台所の廃墟

ガラス瓶は古代遺跡か

墓のように寂として直立して、ある

ピクルスを漬けた叔母の形見

家と遺体を処理する金だけを

残して叔母は死んだ、終活は滞りなく

家の中はがらん、として人の気配は

消えて三十年前に死んだマルチーズの

首輪がテーブルに置いてあった


兄はアラジンのアンティークな白いストーブ

父は特に何も、母はティーセットを一式

残っていたのはピクルスの瓶たちと

首輪だけで捨てるのも忍びないから

首輪を使って輪投げをしてる


直立する瓶を並べ替えて

段々と右肩下がりに

したり左肩下がりにしたり

凸凹に置き換えたり凹凸にしたり


首輪を王冠のように引っ掛けてやる

胡瓜にパプリカ、キャベツの芯にらっきょう

瓶の中で眠る王族たち、やはり墓場だ

古代墳墓が台所に直立して

蓋を開けたら墓荒らし


だからまだピクルスの瓶たちは

静かに直立している、猫たちが

たまにその間を街路のように

縫っていく、台所に佇む廃墟

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