第17話食後のかき氷を食べました

「ふぅ、満腹になったらちょっと暑くなってきたな」


 すき焼きを食い終えた俺は、少し汗ばんでいた。

 ずっと火の前にいたからな。

 部屋もその熱気で、結構な温度になっている。

 上着を脱いで、ソファーにごろりと横たわる。

 窓の外では吹雪がさらに強まっていた。


「……そうだ、いいこと思いついたぞ」


 外の雪を見ていてピーンと来たのだ。

 この火照った身体を冷ますのに、丁度いいものがある。


「ユキタカ、どこへ行くにゃ?」

「ちょっとな」


 俺は大きめのグラスを二つ持って、扉を開け外に出る。

 火照った身体に冷たい外気が心地よい。

 グラスを外へ向けると、そこへ雪がどんどん入っていく。

 それを押し込み、固め、盛っていく。


「……うん、こんなもんかな」


 こんもりと雪の入ったグラスを持って、部屋に戻る。


「それ、何にゃ?」

「かき氷さ」


 言わずと知れた夏の定番スイーツ、それを降りしきる雪で代用しようというのだ。

 雪だからかき氷じゃないかもしれない。

 かき雪? まぁかき氷でいいか。


「ここにシロップを投入だ」


 鞄からシロップを取り出し、氷の上にかけていく。

 これは森の果実で作ったもので、イチゴにグレープ、マンゴーと多彩だ。

 もちろん練乳もある。

 こっちはマーリンが手に入れた牛の乳から作った。

 料理屋でバイトしていたこともあるので、この手の知識は普通よりあるのだ。

 なおブルーハワイはない模様。


「とりあえず王道のイチゴ練乳を作ってみるか」


 氷の上にイチゴシロップをたっぷりとかけると、氷とシロップが反射してキラキラ輝いて見える。

 クロはそれを見て、目を輝かせた。


「うにゃあ、宝石みたいにキレイだにゃあ」


 食い入るように見つめるクロ。

 その上からさらに練乳を投下。

 鮮やかな赤色に練乳の白が混じり、見事なコントラストが生まれた。


「完成だ。食べていいぞ」

「にゃっ!」


 早速食べ始めるクロ。

 俺はマンゴーにしようかな。

 練乳は全体にかけず、半分だけにしておく。

 練乳は口に残るので、あとでマンゴーだけの部分を食べたい。

 スプーンで練乳をかけた部分を混ぜ、一口。

 んー、甘い。

 氷と練乳とフルーツの見事なコラボである。

 冷たい甘味が火照った身体に染み渡る。

 でもゆっくり食べないと、キーンって頭が痛くなるからな。

 一口一口、ゆっくり噛みしめて食べよう。


「あ、そういえばクロ。あまり急いで食べない方がいいぞ。頭がキーンってなるからな」

「……もうなってるにゃあ……」


 どうやら忠告が遅かったようである。

 クロは頭を抱えてのたうち回っていた。

 それでも往生際悪く、時折かき氷をペロペロ舐めている。


「でもこれ、とっても甘くて美味しいにゃ!」


 しばらくすると回復したのか、またさっきのようにガツガツ食べ始める。

 ったく、また頭キーンってなっても知らないぞ。


「おっ、雪が止んできたな」


 窓の外を見ると、吹雪が弱まっていた。

 ぼんやりと雪原を眺めていると、空が光っているのが見える。

 赤や黄色、白……様々な光が空から降り注いでいる。


「あれはまさか、オーロラか!」


 これはすごいな。

 色々条件が揃わないと見られないらしいが、こんなところで見られるとは思わなかった。

 光のカーテンというか、雨のようだな。

 神秘的でとても綺麗だ。

 あったかい部屋でオーロラ見ながらかき氷を食べるって、思えばすごい状況だよな。


「にゃあああああ……」


 クロはそれどころではないのか、また頭を抑えて蹲っていた。

 だから言ったのに……懲りない奴である。


「おや、あれはなんだ?」


 オーロラの下に、何か妙な物が見える。

 最初は山かと思ったが、その割にはとんがっており、雪山というよりは氷の山といった感じだ。

 よくよく見れば建築物に見えてきた。

 家……いや、塔か?


「あれは魔女の城にゃ」


 のろのろと俺の膝に乗ってきたクロが答える。

 どうやらかき氷のダメージは回復したようである。


「にゃ、思い出したにゃ! 確かばあさんの友だちの魔女がこの街にいて、昔遊びに来たことがあったにゃ! さっきの滑り台もその魔女が作ったにゃあ!」


 そういえばマーリンには魔女の友人が何人かいると聞いたことがある。

 マーリンに世話になった身としては、旅の途中にその魔女たちに会うことがあれば、一言挨拶をしておきたいと思っていたのだ。

 それをクロにも話すと、街を訪れた時は教えてくれると言っていた。

 ボクに任せるにゃ!とか自信満々に、だ。


「……なんでそれを早く言わなかったんだよ。友人の近くに来たら挨拶しとこうって言っただろ」

「忘れてたにゃ!」


 あっけらかんとした顔で答えるクロを見て、俺は大きなため息を吐いた。

 うん、クロの記憶力に期待した俺が悪かった。


「……はぁ、まぁいいけどさ。じゃあ明日、その魔女のところへ行こうぜ」

「にゃ!」


 クロは溶けたかき氷の汁をペロペロ舐めながら答えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る