第1話《初めての恋》

今日は4月8日、千葉県立浜野高校の入学式の前日だ。

俺は小学校からの腐れ縁で、なんと高校も同じという親友の花田新屋はやだしんやとゲームセンターに来ている。


「ふう……このゲーム、結構キツいな……。なあ、ユウ」


「はは、そうだな。初めてやったけど、見た目よりキツいな。もうやめとくか」


新屋は俺のことをユウと呼び、俺は新屋をシンと呼ぶ。


「じゃ、どっかに飯食いに行こうぜ。そろそろ昼だしな」


「そうだな。シンはどこ行きたいんだ?」


「いつもの豚骨ラーメン店でどうだ?ユウ、あの店の豚骨ラーメン好きだろ。俺も好きだからさ」


「ああ。異論なしだ。早速行こうぜ」


新屋は俺のことをユウと呼び、俺は新屋をシンと呼んでいる。

この呼び名は小学校の時からずっと変わっていない。

豚骨ラーメンが好きな理由は、豚骨ラーメンが交通事故で死んだ母さんとの思い出の料理だからだ。

シンもそのことを知っていて、母さんが死んですぐのときはよく豚骨ラーメンをおごってくれたものだ。

それからずっとシンとは親友だ。

そのシンと他愛もない話しながら歩いているといつの間にか目的のラーメン店に着いていた。


「いらっしゃーい!!」


「親父さん、いつもの2つ」


「あいよ!!ちょっと待っとけよ!!」


いつものとは、博多の豚骨ラーメンだ。

トッピングはメンマにネギ、もやしと卵という一般的なラーメンでとても美味しい。

俺の思い出の味だ。


「へいお待ち!!いつものだ!!」


「ありがとうございます。親父さん」


「ありがとうございます」


「おうよ!!さあ、食え食え!!」


「「いただきます!」」


このラーメンはいつもと同じ味でとても美味しい。

そのラーメンを食べていると、親父さんが話しかけてきた。


「で、悠一。お前さん、好きな人できたか?」


「はぁ……。またその話か……。できてないよ、まだ」


「ユウ、マジで恋したことないよな。大丈夫か?初恋まだとかヤバすぎるぞ」


「そうだぞ悠一。女優とかアイドルを可愛いと思えないとか重症だぞ」


「う……じ、自分でも分かってるよ……。でも、どうしても思えないんだ」


俺もこんな自分が嫌だ。

しかし、どれだけ好きになろうと思ってもできなかったのだ。


「はぁー……。もうお前可愛いと思える人探しまくれよ。案外その辺にいるかもしれねえぞ」


「冗談はやめてくれ……これでも結構悩んでるんだよ」


「いや、冗談じゃねえよ。マジで探してみろよ。俺はお前のことを思って言ってるんだ」


「分かってるよ……ありがとう」


そんなことを話している間に俺はラーメンを食べ終えた。


「親父さん、ごちそうさまでした。俺そろそろ帰るわ。また明日、高校で」


「了解ー、また明日なー」


俺も自分が女の子を好きになれないことに危機感を持っている。

でも、本当に好きだと思える人ができないのだ。

シンが言う通りその辺にいないものか。

そんなことを思いながら家に向かって歩いていると、人が通り過ぎた。


「え……今の、娘……」


可愛い


素直にそう思った。



それからのことは、あまりよく覚えていない。

気づいたら自分の家の前に立っていた。


「ただいま……」


「おかえりー!お兄ちゃん!早かったねー。もうちょっと遅くなると思ってたよー」


家に入ると妹の文加ふみかが出迎えてくれた。


「そうか……」


「お兄ちゃん、なんか上の空だよ……。何かあったの?私でよければだけど相談乗るよ?」


「いや……大丈夫だ……問題ない……」


「それ大丈夫じゃない人のセリフだよお兄ちゃん!?」


「ごめん……。一人にしてくれないか……?心の整理ができたら相談するからさ……」


「そ、そっか……。お兄ちゃんがそう言うなら……わかったよ……」


「ありがとな、文加」


俺は階段を上がって左手にある自分の部屋に入った。

ベットに寝転がって一度心を落ち着かせようとする。

しかし、あの娘の姿が脳裏に焼け付いたまま離れず、心は落ち着くどころか更に激しさを増していく。

顔がどんどん朱色に染まっていくのを感じ、どうしようもない状態になってしまったのが分かる。

これが、人を好きになると言うことなのだろう。

俺はこのとき初めてこれが恋なんだと、そして初恋なんだと実感した。


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