第13話・サマースケジュール

 GWが終わり、季節は6月下旬……G市にも梅雨が訪れた。

土曜日の朝、雨のせいで外出が出来ないこともあり、兄妹3人揃って家に籠っていた。

 颯斗は部屋で静かに勉強を、嵐斗はエアガンの整備かと思いきやノートパソコンと数枚の写真を広げて何かの作業をして、依吹に至っては学校の緑ジャージ姿でヘッドホンで音楽を聴きながら無心に原稿を描いていた。

颯斗はふと時計を見ると、ちょうど12時になったことに気づく。

「おっともうこんな時間か……」

颯斗はペンを置いて部屋を出た。最近になって、颯斗の生活は少し変わった。


・颯斗は語る

 流石に家の事を嵐斗にまかせっきりにするのもアレな気がしたため、家にいる休日は交代で炊事係を交代することにした。

 今日は昼の当番が俺だが、最近始めたばかりということもあってまだインスタントラーメンしか出来ない。


 台所で颯斗は鍋にお湯を沸かし、インスタントラーメン(みそ味)3袋を取り出して麺を入れた。

そして、一度階段の方へ向かい、2階に向かって「昼飯できたぞ!」と声をかける。

 声が聞こえた嵐斗が真っ先に部屋を出て、階段には向かわずにヘッドホンで颯斗の声が聞こえていないであろう依吹の部屋に向かい、扉にメカメカしい近未来なデザインの直径50cmの輪っかをガチリと音をたてて張り付けた。

 突然、部屋の外からギュイーンと何かを削る音がして依吹は驚きながらヘッドホンを外して振り向くと扉に直径50cm程の穴を開いており、その穴から「依吹、昼飯だぞ」と嵐斗が顔を覗かせて声をかける。

「いっ……今行く!」

依吹はそう言って作業を中断して部屋を出た。

 食卓について山盛りの千切りキャベツと一緒にどんぶりに盛られたみそラーメンを啜っていると、依吹がこんなことを2人に聞いてきた。

「梅雨が明けたら夏休みだね。お兄ちゃんたちは何か個人的な予定とか建ててる?」

 その質問に対して先に答えたのは嵐斗だった。

「俺は部活動とバイトでほとんどが埋まってる。一番時間がある時だからな。長期休みは俺にとっての書き入れ時だ。もしかしたら家に帰れない日があるかもしれない」

暇が無いほど自分のやりたいことで予定で埋まっているのは素晴らしいことである。

「兄さんは? 何か予定とか建ててるの?」

 次はお前の番とでも言うかのように嵐斗は隣に座っている颯斗に尋ねると、颯斗は「あー……そうだな」と切り出した。

「嵐斗ほどの予定は無いが、図書館で知り合いとお勉強会だな」

 そして、そんな自分が情けなく思ったのか。気を逸らすように「依吹、そう言うお前はどうだ?」と依吹に話題を振る。

(逸らしたな?)

依吹と嵐斗は心の中でそう思いながら颯斗の質問に答えた。

「あたしは夏祭りまでに夏のコンテストに出す作品を描き上げたいからプロット(設定)とネーム(下書きのようなモノ)が出来次第、場合によっては友達のむっちゃんのところにお泊りしにいくかもしれない」

 それを聞いた嵐斗は興味本位で「今回はどんな作品にするつもりだ?」と尋ねると依吹は「うーん」と唸ってから答える。

「まだプロットも決まってないけどやっぱりテーマは「夏」で行こうと思ってる」

兄妹それぞれ夏の予定は決まっており、颯斗はふと、勉強会以外の予定を建てようかと考えた。

(どうせだからあの2人を誘ってどこかに遊びに行こうかな? 勉強会だけだと何だかつまらない)

食器を流しに片付けながら颯斗はそう思った。

 その時、嵐斗のスマホに着信が入る。

「はいもしもし……はい……はい……え!?」

嵐斗の驚きに颯斗と依吹の視線が嵐斗に集まり、嵐斗は電話の相手に相槌を打つ。

「……解りました。今から支度します…それでは」

 嵐斗はスマホをしまいながら椅子から腰を上げる。

「ちょっと出かけてくる!」

食器を片付けながら嵐斗はそう言って2階へ上がった。

 食洗器に食器を片付けてから2階へ行こうとした颯斗は階段の前で嵐斗と鉢合う。

映画館に言った時と同じ格好に首にネクタイをかけており、どこに行くのか気になった颯斗は行先を尋ねる。

「どこに行くんだ? こんな雨の日に……」

嵐斗は懐中時計をポケットにしまいながら答えた。

「事件現場、多分夕飯外で食べてくるぐらい遅くなるかもしれないって母さんたちに言っといて!」

そう言いながら嵐斗は玄関へ向かい、そんな嵐斗の背中を颯斗は見送った。


・颯斗は語る

 やれやれ、忙しい奴だ……小学生の頃は友達といつも外に出ていたからな。家で大人しくしてる時といったら食事の時と寝てる時と風邪を引いて寝込んでいる時ぐらいなもんだったな。

 アイツの外出でやばかったのは小学生の頃の台風が来てた時だったな……見るからに外に出たくないような日なのに「友達と一緒に台風で遊んでくる!」とか言って数時間ぐらい経ってずぶ濡れで帰ってきて両親と俺を困らせたものだ。


 父も母も子供の成長に実感を覚えるように嵐斗達の兄である颯斗も少し昔を懐かしむのであった。

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