漆黒騎士の都市伝説 (ダークナイト・フォークロア)

シカノスケ

プロローグ:黒の騎士




 ネットの海には都市伝説の類が無数に浮かんでいる。



 幽霊が出る廃墟、トンネル、公園、学校。

インターネットは情報化社会において情報の温床となりつつあった。

 多彩な情報の中には嘘と断定される物も多く、現代社会では自身の明確な意志による取捨選択が必須だ。


 ――夜の街に佇む騎士。


 ――市街で目撃した化け物。


 誰もが信じないだろうファンタジー並みの伝説も中には混じっている。


 だが、その中にこそ真実はあった。


 それは無関係の人々には語られることのない現代の御伽話おとぎばなしだ。

遠く喧騒が広がる夜の街を、少年と少女がビルの屋上から見下ろしていた。


「今夜は他に何も出ないといいけどな」


「うーん、私もそう思うけど最近物騒だし」


「物騒で済む程度ならいいけど、俺達の周りじゃ爆発くらい平気で起こってる」


「あはは、だよねぇ・・・・・・」


 黒髪黒瞳の少年が愚痴を零し、それを受けるは美しい金色の髪と深い藍色の瞳をした少女。二人は同じ学校の同級生という間柄で、夜の八時過ぎにビルの屋上にいるのはそれなりの理由がある。


「・・・・・・私は何も起こらないで一緒にいるだけでも、いいんだけどね」


 少し離れて立つパートナーに気付かれないように少女がこっそりと呟く。


「・・・・・・まあ、別に俺もそれでもいいよ」


「き、聞こえてたのっ!?」


 ビルの屋上は風が強く、消え入るような小声は拾えまいと油断していた少女はかあっと頬を赤らめた。

 並び立つ二人の夜は重く、暗く、時に都市伝説と呼ばれる非日常が立ち塞がる。


 非日常が存在するが故に、少年と少女はここにいるのだ。


「おっと、噂をしたら向こうから来たか」


 立ち上がると少年は呟き、視線の先を見た少女も同時に呼吸を入れ替える。

 視界の先には、この高さからでは豆粒のように小さく見える奇怪な都市伝説 “鋼の狼” が徘徊していた。

 遠くから見た所では狼に似た形状をしているが、全身に鎧に似た鋼を纏う奇妙としか言えない威容である。

 あれが、ここ一週間で三人が惨殺されている猟奇事件の犯人だった。


 倒すべき敵と相対すれば二人が取る手段は一つ。


 少年はこの夜の世界で己の意志を貫かんとする者の一人だ。

 漆黒の風が少年の全身を巻き、具現化するのは機械的かつ細身のフォルムを持つ漆黒の全身装甲。

 虚空を掴む右手には、夜に溶ける重苦しい黒き鋼が握り締められる。


 ネットの海の伝説で語られる名に従うならば、黒の騎士。


 都市伝説を狩る不可思議な伝説。


「じゃあ、行くか。あいつを潰す」


 事も無げに少年は少女に告げ、騎士は今日も新たな歪みを狩りに行く。

 並みの人間なら即死する高度から飛び降りてビルの側面を疾駆する。



 ―――さあ、今夜の都市伝説を始めよう。


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