第22話 双頭の槍

          


 名取四郎を放り投げると漆黒の右腕は何事もなかったように見事にくっついている。

 左腕は砕けたままだが、直ぐに再生し始めた。驚くほどの速さで再生してしまう。

――まるで時が巻き戻るように。

 既に基経の躰は駆け出していた。

 四郎の元へ。

「おやじ!」

「おう、基経か?」

「ああ。俺だ!」

「俺の戦いは見たか?」

「見たけど……」

「それならもう大丈夫だ」

 そう目をつぶる。

「なにが大丈夫なんだよ。こんなに血が出てるじゃないかよ」

 既に地面には赤い水たまりができていた。

「いいんだ。まだ休むわけにはいかない。大丈夫だよ。あいつは俺が何とかする」

「何とかするって? こんな躰で、どうするってんだよ!」

「心配するな。お前泣いているのか」

 そう四郎は微笑んで基経の涙を拭う。

 基経は両手で四郎の右手を握り締めると、刹那――先ほどまで温かかった温もり事が、今は両手から消えてしまった。

 基経は気配を感じ振り向いた。

 漆黒とは六間ほどの間合いがあったが、次に見えたのは太い幹のような漆黒の物体だった。

 基経は地を蹴ろうとしたが間に合わなかった。

 漆黒のうねりは無拍子で基経の首を薙ぐ。


 ――何もできなかった。

 基経は自分が死んだと思った。

 だが、まだ生きていた。

 松葉尋まつばじんの背中があった。

 両手で黒い棒を握っている。

 その先が蒼白く煌めいて見せた。

 それは六尺はある双頭の槍だった。




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