第38話 取っ組み合い




「マキノ、悪いわたし、帰るわ。」


「えっ、あさひ何で?今日は泊まっていくんでしょ。」


「もう、いい!」


「何がいいのよ!」




♡?………何で、あさひがムスってしてるの?

なにか気に触るとこでもあったのかな?


 それになんで帰っちゃうの?


何がいいのよって私も言いたくなるわよ

マキノがおばあちゃんに会えたりお母さんの笑顔との再会ができたのに。

唇の先をを尖らせてふてくされた子供みたい。


 そんなあさひの態度を見て、莉央があさひに食ってかかってね、

うん!その気持ちわかる。♥





「ちょっと、いくら姉さんでも、それはひどいんとちゃいます?」


「昨日今日あったばかりのあんたに、何がわかるって言うのよ!」


「あさひ!莉央ちゃんは関係ないでしょ」


「なによ、もう、どうでもいいんだ!私のことなんて、どうでもいいんでしょ!」


「あんた、なに言ってんのよぉ。」


「何って何がよ!あっ、言ってみなさいよ!」




♡何?この子供みたいな言い争い

あさひはマキノの肩をポーンと小突く。

マキノはふらつくもののすぐに体勢を取り戻してあさひの胸元をつかんじゃって

ちょっと、いったい、どうしたのよ!

この流れで喧嘩する所なんてあった?

なんだかわかんない、ちょっと二人とも喧嘩するのはやめなさいよ!♥




「てめーのそういう所が嫌いなんだよ!悲劇のヒロイン気取りやがって!」


「なによ、あんただって、いつも上からエラそうにする割にすぐピーピー泣くじゃん。」


「バカマキノ!」


「なんだって!泣き虫あさひ。」




♡この流れの中で急に喧嘩し出した全く謎な二人。

浜は慌てふためき、近くにいるメンバーの三人に喧嘩を止めてと声をかけるも、ひなつが左手を斜めに下げて誰も二人に近づけなくしている

まるで喧嘩させてるみたいに。

ちょっとこの子達何よ!なんで、何で喧嘩を止めないのよぉ。♥





「ちょっと何で二人がけんかしてるの、みんな止めたげて。」


「浜さん、大丈夫。平気ですから、すぐに終わりますし。」





♡そういうと三人はテーブルを部屋の隅に移動させて、日吉が開けた引き戸の前にスペースをつくる。♥





「あのさ、寮じゃなくて人んだからね、あさひわかってるよね、もの壊したら弁償だからね。マキノも!」


「わかったわ!」「わかったよ!」





♡そういうと二人はネックレス、指輪、ピアスをはすして近くにいた

さくらに渡したの。♥




「チャント預カリマシタヨ、ジャァ!レディィーーーファィ!」


『チーン!』




♡バイリンガルのさくらが空コップをお箸で叩くと、

二人はお互い取っ組み合いに…

ああ、この子達の行動もう神様の私でもよくわかんない!

一体何に対して争ってんのよぉ!♥





「なによこのバカのろまのマキノぉ!」


「なんだとぉ、このどエス泣き虫のあさひめっ!」





♡二人はスカートなのに平気な顔して取っ組み合いになり、

畳の上をゴロゴロころがっている。

ああ、下着丸見えだよ。

あなたたち女の子たちが夢見るアイドルだったんでしょ、

はしたないなぁ、ホント人の目なんかおかまいなしだね。♥





「ちょっと、みんな何してるん、止めて、ひなつちゃん!あんた友達やろ!」


「浜さん平気ですから、あさひは淋しくなるといつもああやって

マキノにちょっかい出すんです。


マキノもそれがわかってあさひに甘えているんですよ。

いつもそうでした。」




♡えっ?そうなの?♥




「一緒に暮らし始めて初めこそはどうしていいかわからずに

おどおどしましたけど、月に一回くらいこうやって取っ組み合いを。


 あさひはマキノが好きでたまんないんです

ああやって、お互いの愛情を確かめ合ってるんですよ。


 5人仲良くしていましたけど、決して私たちにはわからない

二人だけの世界があるんです、二人はずっとそうやって支えあっていたから。


だからそっと見守ることにしました。

ねっ、よく見てください、お互い顔は叩いていないでしょ。」




♡えっ!そうなの?この子達…そうなんだ。

私もこんな喧嘩ている所なんて見たことないわ、てか、

小海の視覚が消えてから、マキノの姿をあまり見ることができなかったのよね。


 まぁ、なんとなく状況がわかってきたんで、このまま現状を説明するわね。


 とっくみあいを見た者は一同、目を見開き口をポカンと開き唖然とした顔で

事の成り行きを凝視している。


 一見あさひの方が口が立つし強そうにみえるんだけど、

長期戦になってからがマキノの真骨頂の底力そこぢからが発揮されて。


 次第にジリジリとあさひを力押しをし、畳に押し倒すと

馬乗りになってあさひの顔を見下ろしている

でも、あさひも口撃をやめないわ、

マキノの下になりながらも負けじと食い下がってる。♥





「いつも、いつも、いつもそう、なんで一番にわたしに相談しないのよ!

自分で抱え込んで、自分でつらい思いして!


 毒子の時もそうよ!なにが、beni5の思い出を傷つけるから、もうこのままにしておいてよ、結局あんたが全部悪者になって終わりじゃん!もっとうちらに心配させろよ!バカ!」



「えっ、だって。せっかく活動停止でバッシングがおさまったんだから、

もう波風たてなくてもいいとおもったんだもん!

またネットが荒れるし、みんなに悪いし!」



「何がみんなに悪いよ!みんなに悪いって思うことが悪いって言ってんのよ!


それに知ってんだから!

新しく会社作ろうって言った時にあんただけ別で暮らしたいって言ったの

毒子のことで迷惑がかかると思ったんでしょ

ちがう?だから自分から身を引いたみたいになってさっ。」



「だって、仕方ないじゃん!あんたが楽しみしてる会社に初めから汚点つけたくなかったんだもん。」



「それが、迷惑だって言ってるんだよ!なんでも言えよ!なんのために

十四年も一緒いいると思うんだよ!うちらに甘えろよ!バカ!バカバカばか!」



「そんなにバカって言わないでよぉ。ごめん、あさひ。」



「謝るな!いつでもあんたのことが心配なんだよ。

そして、あんたがいなくなると思うと辛いんだ。

 自分の半分が消えてしまうみたいで、うちこそあんたに謝りたいんだよ!


 マキノがもう、うちらの元に帰ってこない気がして、おかしいだろ?

あんなに優しいおばあちゃんや、日吉さん、莉央、お味噌のみなさん

町の人に愛されて、祝福するのが当然なのにさ。


 あんたがいなくなる気がして怖いんだよぉ

わたしだけ、お母さんの顔も知らないし、おばあちゃんもいないし。

マキノが消えちゃうのが怖いんだよぉ。」



「なに言ってんのよ、いつでもあんたのことを忘れないわよ!

それにみんないるじゃん!

 あさひ、あたしあんたと一緒に暮らしてきた時間、思い出、全部全部大切なたからものだよ、も忘れるはずないじゃん!


 あんたがいなかったらわたしだっていないわよ、

あんたがいつも守ってくれたから、あたしにとっては、

あさひはおねーちゃんなんだから。」



「あさひぃ」



「まきのぉ」



「ウワァアアアアああああああんん」





♡………なにこれ。。。

喧嘩しだしたかと思えば抱き合って泣いてるじゃん。

えっ、あさひが寂しいからマキノにちょっかい出したわけ?

う~ん。神様のわたしにもわかんないわ。

でも二人にしかわからない関係でつながっているのね。♥





「はいはい、しゅうりょー。ふたりとも仲直りした? パンツ丸見えであのおじさん鼻血だしてるよ。」


「きゃ!」


「みてんじゃねーメガネ!」


「ごひそうさまれしたぁ」




♡泣いているふたりの元に浜がそっと寄り添って両手で二人を抱きしめたの。♥




「ごめんな、あさひちゃんには、マキノちゃんを取ったみたいに思えてしもたんやな、ごめんな。

マキノちゃんもウチのとこに帰ってきてくれてありがとな。」


「あさひちゃんは、ずっと、マキノちゃんのお姉ちゃんやったんやろ

ほな、マキノちゃんのおねえちゃんやから、うちの孫と一緒やん。


 もしよかったら、ここを家やとおもていつでも

あさひちゃんも、ウチの孫になってくれへんか?」





♡あさひは泣きながら浜の顔を見上げて、

マキノを差し置いて浜に抱きついたの。

はじかれたマキノはキョトンした顔してるわね。♥





「おばああちゃん!おばあちゃん!」


「なんや、大きな赤ちゃんみたいやな。」





♡浜は辛い時に母の胸で泣いたことを思い出していたの

今目の前のあさひがあの日の自分に重なってしまい

そして今度は浜が優しく頭を撫でて抱いているの。♥





「ちょっと、あさひ、浜さんに甘えすぎだよ。」


「あっかんべーだ!、それよりなんでマキノが浜さんて呼んでいるのよ!」


「だって、いまさら、浜さんをおばあちゃんって呼ぶのはずかしじゃん。」


「へー、じゃあ、わたし、もっとおばあちゃに甘えちゃおうかなぁ。」


「なによ、もう!」





♡あさひは生まれて初めて大人の胸にに飛び込んで甘えたわ。

浜の胸は暖かく広い海のようだった。


 目を閉じて顔をうずめると、浜の鼓動が優しい波のように聞こえてきて

ずっと探していて思いが、あさひの心をの鍵を開いたの。


 広く、暖かく、優しい、そんな時間をかみしめるように。そして錆び付いた心の鍵が開くと、新しいあさひが生まれたの、未来を照らす新しいあさひが。


 そして何もなかったかのようにすっきりとした顔で浜から離れると、マキノを浜と対面で座らせたの♥





「ほら、マキノおばあちゃんて泣きながら抱きついてみ、ほれほれ。」


「バカなに言ってんの!まだ酔ってるの!そ、そんん、なこと。」


「へー、おばーちゃんずっと独り占めしちゃおうかなぁ。」


「なによ、ばか。。。。お。お。。。。おばぁちゃん。」


「何!そんなちっちゃい声じゃ聞こえないよ!

『ハートが大事やろ!ハートが』」


「うん、、、おばぁああちゃん!あたし嬉しい!大好き!」





♡あさひがしていたようにマキノも浜の胸に飛び込んだの。

浜もぎゅっとマキノをだきしめたわ。

あの日あの時、湖の湖畔で小海を抱いていた頃をおもいだしたのね

浜の元にまたあの幸せな時がもどってきたみたい。


 40年以上もの間、浜のを覆っていた曇天が、今の一言で流れ去り。

小海を抱き永吉の肩で日吉が喜んでいるあの日見た青い空が心に広がっている。今日一日で浜には大きな孫が二人もできたわ。♥




「マキノコレ大事ナモノダヨネ。チャントツケテオキナサイ。」




♥さくらがマキノのからあづかったペンダントをかけてあげていた

あの日、娘にあげた永吉の思い出がこうやってまた戻ってきている

全て終わったね。浜。よかったねマキノ。




「デモ、二人ダケ甘エテ、トテモズルイデス!」


「わたし達だっておばあちゃんて呼びたい!」


「私だってぇ、甘えたぃぃ!」


「はい、莉央も参戦しま~すっ!」


「おばちゃやん!おばあちゃん!グランマ!はまさぁん」




♡あらあら、ノリで莉央まで、孫が二人だとおもったら

一気に6人ね、あらま孫だくさんだこと。


ん?カウンターテーブルの横でメガネが泣いてるね。

すっかり存在わすれていたけど。♥




「いっちゃん、なにいつまで泣いているんだよ。ほらおしぼりで涙拭きなよ、鼻血も。」



「あのな、日吉おれは、おれの心はすごく泣いている。それは、それは………

 おれだけマキノちゃんの玉子焼き食わしてもらえなかったぁ」


「そこかい!」

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