第25話・颯斗が気づいたこと……

 全員がルートを回り終えたところで最後に行方不明者が出ていないか点呼を取り、一行は近くの公園で花火を始めた。

 各々が手持ち花火を頼死んでいる中、嵐斗は「シャバイ花火だな。モノホンの花火ってのはこう言うのを言うんだ」とフラフープにも見えるお手製の直径1mの超巨大ネズミ花火の導火線に、マッチで点火した。

 特製超巨大ネズミ花火が火の粉を吹きながら暴れ回り全員が「デカ!」「危な!」「ひにゃああああ!」など悲鳴をあげながら逃げ惑う。

 全員が花火を楽しんでいる中、俶と麻衣は近くのベンチで顔色を悪くして座っていた。

「あー、酷い目に遭った」

俶は溜息をつくと、近くに歩み寄った嵐斗が声をかける。

「俶先輩が見たのって白い手でしたっけ?」

 嵐斗の質問に俶は「ああ、そうだよ! 今年一番でビビったわ!」とキレ気味に答えると嵐斗は右手で俶の右手首を掴んで観察した。

「痣とかが無ければ大して危険なモノじゃありませんよ。掴まれる直前までラップ音がしたり、明かりが消えたりとかしてないんですよね?」

嵐斗の言う通り、俶の右手首に痣などが無い。

「ビビり過ぎて記憶が軽く飛んでるがそんなことは無かったはずだ」

 それを聞いた嵐斗は「でしょうね。言い忘れてましたけど、自分は数週間前にその筋の知り合いと一緒にあそこに行きましたが、知り合いが言うにはちょっとシャイな幽霊がいると言ってました」と爆弾発言をかました。

 嵐斗の爆弾発言に俶は怒りよりも疑問が浮かんだ。

「除霊とかしなかったのか?」

俶の質問に嵐斗は「その時は姿を現さなかったというのもありますが、彼が言うには「実害を出すような存在で無ければ放置するのがいい」そうです」と答える。

「ちなみに悪霊とかだったらどうなってたの?」

 麻衣の興味本位の質問に嵐斗は「もしその類が出るんだったら部長に辞めるように言ってる」と当たり前のように答えた。

 俶はベンチから腰を上げながら「手持ち花火をひとつキープしてくる。送り盆には少し早いかもしれないけどな」と送り火用の花火を取りに行った。

「麻衣はまだダメなのか?」

花火を取りに行く俶の後ろ姿を見ながら嵐斗は麻衣にそう尋ねると麻衣は首を横に振って答えた。

「ううん、火はもう大丈夫……流石に花火を持つのはまだちょっと怖いけど」

 そう、ある事件が原因で麻衣は火に対するトラウマを負っている。

「俺はイトカのせいで少し嫌いになったよ。アイツの「忍法・山荒獅(やまあらし)」のせいで防弾・防刃繊維を編み込んだ特注ベストがおしゃかになった」

面識のない人物の名前を出され、麻衣は「誰?」と嵐斗に尋ねる。

「夜ノ府(よるのふ)家が分家・夕影(ゆかげ)家の嫡男の小学生で先々週辺りに仕事を邪魔された」

 嵐斗の答えに麻衣は「小学生に?」と聞き返す。

「ただの小学生だったら良かったんだけどな。本人が持ってた鍵縄で逆さ釣りに縛り上げてごうも……色々聞いてみたら炭隠れ衆の末裔らしい」

嵐斗の恐ろしい単語が混じりかけた答えに麻衣はこの街はどうなっているんだと思った。

「忍が他人に素性を語るのは死ぬ時だとか何かの漫画で聞いたけど?」

 麻衣の疑問に嵐斗は「どんな世も変わり者しかいない。イトカ曰く「アンタが気に入った! その首預けとく」とか言い残して逃げやがった」そう答える嵐斗に麻衣はふと思う。

(確かに……ここにもこんな顔の私を愛してくれる変わり者がいたわ)

嵐斗「あのクソガキ今度仕事の邪魔したら簀巻きにして「私はアホです」の張り紙つけて自宅に送ってやる」

 どうやら相当な痛手を受けたらしく「あのベスト予備も無いのになんてことしてくれてんだ」など苦虫を嚙み潰したような顔でしばらく愚痴っていた。

そんな嵐斗とは裏腹に全員の輪の端の方で颯斗は手持ち花火をしていた。


・颯斗は語る

 肝試しの時に里奈が言っていたことがどうにも引っかかって仕方が無かった。

正直に言うと、今のあの2人の関係は好きだし、出来ればこのままでいたいと思う自分がいるが、あの2人はそれ以上の関係を求めている……

 結婚を前提として付き合うならどちらかを選ばなければならない。

でもそれはどちらかと関係を切るということになるし、2人の仲を悪くさせてしまうのかもしれないという不安がよぎる。

 まあ、とにかく俺が思った事は「青春とはとても単純に見えて実は複雑で難解で……でも、それすらも愛おしく思える程美しいものだ」ということだ。


 自分なりに青春の良さに気づいた颯斗は気づけば自身の握っていた手持ち花火が消えていたことに気づく。

「おっと!」

颯斗は皆が集まっているところの近くにある水バケツに燃え尽きた花火を入れる。

 そして、次の花火を取り、火をつけてから屈む。

すると、杏奈が右、蜜奈が左で颯斗を挟むように屈み「火をくれませんか?」と寄り添ってきた。

3人は並んで花火をして、燃え尽きてから腰を上げると、颯斗が2人にこう言ったよ。

「来年もさ。こうやってまた一緒にまわろうよ」

2人は颯斗の言葉に頬を赤らめて見惚れていた。

「そしていつかは俺も君たちに答えを……」

決め台詞を言いかけた颯斗だったが、ロケット弾のようなサイズのロケット花火が飛来し、鳩尾に直撃して「おふぅ!?」とそのまま吹き飛び、数m吹き飛んだところでシパアァン! とロケット花火が炸裂する。

颯斗「シギャッ!?」

杏奈「キャアアア! 颯斗君!?」 蜜奈「キャアアア! 颯斗さん!?」

悲鳴をあげる3人から少し離れたところで、嵐斗が合掌していた。←ロケット花火に火をつけた瞬間に土台が颯斗の方に倒れた。

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