第24話雪だるまは丈夫でした

 ドドドドド、と雪煙を上げながらヘルメスを走らせる。

 複座席にはクロ、後部席には雪だるまが乗っている。

 雪国ラティエからヘルメスを走らせること半日、積もりに積もっていた雪もかなり少なくなってきた。


「そういえばユキタカ、次はどこ行くのかにゃ?」

「あぁ、火の国モーカを目指そうと思ってな」


 雪の国ラティエから西に五百キロくらいの距離に、沢山の火山有する火の国モーカがある。

 マーリンに聞いたが常にどこかしら火山が噴火している国で、人々も負けじと毎日どこかで祭りを開いているとか。

 多様な種族が入り交じり、良くも悪くも雑多で活気に満ち溢れた国とのことだ。

 祭りは好きだし、火山ってのも見てみたかったのだ。


「あ、火の国だからって別にすごく暑い訳じゃないらしいが……大丈夫か? 雪だるま」


 少々暑い場所でも平気だと言っていたが、念の為聞いておく。

 これから道中を共にする仲間だし、同意くらいは取っておかないとな。

 雪だるまは心配無用と言わんばかりに、ゆっくりと首を振った。


「大丈夫なのだ。この身体にはローザさまから頂いた永遠の氷結石が埋め込まれているのだ。これは氷の城にも使われているもので、けして溶けず冷気を出し続けるのだ。火口にでも落とされない限りは大丈夫なのだ」


 火口に落とされたら大体の奴は死ぬと思うぞ。


「そ、そうか。まぁ、無理そうだったら早めに言ってくれよな」

「わかったのだ」


 雪国を離れ、大分気温も上がったが雪だるまは気にする様子もない。

 思ったより大丈夫なようだが……何せ見た目が雪だるまだからなぁ。

 すぐどろっとなりそうなイメージがある。

 仲間になった直後にサヨナラは嫌だからな。

 一応気は使っておこう。


 しばらく走ると日が暮れてきた。

 もう雪は殆どなくなっており、辺りは何もない荒野になっていた。

 先は長いし、今日はこのくらいにしておくか。

 俺はヘルメスを停め、大きく伸びをした。

 ふぃー背骨がポキポキいってるぜ。

 長時間座りっぱなしだったからなぁ。


「今日はここで休もうか。夕飯は何がいい?」

「肉にゃ!」


 クロが真っ先に手を上げる。


「……よし、じゃあ肉にしよう。雪だるまも構わないか?」

「自分は特に好き嫌いはないのだ」

「よろしい。……でもグレイウルフの肉はもうないぞ。食べたいなら自分で獲ってくるんだな」

「任せるにゃ!」


 クロはそう言うと、ぴょんと一跳ねして荒野へと消えていく。


「さて、クロが帰ってくるまでに食事の準備をしておくかね」

「自分も手伝うのだ」

「おう……と言っても今回は別に冷やしてもらう必要はないからなぁ。野菜を切るだけなんだが……」

「問題ないのだ。野菜を貸して欲しいのだ」

「そういう事なら……」


 俺はニンジンを一本、雪だるまに渡した。

 すると――雪だるまの手から氷が生まれ、刃状に伸びていく。

 氷の包丁だ。それを目に見えない速度で振るう。


「ふっ!」


 気合いの掛け声と共に無数の乱撃が走り、空中でニンジンが踊る。

 おわ、すげぇ包丁さばきだ。

 料理漫画を見てるみたいだぞ。

 ばらばらと落ちてくるニンジンを、精霊刀を形状変化させて作ったフライパンで受ける。


「さ、どんどん寄越すのだ」

「おう、どんどん頼むぜ」


 こりゃ便利だ。

 野菜を切るのは地味に面倒だったからな。

 まさか雪だるまにこんな特技があったとは。

 これからは料理が楽になりそうである。


「――む」


 いきなり雪だるまが難しい顔をした。


「どうした?」

「魔物が近くにいるのだ」

「何っ!? ど、どこだ!?」


 しまった、先に家を出しておくべきだった。

 そうすれば結界で魔物は近寄れなかったのに。


「ユキタカ殿、自分の後ろにいるのだ」

「おう!」


 言われるがまま、俺は雪だるまの背中に隠れる。

 いまさらだが俺の戦闘力はゼロだ。

 魔物にちょっと撫でられただけで死ぬ自信がある。

 しん――と静寂が支配する中、地面がモコリと盛り上がった。


「シャアアアアアアア!」


 勢いよく出てきたのは蛇だ。

 俺の身長の三倍はありそうな大蛇である。


「パイロコブラ、長い身体で獲物を締め付け、毒の牙でトドメを刺す、大蛇の魔物なのだ」

「解説はいいから早く倒してくれっ!」

「わかったのだ」

「シャーーーッ!」


 パイロコブラが鋭い牙を剥き、襲い掛かってくる。

 ぎゃー! 死ぬー! 殺されるー!

 恐怖に思わず目を瞑る。


 ……

 …………


 暗闇の中、ゴトリと何かが落ちる音がした。

 恐る恐る目を開けると、輪切りにされたパイロコブラが転がっていた。

 何という切れ味、分厚いパイロコブラの肉を骨ごと断ち切っている。

 雪だるまの手からは輝く剣が伸びていた。

 氷の包丁の剣バージョンと言ったところだろうか。

 見惚れるほど美しい刃である。


「――大丈夫だったのだ?」


 そう言って振り返る雪だるま。

 夕日を背にし、剣を携えるその姿は何とも絵になるものだった。

 安心した俺はぺたんと尻餅をついた。


「ふぃー……助かったぜ雪だるま」

「お安い御用なのだ」

「強かったんだなぁ。しかし氷の剣とかかっこよすぎだろ。それ、名前とかあったりするのか?」

氷刃ヒバという剣なのだ。ローザさま直伝なのだ」


 雪だるまは誇らしげに答える。

 おおっ、厨二心をくすぐるいいネーミングセンスじゃあないか。


「かっけぇな!」

「そ、そんな事より料理を続けるのだ」


 俺が誉めると、雪だるまは照れたのか顔を赤らめた。

 からかってるわけじゃないんだけどな。


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