第23話・夏祭りデート 嵐斗編
家を一番最後に出た嵐斗であったが……犬も歩けば棒に当たるとでも言うのか?
それとも彼はこの街に愛されているからなのか?
「風船が……!」
藍色の浴衣姿の黒髪ショートヘアの男の子が会場近くの街路樹に引っかかった赤色の風船を見上げていた。
風船の紐までの高さは2m弱で、男の子の身長は約80cmとジャンプして届くような高さではない。
嵐斗はスッと風船を取って「はい、たっくん」と男の子に手渡す。
「お兄ちゃんありがとう!」
たっくんはお礼を言いながら紐をしっかり握って嵐斗と手を繋ぐ。
こちらの男の子は嵐斗の自宅から10軒程離れた家に住んでいる中川 卓郎君 3歳、この街の保育園に通っており、なぜ嵐斗と一緒にお祭り会場にいるのかと言うと……
「さあて、早くたっくんパパのところに行こうか」
嵐斗はそう言うと、たっくんはムスッとした顔で「急に「仕事だ!」って言われた時は嫌だった」と不服そうに答える。
「だろうな(汗)おまけにたっくんママも「スーパーのタイムセール行きたい」からとかで近くを通りかかったお兄ちゃんに頼んできたし、まあ、お兄ちゃんは行先が同じだったからいいんだけどね。それに、お兄ちゃんも小さい頃そう言った事があったから、機嫌悪くしない方がいいよ」
不服そうなたっくんに嵐斗は自身も経験があったこともあり、同情した。
ちなみに、嵐斗がたっくんと出会ったのはGWの映画館デートの日、スーパーで母親にアイスクリームを買ってもらってはしゃいでいたところに夕飯の買い出しに出ていた嵐斗とぶつかり嵐斗のズボンにアイスクリームをつけたのが2人の出会いであの日以降、嵐斗はたっくんに懐かれている。 ※第12話参照
会場内でクールビズのスーツ姿のたっくんパパと合流した嵐斗はたっくんとその場で別れ、会場の外に繋がる路地へ向かった。
時刻は17時、嵐斗が向かったのは喫茶店「チェッカー」、店に入ると、藍色と白の市松模様の浴衣に身を包んだ麻衣がカウンター席に座っていた。
2人は店を出て、会場を練り歩く。
「てっきり約束の時間より早く来ると思ってたけど、何かあったの?」
先に口を開いたのは麻衣だった。嵐斗は普段から待ち合わせでは予定時刻より少し早く待ち合わせ場所につくようにしている。
「こっちに来る道中でたっくんママにたっくんを会場で待ってるパパのところに送っていってほしいって頼まれてさ。たっくんに合わせて歩いていたら時間ピッタリになった」
嵐斗はそう答えると麻衣は嵐斗の顔の広さに最早呆れていた。
「嵐斗ってホントに顔が広いよね? カタギだけでスーパーで知り合ったちびっ子から人気アイドルまでおまけにこの街の警察から元ヤクザの親分まで知り合いなんでしょ?」
そんな麻衣に嵐斗は補足する。
「守谷のおっちゃんは祖父ちゃんの茶飲み友達だったからな。探偵にだって義理や人情はあるし、何より今は亡きヤクザだった守谷組はこの街の住民からも好かれる真っ当なヤクザだ。そんな人たちの頼みを無碍にできない」
身の上話をしながら2人は日頃の部活で磨き上げた腕を振るうために射的屋の屋台を覗くと、目を光らせながらコルク銃を構える里奈と杏奈の2人がいた。
棚に並んでいる景品は少なく、2人がいる台の上に景品が詰まった紙袋が置かれているところを見ると、かなり本気を出しているのが解る。
「ちょっと待ってお嬢さんら! 補充させて!」
店主が慌てた様子で景品を補充していたため、嵐斗が「あとで回ろう。景品が残ってればいいんだけど……」と麻衣の右手を引いて、他の屋台を回る。
時刻は17時を回ったこともあり、2人は夕食にすることにした。
「麻衣は何食べる? 俺はタコ焼きにしようと思っている」
嵐斗の質問に、麻衣は並んでいる屋台の暖簾を眺めながら決める。
「うーん……お好み焼きにしようかな? デザートにカキ氷なんかいいかも」
それを聞いた嵐斗も「じゃあ、俺もそうしようかな?」と言って、2人はお目当ての店を回った。
嵐斗はタコ焼きを頬張り、麻衣はお好み焼きにかじりついて、夕食が済んだ2人はデザートにカキ氷を買う。
嵐斗はブルーハワイ、麻衣はイチゴを頼み、2人は半分ぐらいまで食べたところで、かおを見合わせてべっと、シロップで染まった舌先を見せ合って笑う。
人混みに揉まれて人酔い仕掛けたところで、2人は脇道から会場の裏手に出た。
麻衣はフウッと一息ついて顔にかかっている前髪を左右に掻き分けていると、嵐斗は突然「少しここで待ってもらっていいか?」と言って会場の方へ向かった。
そんな嵐斗を見送って麻衣はふと思う。
(嵐斗と付き合ってもう半年か……ちゃんと恋人出来ているのかと言えば……正直言って出来てないと思う。まあ、小学1年生の頃から幼馴染の友達から始まり、中学生になって早々、あんなことがあって……でも嵐斗はそれでも友達でいてくれて……そして卒業間近になって口説かれて今の関係になって……)
麻衣は中学の時に起こったある一件が原因で心が閉鎖的になっていた。
だが、そんな麻衣の閉ざした心の扉を開けたのが、他ならぬ嵐斗であり、麻衣はそのおかげで今こうしているのである。
そんなこんなで一見手ぶらの嵐斗が戻ってきた。
「待たせて悪いんだけど……麻衣、目を閉じててもらっていいか?」
麻衣は「へ?」と疑問に思いながらも目を閉じた。
(なんだろ? ネックレスでも買ったのかな?)
そう思った麻衣だが、髪をつままれる感触に気づく。
気になりながらも麻衣はジッとしていると「よし、いいぞ!」と嵐斗が麻衣の右肩を掴んで言ったため、麻衣は目を開けた。
すると、嵐斗が自撮りでスマホのカメラを構えており「Say チーズ!」と嵐斗はシャッターを切った。
「ああ、やっぱ似合うな」
嵐斗はそう言って撮った写真を麻衣に見せる。
そこに映っていたのは右手で麻衣の右肩を抱き寄せる嵐斗と、遭い藍色のシュシュで左寄せのサイドテールに髪を結いられた麻衣が写っていた。
麻衣は「え?」と言いながら頭についたシュシュに左手で振れる。
「髪を纏めて顔を見えるようにしてる方が似合ってるよ。麻衣はいつも右眼の眼帯が気になるから顔を隠すように前髪を垂らしてるけど、サイドテールなら気にならないだろ?」
そう言われた麻衣は頬少し赤らめて恥ずかしそうに「バーカ」と呟くように言った。
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