クリスマスツリー

 この頃は男でも小洒落たインテリアなんかに妙に詳しい奴がゴロゴロいるらしいが、残念ながら俺も融もとんと興味が無い。

 なので、ホームセンターのクリスマスコーナーで二人して固まっている。


「いっぱいあるね」


 融の呟きに、そうだなと頷く。

 大小様々な土台のツリーに加え、山のように並べられたオーナメントの数々。この中から正しい組み合わせを選ぶなんて苦行でしかない。


 チキンのことを話して誘ったら融も美鈴ちゃんも乗り気で、二十四日の夜に集まることになった。平日ではあるが、大学が冬休みに入る美鈴ちゃんは全く問題がないそうだ。俺や融は仕事はあるものの、よっぽど羽目を外さなければ大丈夫だろうということで決定した。

 揃いも揃ってその日に予定が無いのもちょっとアレだが、残念な事実からはそっと目を背けてやるのが大人の嗜みというものだろう。


「どうする?」


 融が訊く。


「選ぶしかないだろう」

「うへえ」


 心底面倒臭そうに顔を歪める融を見ていたら、ピン、と閃いた。


「あれだな。おっさんやと写真に収めるんだから、それなりに見栄えがするものがいいな」


 うんうん、と頷きながら手近なオーナメントを摘まんでみる。


「待って!」


 そこにがっしと手を掛けて、妙に凛々しい顔をした融が俺を止めた。


「ちょっと調べるから、渚はあっちで休んでてよ」


 そう言いながらホームセンターの隅のキッズスペースを指差す。そこは自動販売機が数台と、遊ぶ子供を見守れるようにベンチも幾つか設置されている。


「そうは言っても一人じゃ大変だろう」

「ううん。大丈夫! ちょっと時間掛かるかもだから、ゆっくり休んでて」

「そうか? 悪いな」

「全然! ぴーちゃんの為だもん!」

「ぴーちゃんは幸せ者だなあ」

「幸せなのは僕の方だよ!」


 融は嬉々としてスマートフォンを操作して、いい感じのクリスマスツリーを物色し始めた。完全棒読みの俺の台詞に気づきもしないようだ。放っておけば申し分のないツリーを作り上げるだろう。


 俺も幸せだなあ。いい友達を持って。


 キッズスペースのベンチに腰掛け、紙コップのホットコーヒーを啜りながら様子を眺める。融は意外にてきぱきとカートに品物を入れていた。


 やれば出来る子なんだなあ。


 気分は孫を見守るおじいちゃんだ。

 斯くして、俺の部屋にイマドキな感じのクリスマスツリーが飾られることとなった。



 最後に、クリスマスチキンが四羽になったことを報告しておこう。


「ライスは、もち米を使ったおこわ風のやつとピラフを詰める洋風のやつがあるんだけど、どっちがいい?」


 チキン受け取りの日時を知らせた際に、おばちゃんに訊かれた。

 ショーケースの陰で、おっさんが瞳を輝かせておれの袖を引くんだ。


「ああ。じゃあ、四羽で」


 答えなんて、一つに決まってるだろう?

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