第13話てんぷらにしてみました

「よっ!」

「ほっ!」

「たっ!」


 リズムよく魚を釣っていく。

 垂らしてすぐに釣れるので、めちゃめちゃ楽しい。

 店主からもらったバケツには、既に十匹の魚が泳いでいた。

 小ぶりのワカサギだが、美味そうだ。

 クロはさっきから水の中のワカサギを興味深々といった顔で見ている。


「ユキタカ、食べていいかにゃ?」

「淡水魚には寄生虫がいるから生で食べない方がいいぞ。……まぁでも腹も減ったし、軽くメシにでもするか」

「にゃっ!」


 俺は釣り場を離れ、池の外へ行く。

 ここなら調理しても目立ちはしないだろう。

 釣りを休憩し、調理している人もいるしな。


「ワカサギは天ぷらにして食べると美味いらしいし、やってみるか」


 ワカサギ釣りの後は、天ぷらにして食べるのをテレビでよく見たからな。

 せっかくだし試してみよう。


「天ぷらは大好きにゃ!」


 クロは俺の肩に乗り、嬉しそうに尻尾をぶんぶん振っている。

 じゃあ御要望にお答えしますかね。

 俺は精霊刀を取り出し、地の精霊に呼びかけ岩でフライパンを生成した。


「地の精霊さん、油もよろしく」


 俺が頼むと、フライパンの上にジワリと油が浮き出てくる。

 これは植物性の油で、地の精霊は少量であれば植物を育てたり、そこから成分を抽出したりも出来るのだ。

 今度は火の精霊に呼びかけ、加熱していく。


「その間にワカサギの処理をしてしまうか」


 小さいし丸ごとでもいいだろう。

 鞄から天ぷら粉を取り出し、ワカサギにパッパとかけていく。

 まだ跳ねているな。釣りたてだから元気いっぱいだ。


 そうしてる間に、フライパンの方はその間に十分温まっているようだ。

 油の底からプツプツと小さな泡が出始めている。

 俺は天ぷら粉をまぶしたワカサギをその中へ投入した。


 ジュっと音がして、香ばしい匂いが辺りに漂う。

 クロも俺の肩で揚げ終えるのをじっと見ている。

 ヨダレが垂れて落ちてきてるぞ。

 あっという間にきつね色になった天ぷらを箸で取り上げ、皿に盛り付ける。


「よし、ワカサギの天ぷら出来上がりだ」

「とってもいい匂いにゃ!美味しそうにゃ!いただきますにゃ!」

「まぁ待て」


 すかさず食べようとするクロを止める。

 そのまま食べるのもいいが、猫舌のクロにはこちらの方が好みだろう。

 俺は鞄からめんつゆを取り出し、小皿に注いだ。

 ワカサギをそれにくぐらせ、クロの口元に運んでやる。


「ほら、食べな」

「にゃ!はふふふ、にゃふっ!ほふっ!」


 めんつゆで少し冷めたとはいえ、揚げたての天ぷらは随分熱いらしく中々食べられずにいるようだ。

 口で何度もお手玉をして、ようやく口に含む。

 恐る恐るといった風に咀嚼し、ごくんと飲み込んで一言。


「……美味いにゃ!」


 と言って、パッと顔を輝かせる。

 相変わらず美味そうに食べてくれるぜ。

 俺もいただくとするか。

 揚げたてのワカサギをめんつゆでサッとくぐらせ、パクッと一口。


「ん、美味い!」


 カリカリの衣の食感と、それに絡みつくめんつゆの甘じょっぱさが、新鮮なワカサギの旨味を最大限に高めている。

 幾らでも食べられそうだ。


「にゃっ!にゃっ!」


 それはクロも同じようで、凄い勢いで食べている。

 ワカサギの天ぷらはあっという間になくなってしまった。


「ふにゃあ、腹八分目にゃ」

「俺は六分目くらいだけどな」


 半分以上クロが食べたので、俺は満足いくほど食べられなかったのだ。


「……ごめんにゃ」


 クロはしゅんとして頭を下げた。


「別にいいけどよ。また釣ってやりたいところだが……あいにくもう餌がないんだよな」


 練り餌だから再利用出来ないし、俺もあまり上手くはないのですぐ餌を食わせてしまっていたからな。

 店主から貰った餌瓶はもう空っぽである。


「にゃ!ならお詫びにボクが代わりに魚を獲るにゃ!」


 そう言うと、クロの毛がふわりと逆立つ。

 氷に円形の亀裂が入り、切り取られた氷がどぽんと水中に沈んだ。

 そのすぐ後、水中から魚が次々浮かんでくる。

 どうやら魔法で捕まえてきているようだ。


「ふふん、どうにゃユキタカ!」

「おいおい、そういう目立つ行為はやめろって」

「えー、ダメなのかにゃ」

「ダメだ」

「ふにゃあ……」


 俺の言葉に項垂れると、クロは魔法を解除した。

 魚が地面に落ちて、ピチピチ跳ねている。

 ふぅ、とりあえず周りの人たちに見られてはいないようだ。


「ここは釣り堀だから、魔法で捕まえると怒られるぞ」

「わかったにゃ。次はやらないにゃん」

「わかればよろしい」


 クロの頭をよしよしと撫でると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。


「ユキタカ、これは池に返すかにゃ?」

「うーん……折角だし、いただいておこう」


 まだちょっと腹は減ってるしな。

 クロの気持ちを無下にするのも悪い気がするし。


「にゃ、にゃ、にゃ」

「はいはい、すぐに作ってやるから待ってな」


 俺は嬉しそうに尻尾を振るクロにそう言って、調理を再開する。

 先刻と同様に天ぷらで揚げて食べた。

 今度は塩でいただいたが、これはこれで美味だった。

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