第18話・父と娘、出発

 グリフォンのクウガ。

 まん丸フワフワ真っ白の鳥で、ハヤブサのヒナに似ている。大きさは子犬ほど、重さも五キロほどだろう。成長すると、顔つきは凜々しく、身体は羽毛が茶色くなり、尾も長くなる。顔の周りだけが白い羽毛のままで、姿はハヤブサにそっくりだ。

 グリフォンの成長は早い。生まれて一月足らずで飛べるようになり、親グリフォンから狩りの仕方を習い、生後半年ほどで自立する。


 最大の特徴は知能の高さ。

 飼い慣らされたグリフォンに紋様を刻むと、亜術を使えるまでになるという。

 その知能の高さから、ハンターのバディとして使われたり、初心者魔獣使いの相棒として選ばれるのだとか。


「……と、私が知ってるのはこのくらいですな」

「な、なるほど……」


 大樹の宿・最高層にあるバーで、猛はアランからグリフォンの話を聞いていた。ハンターだの魔獣使いだの、よくわからない単語はいくつかあったが。

 この大樹は宿泊用の部屋だけでなく、飲食店もいくつかある。そのうちの1つがこのバーで、ここにある椅子やテーブルはアランの店の物だという。


「そういえば、ドロミアさんはどこへ?」

「妻でしたら、取引先の奥方たちとパーティですな。今頃、仕事の案件をいくつかもぎ取っているでしょう」

「ドロミアさんが、ですか?」

「ええ。妻はうちの家具屋の専属デザイナーなのですよ」

「そうだったんですか……じゃあ、ここの椅子テーブルも」

「ええ、妻のデザインです」


 なかなかにオシャレなデザインだ。猛はつい、バーの店内をキョロキョロ見る。

 

「と、それと、グリフォンのエサなどは」

「雑食ですので何でもよろしいかと。でも、肉が好みのようですな」

「なるほど……」


 猛は、アランからグリフォンの飼い方を聞いていた。と言っても、アランはグリフォンを飼ったことがない。知る限りの知識を提供してもらい、猛の中にある『鳥の飼い方』と照らし合わせる。

 話を聞く限り、なんとかなりそうだった。

 

「ありがとうございます、なんとかなりそうです」

「いえいえ。助けになれたようで何よりです」


 高級酒をボトルで注文し、アランのグラスに注ぐ。

 この世界でもちゃんとした瓶の酒はある。琥珀色の液体と香りからして、ウィスキーなのは間違いない。


「ささ、どうぞどうぞ」

「これはこれは……ありがとうございます」


 大人二人は、酒を飲んで盛り上がる。

 宿泊部屋では、杏奈とシェイニーがクウガにかまっているだろう。部屋も徒歩五分の距離なので、多少飲み過ぎても問題ない。


「ところでタケシ殿、奥さんは見つかりましたかな?」

「……いえ、まだです」

「むぅ……私たちも、黒髪の女性を探しつつ商談を進めたのですが、どうもサッパリでしてなぁ。力になれず、申し訳ない」

「そんな! アランさんにはすごく助けてもらいました。この町の宿もアランさんのおかげですし」


 猛は、アランに感謝していた。

 杏奈にいい友達はできたし、コボルトの集落でこんな楽しい祭りがあるなど、アランと出会わなければわからなかった。

 しばし、酒を飲みながら談笑する。


「タケシ殿。次の目的地などは決まっていますかな?」

「そうですね……人の多いところへ向かおうと考えています。やはり人捜しなら、人が多い場所でするべきですし」

「それなら、商業都市に向かうのはどうでしょう? あそこは商人たちの集まる大都市、いろいろな情報もあるでしょう」

「商業都市……」

「私の妹が洋装店を経営していましてな。紹介状を書きますので、よかったら訪ねてみてください」

「アランさん……」


 アランはにっこり頷き、猛にボトルを差し出した。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 翌日。

 明日には出発ということで、杏奈はシェイニーと思い出作りに出かけた。

 猛も、出発準備をするため、集落の店で買い物をする。

 食材や水、クウガのエサなどを買い込み、収納に入れておく。どうもこの収納、時間経過がないのか、ためしにお湯を収納して翌日出してみると、沸騰した状態のままだった。


 検証の結果、収納には『基準点』がある。

 猛の場合、新しく収納に入れた段階が基準点となる。バイクの場合だと、新品の状態で収納してあったので、どんなに破損しても一度収納すれば基準点となる新品の状態に戻ってしまう。つまり、熱々のラーメンも焼きたての焼き鳥も、ずっと熱々のまま収納できるのだ。

 それを利用すれば、こんなことも……。


「いらっしゃい! 黒オークの串焼き、一本80ドナだよ!」

「すみません。50本ほどお願いします」

「おう! ありがとよ兄さん! 二本おまけだっ!」


「いらっしゃい! 焼きたてのコボルトパンはいかが? 森の香草が入ったふわふわのパンですよー!」

「すみません、コボルトパンを……焼きたて20個ください」

「はーい。ありがとうございます!」


 猛は、祭りでしか味わえない出店の商品をたくさん買った。

 杏奈も知らないが、猛の収納の広さは半端じゃない。ガレージどころか体育館レベルの広さである。検証しようがないが、収納に困ることはない。

 猛は、冷えたエールを飲みながらコボルト祭りを漫喫していた。


「んっぐんっぐんっぐ……っぷぁ! さーて、食料はこのくらいで……お」

「あ、見つけた! お父さん!」

「杏奈……シェイニーちゃんはどうした?」

「ドロミアさんと一緒に服を買いに行った。邪魔しちゃ悪いし、あたしお父さんと雑貨屋行ってないし……」

「あ」


 そう言えば、杏奈と雑貨屋に行く約束をしていた。

 

「明日には出発するんでしょ? だったら、午後はお父さんと回ろうと思ってね」

「杏奈……よし、じゃあお父さんと回ろう。雑貨屋でも服屋でも靴屋でも、どこでもいいぞ!」

「え、マジ!? やった、行こう行こう!」

「ああ。楽しい思い出を作ろうな」


 猛は思った。

 この町に深雪はいない。黒髪の女性どころか、黒髪自体いない……。

 杏奈と自分だけが、黒い髪をしている。現に、猛は杏奈をすぐに見つけられた。


「服に帽子、サンダルと……あ、アクセサリーもいいな。コボルト祭り限定のアクセとか。あ、シェイニーちゃんとお揃いの買ってプレゼントしよっと」


 コボルト祭りはまだ続く。でも、親子の出発は明日……。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 出発の準備を終えた猛と杏奈。

 杏奈の手には、雑貨屋で買ったバスケットがあり、その中にクッションを敷いて、グリフォンのクウガを入れていた。


『ぴゅい、ぴゅい、ぴゅい!』

「はいはい。クウガってばよく食べるねー」

「成長期? だからな」

「なんで疑問系?」


 杏奈はエサ用のトカゲ肉をクウガに食べさせる。

 出発前に宿の真上にある親グリフォンの巣を見たが、すでにいなかった。どうやらエサを取りに行ったらしい。


「この子は、俺たちが育てるからな」


 猛は、一応そう伝えた。

 世話になった宿を出ると、アラン一家が待っていた。

 猛は頭を下げる。


「お世話になりました。アランさん、ドロミアさん、シェイニーちゃん」

「いえ。こちらこそ楽しい思い出ができました。タケシ殿には感謝しています」

「本当に、お世話になりました」


 猛は、アランとドロミアと深く握手をする。またの再会を約束して。

 杏奈は、シェイニーと抱き合っていた。


「シェイニーちゃぁ~んっ!」

「アンナちゃぁ~んっ!」

「また会おうね、約束!」

「うん! アンナちゃんからもらったブレスレット、大事にするね!」

「うん。お揃い!」


 杏奈には、とても優しいコボルトの女友達ができた。それを嬉しく思い、猛もシェイニーと握手する。

 ちなみに、アランたちは祭りの終わりまで滞在し、それからゆっくり帰るそうだ。

 最後に、もう一度別れの挨拶をして、猛たちはゴリラゴンドラで降り、集落を後にした。

 集落入口まで徒歩で向かい、猛は地図を広げる。


「次は商業都市ポワレに向かう。アランさんの妹が洋装店をやっているらしくてな。そこで深雪の情報を集めよう」

「うん! 商業都市かぁ……」

「かなり遠いぞ。途中、いくつか村や町を経由しないと……」

「うーん、冒険っぽくなってきた! ね、クウガ!」

『ぴゅい、ぴゅい、ぴゅい、ぴゅい!』

「さて、久しぶりに行くか」


 猛は収納からハーレーダビッドソンを召喚し、少し不格好になってしまうが、クウガの入ったバスケットをシート後部に括り付ける。


「今日から一緒に冒険! 楽しみだねクウガ!」

『ぴゅいぴゅい!』

「嬉しいってさ、お父さん!」

「そうか? なぁ、お前が言っていたペット枠? は、クウガでいいのか?」

「うん! 真っ白モフモフで可愛い♪」

「二ヶ月もすればハヤブサみたいな猛禽類になるぞ」

「今が可愛ければいいの!」


 猛はハーレーダビッドソンのエンジンを掛ける。重低音の唸り声が、祭りで緩んだ猛の気を引き締める。


「うん。久しぶりだ……元気にしてたか?」

「お父さんお父さん、行こう!」

「ああ。行こうか」


 アクセルを吹かし、ギアを入れ、アクセルを捻る。

 楽しかったコボルト祭りはまだ続いている。でも、猛たちの旅は再開された。

 目指すは商業都市。まだまだ先は長そうだ。



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オーバー30歳主人公コンテスト作品。週間ランク最高1位!


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