操作していた社長、ジェットで人命を救助した若者、

マキノ、莉央、そして虎姫と。みんな事故見分に協力しているわ

そしてぐったりしている虎姫にマキノは詰め寄ったの♥





「ちょっと!あんたが優くんの注意を聞かないから

こんなことになったんじゃん!

優くんを危ない目にあわせて、このっ!この!バカ!

おまえなんか消えてしまえ!」




「パン!」




♥マキノは普段見とは違う鬼子母神のような形相で

虎姫の頬を叩いてしまっていたの。♥





「マキちゃん!ちょっと、マキちゃん!やめて!やめなさい!」





♥莉央が背後からマキノを羽交い締めにして虎姫から離していく。♥




「あんたのせいで優くんが死ぬかもしれなかったんだよ!

何がインターハイで結果出したよ!いつも口だけじゃん!

最後には逃げちゃっていなくなるし!このバカ野郎!」


「マキちゃん!落ち着いて優ちゃんは大丈夫だから、マキちゃんが助けたんだから!」





♥半狂乱になったまきのは急にぐったりとしてしまったの

恐怖を押さえつけての行動のツケが一気に帰ってきたみたいで

莉央のもたれかかるように倒れて気を失ってしまったの。


 ………マキノが目をあけると白い天井が見えたの

気づくと病院のベッドで点滴を受けていたんだ。そ

 のかたわらには、検査の終わった優作がマキノのベッドにもたれかかり

うとうととしていたわ。♥

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