第6話《彼女の名前》


「よーし、全員揃ってるな。私がこの一年三組の担任を務める事になった、釘宮成俊くぎみやなるとしだ。これから一年、よろしくな」


教壇に立って自己紹介した釘宮先生は若く見え、二十代なのは間違いなさそうだった。


「新しい学校、クラス、先生でまだまだ慣れないだろうが、このあとは入学式だ。入学式の流れを今から説明するからな。ちゃんと聞いておけよ〜」


それから釘宮先生による入学式の説明が始まった。


「まず、入学式のプログラムが書かれたプリントを配るぞ。配られたら後ろに回してくれ。よく目を通しておけよ」


前の眼鏡をかけた生徒からプリントが回され、それを一通り眺めてみる。

それによれば


【体育館に出席番号順の列で入場

 国歌斉唱

 入学許可宣言

 学校長式辞

 来賓祝辞

 来賓紹介・祝電披露

 歓迎の言葉

 新入生代表の言葉

 校歌斉唱

 閉式の辞          

             以上】

 

何ら特徴のない式だ。

まぁ、入学式に面白みを求めたりするのがそもそも間違っているのだろうが。

入学式の説明が終わった時、チャイムが鳴り移動開始の放送が入った。

俺達は出席番号順に整列し、体育館に向かった。


   ***


予想通りなんの面白みもトラブルもなく入学式は終了した。


「よ~し、じゃあ一人一人自己紹介していこうか。出席番号一番からな」


いよいよ待ちに待った自己紹介が始まった。

やっと彼女の名前を知ることができるのだ。

自己紹介はどんどん進んでいき、シンの出番になった。


「花田新屋です!人生で一番幸せを感じるのはゲームをしているときです!よろしくお願いします!」


シンの自己紹介で、クラスが笑いに包まれた。

流石シンだ。

こんな緊張する状況でも、平常運転だ。

シンの自己紹介が終わり次の生徒が話し始める。

次々自己紹介が終わっていき、あっという間に俺の番になった。


「柳悠一です!好きな食べ物は博多の豚骨ラーメンです!これから一年間よろしくお願いします!」


軽く拍手が起こり、次の生徒が立ち上がり自己紹介を始める。

もう少しだ……もう少しで彼女の名前を知れる。

そしてすぐに、彼女な出番がやってきた。


渡部秀樹わたべひできです!」


ん?

ちょっと待て……俺の聞き間違いか?

今、渡部秀樹って男の名前が聞こえた気がするんだが……気のせいだよな、うん、そうに違いない。

こんな可愛い娘が男なんてあり得ないもんな、うん。

俺の聞き間違いか……あとで彼女の名前をもう一度聞かないと……


「好きな食べ物はラーメンです!よろしくお願いします!」


ラ、ラーメンだと……それって男が好きな食べ物じゃないのか?

で、でも俺のお母さんもラーメン好きだったからありえるよな……うん。


「よ~し、自己紹介終わったな。まぁ不安なこともあるだろうがこれから一年、一緒に頑張っていこう!じゃあ、解散!」


俺は早速彼女に尋ねてみる。


「ね、ねえ……君の名前よく聞こえなかったから、もう一度言ってもらってもいいかな……?」


「え?うん、いいよ。僕の名前は渡部秀樹だよ。よろしくね、柳くん!」


「う、うん……よろしく……」


今、確かに渡部秀樹という、間違いなく男の名前を言った……それは……つまり……彼女は……


男ーーーーーーーーーー!!??


こうして、俺の初恋は考えられないほど最悪の結果で幕を閉じた。

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