第34話火竜見学に行きました

 しっかり休んで翌日、俺はホテルを出て街を歩いていた。


「ん、なんだありゃ?」


 大通りに面した店に、人だかりが出来ている。


「人が集まってるにゃ!」

「何かやっているのだ。行ってみるのだ」


 二人も興味を示したようだ。もちろん俺もである。

 俺は吸い寄せられるようにそこへ向かった。

 だが人が多くて中に入れない。

 しかもリザードマンたちは背も高く身体が大きいので、奥も見えない。


「すみません、ちょっと通してください」


 人だかりをかき分け中に入っていくと、看板を持ったリザードマンが立っていた。


「さぁいらっしゃいいらっしゃい! 見られるのは月に一度、火竜観光ツアー大募集中だよー!」


 火竜、その単語に反応する。

 すなわちドラゴン、ファンタジーにおける花形の一つである。

 折角異世界に来たんだし、一度は見てみたかったんだよな。


「なぁクロ、火竜って見たことあるか?」

「にゃ、火山に住むでっかい竜だにゃ。ばあさんが前に戦った事あるにゃ。すっごく強かったから憶えてるにゃあ」


 あのクロですら憶えているインパクト。

 こりゃ期待大である。

 リザードマンが手に持つ看板には「安全の為、遠くからの見学となります。ご了承ください」と書かれていた。

 遠くから見るだけなら安全だろうし、参加しない手はない。

 俺は早速手を上げた。


「はい! 参加します!」

「あいよっ! お一人様ご案内! ……って旅人さんじゃあないか!」


 俺の顔を見たリザードマンが驚いて声を上げる。


「私だよ! 昨日踊っていただろう? いやぁ縁があるねぇ」

「あ! あの時の!」


 先日俺に声をかけてきたリザードマンである。

 なるほど、昼間は観光屋をやっているのか。

 だから旅人である俺に声をかけたのだろう。


「参加するのかい? なら金貨一枚だよ。使い魔二人の値段はサービスだ」

「ぜひお願いします」


 というわけで参加することにしたのである。

 参加費がお高めだったからか、群がっていた人たちは金額を聞いて帰ってしまった。


「参加者は……ひーふーみー……十人か。まぁいいさね、では出発と行こうかね!」


 観光屋のリザードマンは指折り数えると、俺たちを連れて店の裏へ行く。

 そこには巨大なトカゲがいた。

 背中には椅子が取り付けられており、日除けの幌もある。


「おっきいトカゲだにゃあ」

「こいつはサンドリザード、暑い場所でも平気な顔して走れるというすごい奴さ! こいつで火竜のいる火山へ行くよ! さぁ乗った乗った」


 俺たちは促されるまま、サンドリザードの背に乗った。

 鞭で叩くと、サンドリザードは高い声で鳴いて走り始めた。


「おわわわわっ! け、結構速いな!?」


 サンドリザードの速度は相当に速く、椅子にしがみついてないと振り落とされそうだ。


「にゃにゃにゃにゃにゃ!? ゆゆゆ揺れるにゃああああ!?」


 がくがく揺さぶられながら声を上げるクロ。

 だがその表情はどことなく楽しそうである。


「ここから火山に登って行くよ !更に揺れるからしっかり掴まってるんだよ!」

「にゃああああああっ!」


 火山付近は大岩が転がっており、サンドリザードはそれを踏みしめながらも速度は緩めない。

 結果、超揺れる。

 うっぷ、気持ち悪くなってきた……


「ユキタカ、大丈夫かにゃ?」

「ヤバイかも……」


 視界がぐるぐる回り始めた。

 マズい、これ以上は耐えられん。

 そうだ、確かいいのがあったはず……

 揺れる中、俺は鞄の中からやっとの思いで小瓶を取り出す。

 これは万能薬、あらゆる状態異常をたちどころに治すという薬だ。

 毒だろうが病だろうが、もちろん乗り物酔いだろうが問題なく治療するのである。


「うぐぐ……これさえ飲めば……」


 俺は万能薬を一粒手に取ると、一息に飲み干した。

 途端、頭の中がすーっとクリアになっていく。

 おお! 今までの苦しみが嘘のようだ。


「ふぅ、なんとか回復したぜ」

「よかったのだ」

「にゃ!」


 万能薬のおかげで回復した俺は、サンドリザードの乗り心地を堪能したのだった。


「みんな、お疲れ様! 到着だよ!」


 火山の頂上にて、ようやくサンドリザードが足を止める。

 ようやく着いたか。

 他の客たちもその乗り心地には大分参っているようで、岩陰に行ってゲロゲロ吐いている。

 うーん、あの人たちしんどそうだな。

 同じ乗り物酔いの苦しみを受けた身としては、放っておけない。


「雪だるま、ちょっと氷水を出してくれ」

「? わかったのだ」


 グラスを用意し、その中に氷水を入れてもらう。

 乗り物酔いには氷水を飲むと、自律神経が刺激されすっきりするのだ。


「どうぞ、これ飲んでください」

「あ、どうも……」


 他の客たちに氷水を配っていく。

 ぐったりしていた客たちだったが、氷水を飲むと少しは楽になったのか顔色がマシになっていた……ように見える。


「おや旅人さん、親切だねぇ」

「いやまぁ、出来ることをしていただけですよ」

「そうは言っても中々できる事じゃないよ。うん、それにサンドリザードに乗って酔わないのも大したもんだ」

「ハハ……」


 まぁ酔ってたんだけどな。万能薬がなければ今頃俺も同じ目に合っていただろう。


「気に入ったよ旅人さん。アンタの名前を教えておくれ」

「ユキタカと言います」

「そうかい、変わってるがいい名前だ。私はタバサ、よろしくね」

「よろしくお願いします。タバサさん」


 タバサと名乗ったリザードマンが差し出してきた手を握り返した。

 なんだか魔女みたいな名前である。

 それにしても昨日から何度も会う人だな。

 奇妙な縁を感じるぜ。

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